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日本企業で「脱オラクル」加速…高額ライセンスとロックインへの懸念が背景

2026.03.12 06:00 2026.03.12 00:01 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=小平貴裕/ITジャーナリスト

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●この記事のポイント
日本企業で「脱オラクル」の動きが広がっている。Oracle Databaseの高額ライセンスとベンダーロックインへの懸念が背景にあり、アマゾンはAuroraやDynamoDBへ移行。国内でもベネッセや田辺三菱製薬がAzureやPostgreSQLを活用したクラウド移行を進めている。DX時代のIT戦略として、オープンソースDBとマルチクラウドへのシフトが加速している。

 日本の大企業のITシステムには、長年「聖域」と呼ばれてきた領域が存在する。日本オラクルが提供するデータベース管理システム「Oracle Database(以下、オラクルDB)」だ。

 1990年代から2000年代にかけて、日本企業の基幹システムは急速に高度化した。その過程で、金融・製造・流通・通信などの大規模トランザクション処理を支える基盤として、オラクルDBは事実上の標準(デファクトスタンダード)となった。高い可用性、膨大なデータ処理能力、そして堅牢なサポート体制。これらの要素が企業に「安心」を提供し、多くの企業が基幹系システムの中核にオラクルDBを採用してきたのである。

 しかし今、その鉄壁の牙城に変化の兆しが現れている。DX(デジタルトランスフォーメーション)とクラウド化の波の中で、かつての守護神はむしろ企業の俊敏性を阻む存在として見られ始めているのだ。

●目次

牙を剥く「ベンダー・ロックイン」の代償

「脱オラクル」という言葉が企業のIT戦略会議で語られるようになった背景には、主に二つの問題がある。コストの高騰と、ベンダー・ロックインだ。

 オラクルDBのライセンス体系は複雑であり、CPUコア数や利用機能に応じて費用が積み上がる。さらに年間保守費用はライセンス価格の20%前後に達することも多く、長期運用では莫大なコスト負担となる。

 近年はさらに状況が厳しくなった。エントリー向け製品の提供終了や、クラウドサービス「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」への移行を促す販売戦略が強まり、ユーザー企業の選択肢が狭まっているとの指摘が増えている。

 問題をより深刻にしているのが、ベンダー・ロックインの構造だ。一度オラクルDBを中心にシステムを構築すると、他のデータベースへ移行するにはアプリケーションの大幅な改修が必要になる。さらにクラウド環境によってはライセンス条件が変わり、事実上の「移行コスト」が跳ね上がるケースもある。

 企業のIT戦略のコンサルティングを行うITジャーナリストの小平貴裕氏はこう語る。

「クラウド時代のIT戦略では、柔軟なシステム構成が重要になります。しかしオラクルDBを中心とした構成は、クラウド移行やマルチクラウド戦略を難しくすることがある。企業のDXを進めるうえで、これは無視できない制約です」

 かつては企業に安心を提供していたオラクルDBが、クラウド時代のIT戦略においては「重い足かせ」と見られるケースも増えている。

アマゾンが引いた「決別の引き金」

 この流れを決定づけた象徴的な出来事がある。米アマゾンによる「オラクル離れ」だ。

 アマゾンはかつて世界最大級のオラクルDBユーザーだった。しかし同社は2010年代後半から、内部システムを段階的に自社開発のデータベースへ移行していった。代表例が以下の2つである。
 ・Amazon Aurora(クラウド向けリレーショナルDB)
 ・DynamoDB(NoSQL型分散データベース)

 Kindle、ECマーケットプレイス、物流管理など巨大サービスの基盤は、最終的にオラクルDBからこれらのシステムへ移行した。AWSのエンジニアリング部門は当時、数千のデータベースを段階的に移行したと公表している。移行によって数億ドル規模のコスト削減効果があったとも報じられている。このニュースは、世界のIT業界に大きな衝撃を与えた。

「世界最大級のトランザクション処理を行う企業が、オラクルを離れられるなら、他の企業にも可能なはずだ」――。そうした認識が、企業のIT戦略を大きく変え始めたのである。

日本企業でも進む「脱オラクル」の具体例

 この潮流は日本でも徐々に広がっている。

 たとえば教育大手のベネッセコーポレーションは、タブレット学習サービス「チャレンジタッチ」の基盤を刷新した。オンプレミスのオラクル環境から、Microsoft Azureのクラウドデータベースへ移行したのである。この移行により、ハードウェア調達コストとライセンス費用の双方を削減。さらにクラウドのスケーラビリティを活用し、アクセス急増にも柔軟に対応できる体制を整えた。

 また、田辺三菱製薬の取り組みはより現実的な戦略を示している。同社はシステムごとに最適なデータベースを選択する「適材適所」の方針を採用している。

・移行可能なシステムはPostgreSQLやSQL Serverへ
・クラウド環境はAzureを中心に再設計
・オラクル依存が強いシステムは仮想化基盤で効率化

 つまり、全面的な置き換えではなく、ハイブリッド戦略による段階的脱却である。

「大企業の基幹システムは数十年の歴史を持つものも多く、一気にデータベースを切り替えるのは現実的ではありません。重要なのは、今後の新規開発をオープン技術に切り替え、徐々に依存度を下げていくことです」(小平氏)

PostgreSQLが変えた勢力図

「脱オラクル」を支えている最大の技術的要因は、PostgreSQLの進化である。PostgreSQLはオープンソースのリレーショナルデータベースだ。
かつては「研究用途のDB」という印象もあったが、現在はエンタープライズ用途でも十分な性能と信頼性を備えている。多くのクラウドサービスがPostgreSQL互換のデータベースを提供しており、代表例は以下の通りだ。

・Amazon Aurora PostgreSQL
・Google Cloud SQL
・Azure Database for PostgreSQL

 オープンソースのためライセンス費用が不要であり、クラウド環境でも柔軟に利用できる。

 IT市場調査会社IDCによると、企業のデータベース選定において「オープンソースDB」を採用する割合は年々増加している。特に新規システムでは、最初からPostgreSQLを採用するケースが急増しているという。

「かつてオラクルDBが選ばれた最大の理由は信頼性でした。しかし現在は、クラウド基盤の冗長化技術やオープンソースDBの成熟によって、その差は大きく縮まっています。コストと柔軟性を考えると、PostgreSQLを選択する企業が増えるのは自然な流れでしょう」(同)

「脱オラクル」を成功させる3つの条件

 もっとも、オラクルからの移行は簡単ではない。長年運用されてきたシステムでは、ストアドプロシージャや専用機能に強く依存しているケースが多いからだ。

 そのため、成功している企業にはいくつか共通点がある。

1 段階的な移行
すべてを一度に移行するのではなく、新規システムや周辺システムからオープン技術に切り替える。

2 技術力の確保
PostgreSQLやクラウドDBを運用できるエンジニアを育成することが不可欠。

3 経営判断としての位置付け
データベース移行は単なるITコスト削減ではない。ベンダーとのパワーバランスを再構築する経営戦略の一環である。

 大手SIerの幹部は次のように語る。

「データベースは企業システムの“心臓部”です。そこをどのベンダーに依存するのかは、単なる技術選定ではなく経営判断です。今、日本企業は初めてその問題に真正面から向き合い始めています」

 1990年代、オラクルDBは企業ITに安定と信頼をもたらした。しかしクラウドとオープンソースの時代において、その価値の意味は変わりつつある。企業が求めるのは、特定ベンダーに縛られない柔軟なIT基盤だ。

 データの主導権を企業自身が握り、ビジネス環境の変化に迅速に対応する。そのためには、システムの自由度を高めることが不可欠である。

「脱オラクル」は単なるITトレンドではない。それは、企業がITインフラの主導権を取り戻すための構造的な転換なのである。そしてこの流れは、日本企業のDXの進み方を大きく左右する重要な分岐点となる可能性が高い。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=小平貴裕/ITジャーナリスト)

小平貴裕/ITジャーナリスト

ITジャーナリスト
AI、IT、スマホ、半導体に精通。元半導体メーカー開発担当。

公開:2026.03.12 06:00