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JAL・ANA「国内線共同運航」は実現するか…”実質赤字”の苦境が生んだ異例の蜜月

2026.03.14 05:55 2026.03.14 00:32 企業

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●この記事のポイント
JAL・ANAが2025年、グランドハンドリング機材の共同利用と国内75空港でのシステム統一を実施。ビジネス客消失・円安・人件費高騰により国内線が”実質赤字”構造に陥るなか、コードシェア実現に向けた地ならしが加速。独占禁止法・マイレージ棲み分け・安全基準の3つのハードルを検証する。

「JALとANAが手を組む」——少し前まで、そう聞けば業界関係者は苦笑いするしかなかった。かつて熾烈なシェア争いを繰り広げ、互いの路線に対抗ダイヤを投入し続けた両社は、長らく「航空2強の不倶戴天の敵」として語られてきた。

 しかし、2024年から2025年にかけての動きは様相を一変させた。グランドハンドリング(地上支援業務)の機材共同利用、国内75空港での搭乗ゲート・保安検査システムの統一化——。これらは単なる「コスト削減策」ではなく、業界再編の前触れとも読み取れる構造変化だ。

 ポストコロナの黒字化報道の陰で、国内線の収益構造はいまだ修復されていない。旅客数が戻っても、利益が戻らない。そのパラドックスが、かつてのライバルを協調へと向かわせている。

●目次

国内線の不都合な真実…旅客数は回復しても利益は戻らない

●ビジネス客という「高単価の柱」の喪失

 コロナ禍を経て定着したリモート会議は、国内線にとって致命的なダメージを与えた。東京—大阪、東京—福岡といった幹線の主力顧客だったビジネスパーソンの多くが、出張そのものを大幅に削減したのだ。

 JALの開示資料によれば、国内線の旅客数は2024年度にコロナ前水準に近づいたものの、収入単価の回復は旅客数の回復に追いついていない。理由は明白だ。ビジネスクラスや正規運賃での搭乗が減り、観光目的の早割・割引運賃が売上の大半を占めるようになったからである。

「コロナ前、国内幹線の収益の6割はビジネス客の正規運賃が支えていた。それが3割を切っている路線すら珍しくなくなった今、従来の路線維持モデルは根本から崩れています。旅客が増えているのに利益が薄い『見た目の回復』こそが、経営判断を急がせる最大の要因です」(中村哲也/元大手航空会社収益管理部長・航空経営コンサルタント)

●レジャー需要の「量は多いが単価は低い」という構造的矛盾

 訪日外国人の急増や国内観光需要の高まりは、一見すると追い風に見える。だが、レジャー客が選ぶのはLCC(格安航空会社)対抗の超割引運賃か、早期予約割引がほとんどだ。ANAが2023年に導入した「シンプルプライス」、JALの「ウルトラ先得」などの低価格商品群が販売の主力となっており、客単価の引き下げを自ら進めているに等しい。

 LCCとの競合を避けられない以上、フルサービスキャリア(FSC)としての価格優位性は消滅しつつある。それでも機内サービス・整備・訓練コストは変わらない。結果として、国内線は「量で稼いでコストで消す」という収支構造に陥っている。

●「公租公課の減免」と補助金なしには成立しない採算

 見落とされがちなのが、コロナ対策として続いた空港使用料の減免措置や燃油高騰に伴う補助金の問題だ。国土交通省は段階的に減免を縮小しているが、それが利益を直撃している。航空アナリストの試算では、これらの特例措置を除いた場合、国内線単体では実質的な赤字に転落する路線が幹線を含めて複数存在するとされる。

 加えて、原油価格の高止まりと歴史的な円安が燃油コストを押し上げ、パイロットや整備士の人材不足による人件費高騰がダブルパンチとなっている。「黒字」という言葉の裏に、経営の断崖が迫っている——それが国内線の現実だ。

着々と進む「地ならし」…すでに始まっている共闘のフェーズ

●地方路線での「系列越え」の成功体験

 両社の協調は、突然始まったわけではない。2022年以降、九州を中心に伏線は張られていた。JALグループのオリエンタルエアブリッジ(ORC)とANAグループ系列との実務的な協力体制が、コードシェアの形で静かに進行していた。長崎や対馬、五島といった離島路線では、便数の維持自体が社会インフラとしての意味を持つ。採算よりも「路線の存続」が優先される離島・地方便では、競争より協調の方が合理的という認識が、現場レベルで共有されていったのだ。

●グランドハンドリングの共通化…「資格の壁」を崩した意義

 2025年に入り、両社の協調は本体レベルでの実務統合へと踏み込んだ。その象徴が、グランドハンドリング(地上支援)業務における機材・人員の共同利用だ。

 空港の制限区域内でのけん引車(プッシュバックトラクター)・給水車・汚水処理車などは、これまでJAL系とANA系で完全に独立して運用されていた。利用頻度の低い地方空港ではそれが顕著な非効率を生んでいたが、「安全基準やオペレーション手順が異なる」という理由で共有化は長年タブーとされてきた。

 この壁を崩したのが、人材不足という現実だ。地方空港でのグランドハンドリング人員の確保は限界に来ており、両社の現場が「やむを得ず」協力する状況が先行した。そこに経営レベルの合意が追いつく形で、正式な共同利用スキームが整備されつつある。資格要件の統一というかつては「不可能」とされた課題が、現場の切迫感によって解決への道が開かれた点は特筆に値する。

「グランドハンドリングの共同化は、表面的には地味な変化ですが、実は非常に深い意味を持ちます。作業手順書(マニュアル)の統合、無線周波数の共有、そして何より『誰の指揮命令系統に従うか』という問題を解決しなければならない。それをやり遂げつつあるということは、両社の間で相当な信頼関係と実務的な擦り合わせが積み上がっている証拠です」(同)

●国内75空港でのシステム統一…「一国二制度」の終焉

 さらに踏み込んだのが、国内約75空港(国内線対応空港の約8割)における搭乗ゲートシステムと手荷物保安検査システムの共通化だ。これまでJALとANAはそれぞれ独自の機器・システムを導入しており、同一ターミナル内に2系統の設備が並立するケースも珍しくなかった。

 設備投資・保守コストの重複は莫大だ。「競争のシンボル」として維持されていたその非効率さを解消するには、それ相応の「背に腹は代えられない」という経営判断が必要だった。2025年の共通化は、まさにその決断の表れである。乗客にとっても、チェックイン端末や保安レーンを案内するスタッフの相互補完が実現することで、利便性の向上が期待される。

JAL・ANA本体による「コードシェア」は実現するか?

 インフラの共通化が進む先に浮かぶのが、「コードシェア(共同運航)」の本体間実施だ。一つの便に両社の便名を付け、互いの顧客を相乗りさせるこの仕組みは、現在は国際線での一部運用や、系列会社間での限定的な活用にとどまる。しかし経済合理性という観点から、本体間でのコードシェアは無視できない選択肢になりつつある。

●現実的なシナリオ:採算の厳しい路線での「便の分け合い」

 羽田—伊丹・福岡など競争激しい主要幹線で両社が共同運航するシナリオは現実的ではない。問題はそれ以外の路線、特に「地方幹線」と呼ばれる中規模都市間の路線だ。例えば、大阪—鹿児島や名古屋—秋田といった路線では、すでに便数が絞られており、空席率が高止まりしているケースが多い。

 こうした路線では、JALとANAが各々1〜2便を運航するより、どちらかが「幹事社」として運航し、もう一方はコードシェアとして販売するだけの方が機材稼働率の面でも合理的だ。いわば「実質的な減便を、減便に見せずに行う」ための仕組みとして、コードシェアが機能する可能性がある。早朝・深夜便や季節運航便でも同様の論理が働く。

「日本の国内航空市場は、欧米と比べてLCCのシェアがまだ低く、フルサービスキャリア2社が並立してきました。しかし人口減少と地方の需要縮小を考えれば、今の路線網を2社で維持し続けるのはいずれ限界が来る。コードシェアは『競争を残しながら効率化する』ための唯一のソフトランディング手段とも言えます。公取委の判断が分水嶺ですが、路線維持という公益性の観点から、相当程度の容認可能性はあると見ています」(同)

共同運航を阻む「3つのハードル」

ハードル① 独占禁止法(公正取引委員会)の壁

 最大の制度的ハードルが独占禁止法だ。国内線旅客シェアでJALとANAを合わせると7〜8割に達する。この2社が特定路線でコードシェアを行えば、事実上その路線の価格競争は消滅する。公正取引委員会がこれを「不当な取引制限」と認定するリスクは排除できない。

 ただし、欧米では経営危機にある地方路線を守るための「例外的独禁法適用除外(アンチトラスト・イミュニティ)」が認められた事例がある。日本でも、離島・過疎地路線については特別扱いの余地があり、路線ごとの個別審査というアプローチが現実的だ。まずは採算悪化が顕著で代替交通手段のない路線での試験的実施を、規制当局に対して申請する流れが考えられる。

ハードル② マイレージプログラムの「棲み分け」問題

 ブランド競争の最前線はマイレージプログラムだ。JALマイレージバンク(JMB)とANAマイレージクラブは、それぞれ数千万人規模の会員を抱える。コードシェア便を利用した場合、マイルをどちらのプログラムに積算するのか、上級会員の優先搭乗・ラウンジ利用権はどう扱うのか——これらは技術的な問題でなく、顧客ロイヤリティの根幹に関わる。

 最悪の場合、両社の上級会員が「自分の権利が劣後している」と感じ、乗り換えが起きかねない。コードシェアの恩恵よりも、マイレージ価値の毀損リスクの方が大きいと判断すれば、両社の経営陣は慎重にならざるを得ない。

ハードル③ オペレーションと安全基準の「微細な差」

 グランドハンドリングの共通化が示すように、両社のオペレーションは細部に至るまで独自の手順が積み重なっている。パイロットの訓練方式、キャビンアテンダントのサービス基準、機体メンテナンスのチェックリスト——これらは長年の社内文化として染みついており、統合には時間と摩擦を要する。

 安全基準の「どちらが高い・低い」ではなく、「違う」ことが問題だ。万が一インシデントが発生した場合、責任の所在があいまいになるリスクは、航空業界では絶対に避けなければならない。この問題を解決するには、慎重かつ段階的なパイロットプログラムが必要になる。

結論:もはや「メンツ」を語れる段階ではない

 JALとANAの協調は、2024〜2025年にかけて「競争の演出」から「生存のための協力」へと、その意味を変えた。グランドハンドリングの共同化、システムの統一——これらは単独では地味なニュースに見えるが、俯瞰すれば「共同運航という最後から二番目のステップ」が粛々と踏まれていることがわかる。

 両社が「フルサービスキャリア」として独立した路線網を維持するモデルは、人口減少・単価下落・コスト増という三重苦の中で持続可能性を失いつつある。ここで問われるのは、「JALかANAか」を競わせるという既存の競争観を、社会が手放せるかどうかだ。

 欧州では、経営難に陥った地方エアラインが大手に吸収されるか、公的補助を受けながら路線を分担する形が定着している。日本でも、航空ネットワークを「競争財」から「社会インフラ」として捉え直す議論が避けられない段階に来ている。

「今の日本の航空行政は、競争政策と路線維持政策の間で板挟みになっています。独占禁止法の枠内で両社の協調をどこまで認めるか、という問題は、最終的には国の航空政策の方向性を問う問題です。欧州型の『競争より安定』に舵を切るのか、あくまで市場競争を優先するのか——それを政治が明示しない限り、両社は中途半端な協調を繰り返すだけになりかねません」(同)

「JALかANAか」を選ぶ時代は、静かに終わろうとしているのかもしれない。問題は、誰がその「終わり」を宣言するか、だ。経営者か、規制当局か、それとも市場か。2025年以降の動向を、単なる「航空会社間の業務提携」として見るのか、日本の航空インフラ再編の胎動として見るのか——その視点の差が、読者と投資家にとって重要な分かれ目となる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、中村哲也/元大手航空会社収益管理部長・航空経営コンサルタント)

BusinessJournal編集部

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公開:2026.03.14 05:55