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ドリルを使わず岩を蒸発させる「ミリ波掘削」…出光興産が米新興に出資した理由

2026.07.23 05:55 2026.07.22 20:40 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家

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●この記事のポイント
出光興産が米新興Quaise Energyに出資。核融合技術転用の「ミリ波掘削」で地下1万m超・300〜500℃の超高温岩体に到達し、火山国日本の未活用地熱資源とガソリン需要減に悩む石油元売りの活路を開くか、技術と規制の両面から解説する。

 出光興産は6月25日、米国の地熱スタートアップ「Quaise Energy(クエイズ・エナジー、本社:テキサス州ヒューストン)」に、100%子会社の出光アメリカズホールディングスを通じて出資したと発表した。同社が調達したシリーズBの第一クローズ(総額1億3400万ドル)には、米気候テック系ファンドPrelude Venturesが主導し、出光に加えて発電大手JERAも戦略投資家として名を連ねている。JERAも7月中旬に同社への出資を公表しており、日本の大手エネルギー2社が期せずして同じ米新興企業に相次いで資金を投じた格好だ。

 ガソリンや石油製品を売ってきた石油元売りが、なぜ海外の地熱スタートアップに出資するのか。これは単なる脱炭素アピール(グリーンウォッシュ)ではなく、エネルギー構造の前提を変えかねない技術革新と、国内燃料需要の縮小に直面する石油会社の生存戦略が合致した、合理的な経営判断だと捉えることができる。

●目次

「岩を溶かして掘る」ミリ波掘削とは何か

 従来の地熱発電は、ドリルで地下1,000〜3,000メートル程度を掘削し、天然の熱水や蒸気が偶然たまっている「地熱貯留層」を探し当てる方式が主流だった。深く掘るほど高温・高圧・硬質な岩盤に阻まれ、ドリル刃の摩耗や掘削コストの増大が普及の壁となってきた。

 Quaise Energyが開発する「ミリ波掘削(millimeter-wave drilling)」は、この制約を技術で突破しようとする試みである。同社はMIT(マサチューセッツ工科大学)でポール・ウォスコフ氏が2007年から進めてきた研究をもとに2018年に設立された。核融合研究で使われる「ジャイロトロン」という装置を応用し、高周波の電磁波(ミリ波)を岩盤に照射して加熱・溶融・気化させながら掘り進む。ドリルのような物理的接触を伴わないため、刃の摩耗という制約から原理的に自由になれる点が特徴だ。

 同社は米テキサス州の実証サイトで深度1kmに迫る掘削を進めており、これが実現すればミリ波を含む非接触掘削技術としては過去最深になるという。同社は将来的に地下1万メートル超、最大で1万9千メートル前後まで到達し、摂氏300〜500度の超高温岩体にアクセスすることを目指すとしている。ただし、これは同社が掲げる中長期の技術目標であり、現在建設中のオレゴン州の商用プロジェクトで直ちに実現するものではない点には注意が必要だ。

オレゴン州で進む商用第1号案件「Project Obsidian」

 Quaise Energyが現在最も力を入れているのが、オレゴン州中部のデシューツ国有林内で建設中の商用地熱発電プロジェクト「Project Obsidian」である。連邦政府の地熱リース地に立地し、初期段階で50メガワットの常時稼働型電源を目指し、将来的には250メガワット、さらにギガワット級への拡張余地があるとされる。送電開始は2030年を予定しており、当初は在来型の掘削技術と自社のミリ波技術を組み合わせ、摂氏315〜365度程度の岩盤にアクセスする計画だ。AIデータセンターの急増などで電力需要が膨らむ米国において、天候に左右されない「ベースロード電源」としての地熱への期待が、資金調達の追い風になっている。

なぜ海外のスタートアップなのか

 日本は地熱資源量で約2,347万kW(発電量換算)と、米国、インドネシアに次ぐ世界3位の潜在力を持つ。しかし発電設備容量では世界10位にとどまり、資源を十分に生かし切れていないのが実情だ。背景には、有望な地熱資源の約8割が国立・国定公園内に位置し開発規制が厳しいこと、また周辺の温泉地との水源をめぐる合意形成に長い年月を要することがある。環境省や経済産業省は近年、公園内での開発要件を緩和し、次世代地熱の実用化に向けたロードマップ策定を進めているが、地元調整には依然として時間がかかる。

 ミリ波掘削のような技術で地下深くまで垂直に掘り進められれば、地表の占有面積を抑えられるうえ、温泉源よりもはるかに深い層の熱を利用する「強化地熱システム(EGS)」であるため、既存の温泉利用とのバッティングを避けやすいという期待がある。政治調整や合意形成で長年進まなかった課題を、掘削技術の進化によって迂回しようとする発想と言える。

石油元売りにとっての「地下ビジネス」という選択肢

 出光興産にとって、この出資は国内のガソリン需要縮小という構造的な逆風と無関係ではない。電気自動車の普及や人口減少により国内燃料油需要は年々減少しており、製油所の再編も続く中、各社は石油以外の収益源を模索している。

 再生可能エネルギーの中でも、太陽光や風力は天候に左右される変動電源であるのに対し、地熱は24時間安定稼働できるベースロード電源として電力市場での価値が高い。加えて石油会社は、資源探査で培った地質解析力や、地下深部を掘削・管理するエンジニアリングノウハウを保有しており、未経験の再エネ分野に一から参入するよりも、既存の強みを転用しやすい領域だとされる。出光は今回の出資を通じて次世代地熱のビジネスモデルに関する知見を獲得し、将来的にQuaiseの地熱プロジェクトへの参画も検討する方針を示している。

 エネルギー政策研究家の佐伯俊也氏は、次のように指摘する。

「超高温岩体地熱は理論上どこでも展開できる普遍性が魅力だが、商用化の実証段階にあるのはまだ数十メガワット規模の案件にとどまる。ギガワット級の量産や、コスト競争力のある形での実用化には、掘削の耐久性やコスト低減の実証データの蓄積が今後の焦点になる」

 また、「日本での応用を考える際は、火山国特有の複雑な地質構造や、既存の温泉資源との共存をどう制度設計するかが鍵になる。技術が完成しても、地元合意や規制のプロセスを省略できるわけではない」と、技術の可能性と実用化までの距離を冷静に見る視点を示している。

縮小市場から成長市場への脱皮を図れるか

 出光興産の今回の出資は、単なるベンチャー投資にとどまらず、将来のエネルギーインフラの選択肢を早期に確保しておく動きと位置づけられる。老朽化した火力発電所のタービンや送電網といった既存インフラを活かしながら、熱源だけを地熱に置き換えるという構想が実現すれば、既存アセットを有効活用する道筋にもなり得る。

 もっとも、Quaise Energyの技術はまだ実証段階にあり、商用プラントの本格稼働は2030年を予定する段階だ。技術的なブレークスルーへの期待と、実用化までに残された技術的・制度的な課題を切り分けて見ていく必要がある。自社のコア技術を再定義し、異分野の破壊的技術と組み合わせることで縮小市場から新たな成長領域への脱皮を図る出光の姿勢は、事業転換に悩む日本企業にとって一つの参照点になるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)

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公開:2026.07.23 05:55