インドネシアで「ごみ発電所」建設ラッシュ…住友商事主導の日本勢が挑む2兆円市場

●この記事のポイント
インドネシアで廃棄物発電(WtE)施設の建設ラッシュが始まっている。日量9万トンのごみ処理危機とエネルギー自給率向上を同時に解決する「一石二鳥」策として、プラボウォ政権が30カ所以上の建設計画を国家戦略に格上げ。2025年10月には大統領規則109号でPLNによる30年間の電力買取保証を制度化。住友商事主導コンソーシアムがインドネシア初のPPP廃棄物発電事業(西ジャワ州・日量2,000トン処理)を落札し、カナデビアも参画。中国勢との競合が激化する中、日本の技術力と官民連携スキームが商機を握るカギとなる。
インドネシア・ジャカルタ郊外、西ジャワ州ブカシ市に広がるバンタルグバン最終処分場。サッカー場200面に相当する広大な敷地に、高さ35〜46メートルのごみの山がそびえ立つ。人口約3,000万人の巨大都市圏から毎日7,500トン超のごみが運び込まれ続けているこの場所は、「世界最大規模の埋め立て地」とも呼ばれる。しかし今や、その処分場ですら限界を超えつつある。
インドネシア環境林業省によれば、同国では1日当たり約9万トンの廃棄物が発生している。急速な都市化と経済成長を背景に廃棄物量は増え続けているが、処理インフラの整備が追いついていない。既存の最終処分場の多くが2028年までに処理能力の限界に達すると警告されており、廃棄物管理は国家的な急務となっている。
こうした危機的状況を背景に、いま同国で注目を集めているのが「ごみ発電所(Waste to Energy: WtE)」だ。廃棄物を焼却処理し、その熱エネルギーで発電する施設で、ごみ処理問題の解決とエネルギー供給の両立を狙う。インドネシア政府は今後数年で30カ所以上にWtE施設を建設する計画を打ち出しており、中国や日本の企業が呼応して相次ぎ参入している。
●目次
- プラボウォ政権が「国家戦略」に格上げ
- 住友商事・カナデビアの参入戦略
- 「一石二鳥」の構図、その実像
- 先行する中国勢との競合
- 課題は山積、楽観は禁物
- ビジネスパーソンが見るべき視座
- 「両輪」は本当に回るのか
プラボウォ政権が「国家戦略」に格上げ
この動きを決定的に加速させたのが、2024年10月に発足したプラボウォ・スビアント政権だ。同政権は「食料とエネルギーの自給」を主要公約に掲げており、WtEはその文脈で重要な位置づけを与えられている。
2025年10月、インドネシア政府はWtEに関する大統領規則109号(PR 109/2025)を公布した。この規制改革によってWtEが正式に再定義され、国営電力会社PLN(国家電力公社)による電力買取価格が統一料金として設定された。さらに注目すべきは、政府系投資ファンド「ダナンタラ」の動向だ。2025年2月に発足したダナンタラは、プラボウォ大統領が重視するWtE施設の全国展開に向け、国営電力会社による30年間の電力買取保証付きで事業者選定と投資を進めると発表。財源確保のために低利回りの「愛国債」まで発行すると宣言した。
電力買取の長期保証は事業者にとって大きなメリットだ。インフラ投資において最大のリスクのひとつである「売り先の不確実性」が制度的に担保されることになる。
ただし、課題もある。ダナンタラに対しては国内外から、政府の監視が不十分、情報開示が不透明、傘下に財務の不健全な国営企業が多いといったガバナンス上のリスクが指摘されており、長期的な制度の安定性には注視が必要だ。また、PR 109/2025自体も具体的な実施細則を今後の下位規則に委ねる構造であり、許認可手続きや技術基準、契約のひな型が整備されるまでは投資判断に慎重さが求められる、との指摘もある。
住友商事・カナデビアの参入戦略
こうした市場環境に日本企業が動き始めている。先行事例として注目されるのが、西ジャワ州「レゴックナンカ廃棄物発電事業」だ。
JICAが発表した資料によれば、2023年8月、住友商事が主導し、日立造船(現・カナデビア)やインドネシア現地企業エネルギア・プリマ・ヌサンタラが参画するコンソーシアムが同事業を落札した。西ジャワ州内で収集される1日約2,000トンのごみを焼却・発電するもので、インドネシア初となる官民連携(PPP)方式のWtE事業だ。JICA、日本の環境省、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)が連携して事業組成を支援してきた。
カナデビアは1965年に国内初のごみ焼却発電施設を納入して以来、60年にわたる実績を持つ。国内外で多数の施設を手がけており、同社は「世界のリーディングカンパニー」として高炉ストーカ方式を中心とした技術で国際市場での存在感を示している。その技術力が今回の受注にも寄与したとみられる。エネルギー政策研究家の佐伯俊也氏はこう語る。
「日本式のWtE技術は、焼却過程での排ガス処理やダイオキシン管理など環境基準が厳格で、長期稼働における信頼性が高いです。初期投資は中国勢に比べ高くなりやすいものの、プラントの稼働率やメンテナンスコストを長期で見ると、ライフサイクル全体の経済性は十分に競争力を持っています。インドネシア政府が長期のPPP方式を採用した背景には、こうした信頼性への評価もあるのでしょう」
「一石二鳥」の構図、その実像
WtEがここまで注目される理由は、二つの国家課題を同時に解決する可能性にある。
第一は廃棄物処理問題だ。インドネシアでは廃棄物の大半が分別されることなく埋め立てられる「オープンダンプ方式」が一般的で、処分場から排出されるメタンガスが温室効果ガス排出量を押し上げている。WtEはごみを大幅に減容化(焼却によって体積が1/20〜1/30程度になる)するため、処分場の延命に直結する。
第二はエネルギー自給率の課題だ。インドネシアはかつて石油輸出国だったが、生産量の低下と国内消費の増大により、今や原油の純輸入国となっている。電力需要は年平均4〜5%のペースで伸び続けており、石炭火力への依存度を下げつつ自給率を高める多様な電源が求められている。
インドネシア政府は2060年までのカーボンニュートラル達成を目標に掲げており、廃棄物は「再生可能エネルギー」として位置づけられている。PR 109/2025においても、WtEを再エネの一類型として法的に整理することで、国内外からの投資を呼び込む枠組みを整備した。
国内における日系企業の貢献を分析したJJC(在インドネシア日本商工会議所)の2025年版調査報告書によれば、インドネシアの脱炭素化に関連して日系企業が実施中・実施予定のプロジェクトは約698件に上り、そのうち「バイオマス・廃棄物発電等」は57件を占める。WtEはその中核分野の一つだ。
先行する中国勢との競合
一方で、日本勢が直面するのは中国企業との熾烈な競争だ。中国はすでに国内で世界最多のWtE施設を稼働させており、豊富な建設実績を背景に東南アジアへの進出を加速している。コスト競争力においても、中国製プラントは日本製と比較して建設費が安価とされる。
別の廃棄物エネルギー事業の実務家(インドネシア進出経験を持つインフラ事業開発者)はこう指摘する。
「中国勢の価格競争力は本物で、特にインドネシアの地方自治体レベルのプロジェクトでは、コストを優先する入札が多い。日本勢が差別化を図るためには、技術の信頼性だけでなく、JICAなどの政府支援を活用した資金調達の有利さや、長期のO&M(運営・保守)サービスを含めた総合提案力が鍵になる」
実際、レゴックナンカ事業のような官民連携(PPP)スキームは、日本政府が支援しやすい枠組みであり、JICAや環境省、IFCとの連携によって事業リスクを分散できる点が強みとなっている。
課題は山積、楽観は禁物
もちろん、課題がないわけではない。
技術的な面では、インドネシアのごみの特性が日本と異なることが挙げられる。日本のごみは分別が進んでいるのに対し、インドネシアでは生ごみや水分の多い有機廃棄物の割合が高く、発熱量が低い。熱量の低いごみを効率よく燃焼させるための技術的工夫が必要となり、プラントの設計仕様や燃料補助の問題が生じる場合もある。
制度面でのリスクも無視できない。インドネシアでは規制環境の変化が速く、今回のPR 109/2025も実施細則の整備が不十分なまま公布されている部分がある。また、電力買取価格の水準が事業採算に見合うかどうかも、個別事業の設計・規模によって異なり、投資判断には慎重な財務モデリングが求められる。
地域社会との関係構築も重要な要素だ。焼却施設に対する住民の心理的抵抗(NIMBY問題)は日本でも経験してきた課題であり、インドネシアでも同様の摩擦が起きうる。透明性の高い情報公開と地域コミュニティへの丁寧な説明が不可欠だ。
ビジネスパーソンが見るべき視座
エネルギー分野に直接の関わりがない企業にとっても、インドネシアのWtEブームは他人事ではない。
まず、グローバルサプライチェーンの観点から。インドネシアは製造拠点として多くの日系企業が進出しており、廃棄物処理コストや環境規制への対応は現地法人の経営課題に直結する。廃棄物の適正処理が進めば、企業の環境負荷指標(ESG評価)にも寄与する。
次に、インフラ投資としての観点から。WtEはPPPスキームで長期安定収益が見込めるアセットであり、機関投資家や総合商社にとっては新興国インフラ投資の有力候補だ。住友商事のような総合商社がPPPの出資者として参画するモデルは、今後他の地域にも展開されていく可能性がある。
さらに、技術輸出の文脈から。日本が60年にわたって磨いてきたごみ処理・廃棄物発電の技術は、経済成長と都市化が進む新興国でこそ大きな需要を持つ。カナデビアのような専業メーカーにとって、インドネシアは市場規模・政策環境ともに有望な海外展開先だ。
「両輪」は本当に回るのか
廃棄物処理とエネルギー自給の「両輪」を同時に解決するというインドネシアの構想は、政策の論理としては合理的だ。しかし、その実現には制度の安定性、技術の適合性、財務の持続可能性、そして地域社会との共生という複数の条件が揃わなければならない。
プラボウォ政権によるトップダウンの推進力は確かに存在する。しかし、ダナンタラのガバナンス問題や規制の実施細則の未整備など、構造的な不確実性も残る。建設ラッシュの「量」が「質」を伴うかどうかは、これから数年の動向が判断材料になるだろう。
日本勢にとってはその不確実性こそが参入の余地でもある。技術力、信頼性、政府間連携という日本の強みは、短期的な価格競争では見えにくくても、長期の施設運営において着実に価値を発揮する。インドネシアのごみ山が「電力の山」に変わる日は、日本企業の出番でもある。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)











