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ファーウェイ、増収なのに減益37%の真意…2.9兆円R&Dが映す半導体自立戦略

2026.09.07 06:00 2026.09.06 18:59 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/半導体アナリスト・経済コンサルタント

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●この記事のポイント
ファーウェイの2026年上半期決算は増収(4678億元)も純利益37%減。R&D費は売上高の26%(1214億元)に達し、AI半導体Ascendや自社OSなど半導体内製化に集中投資する。日本の半導体材料・装置メーカーには特需となる一方、中国の国産化率は21%まで上昇し、将来の締め出しリスクも指摘されている。

 ファーウェイ・テクノロジーズが発表した2026年1〜6月期決算は、市場に静かな衝撃を与えた。売上高は前年同期比9.55%増の4678億元(直近の為替レートで換算すると約11兆2000億円)と底堅く伸びた一方、純利益は234億元にとどまり、前年同期から37%近く落ち込んだ。減収ではなく「増収減益」という組み合わせは、一見すると米国の対中制裁による経営の苦しさを示しているようにも映る。

 だが実態は、やや異なる。同社の研究開発(R&D)費は前年同期比25%増の1214億元(円換算で約2兆9000億円)に達し、売上高に占める比率は約26%と過去最高水準に膨らんだ。売上高が過去最高圏で伸びているにもかかわらず利益が大きく削られているのは、稼いだ利益をほぼすべて次世代技術への投資に回した「意図的な選択」の結果という側面が強い。

 ファーウェイはなぜ、あえて利益を犠牲にしてまで開発投資を積み増すのか。そして、この「利益なき拡大」戦略は、日本の製造業・半導体産業にどのような影響をもたらすのか。最新の公開情報と業界関係者の見立てをもとに整理する。

●目次

「あえて減益」という戦略的選択

 ファーウェイの売上を支えているのは、スマートフォン事業とスマートEV(電気自動車)関連事業の回復だ。2026年4〜6月期の中国スマートフォン出荷台数調査では、ファーウェイが首位を奪還したとの報道もある。独自OS「HarmonyOS」も中国国内シェアでiOSを上回ったとされ、米国依存からの脱却は着実に進んでいる。

 これらの事業が生み出す利益を、同社は配当や内部留保に回さず、先端半導体設計・AIチップ・OS開発にほぼ全額を投じている。ここに、非上場かつ従業員持株制という同社特有のガバナンス構造が効いている。四半期ごとの業績や配当を株主から求められる欧米・日本の上場企業とは異なり、ファーウェイは「目先の利益をゼロに近づけてでも、数年後の技術基盤を固める」という意思決定を、外部株主の反対に晒されることなく実行できる。米国による半導体の対中輸出規制が続くなかで、他社からの調達に頼れない以上、設計から製造プロセス、OSに至るまでを自前で構築するための「必要経費」として、37%の減益を甘受している格好だ。

 なお、香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は、同期間の営業キャッシュフローがマイナス399億元と赤字に転じたと報じている。事実であれば、単なる会計上の利益圧縮にとどまらず、実際のキャッシュも研究開発や在庫積み増しに大きく振り向けられていることになる。上場企業であれば投資家説明に窮しかねない水準の変化だが、非上場企業であるがゆえに、こうした「短期的な財務体力の消耗」を伴う戦略を取りやすいという構造的な違いは、日本企業がファーウェイを分析する際に見落とされがちな視点だ。

1200億元超の開発マネーはどこへ向かうのか

 投資の中心にあるのが、AI半導体「Ascend」シリーズと半導体の国産化だ。米国は2026年1月、エヌビディアの「H200」の対中輸出を条件付きで一部承認したが、実際の出荷は限定的にとどまっているとされる。この間隙を突く形で、中国国内のAI半導体市場におけるファーウェイのシェアは約5割に達し、2024年時点で9割超(約95%)を占めていたエヌビディアは約8%まで低下したとの分析もある。

 もっとも、その道のりは平坦ではない。露光装置の最先端であるEUV(極端紫外線)装置を入手できないファーウェイ・SMIC陣営は、旧世代のDUV(深紫外線)装置を複数回露光する「マルチパターニング」という力業で7ナノメートル級の微細化を実現している。海外の半導体専門メディアの分析によれば、AIチップ「Ascend」の歩留まりは1年前の20%前後から直近では40%前後まで改善したとみられるが、TSMCが製造するエヌビディア向け先端チップの歩留まり(6〜8割程度とされる)にはなお及ばない。

 半導体アナリストで経済コンサルタントの岩井裕介氏は「歩留まりの低さは製造コストの上昇に直結するが、ファーウェイはそれを販売価格の転嫁ではなく、豊富なR&D予算とグループ全体の体力で吸収している。歩留まり40%台でも事業として成立させられるのは、裏を返せば減益をいとわない経営判断があるからだ」と指摘する。

 実際、同社は2026年中にAscend910C系チップの生産量を倍増させる計画とも報じられており、歩留まり改善と量産拡大を並行して進める構えだ。

 人材投資も見逃せない。ファーウェイは「天才少年(Genius Youth)計画」など破格の報酬体系を用意し、新卒・若手研究者に年収数百万元規模を提示してきた実績がある。半導体・AI分野のトップ人材を国内外から集める人件費もまた、R&D費増加の一因とみられる。

「特需」に沸く日本サプライヤーの現実

 米国製部材を使いにくくなったファーウェイにとって、非米国系の高機能材料・装置を持つ日本企業は代替調達先として重要性を増している。フォトレジスト(感光材)は信越化学工業やJSR、東京応化工業など日本企業4社で世界シェアの約9割を握るとされ、シリコンウェハーの分野でも信越化学工業やSUMCOなど日本企業が高いシェアを維持する。特殊ガスや高機能ポリマーを含め、日本企業が世界シェアの多くを握る素材群は、中国が半導体の自給体制を築く過渡期において引き合いが強まりやすい構図にある。

 ただし、この「特需」を手放しで喜べる状況ではない。日本経済新聞の報道によれば、中国における半導体製造装置の国産化率は2017年の4%から2025年には21%まで上昇し、装置分野で存在感を持つ日系5社の対中販売額は初めて前年割れとなった。東京エレクトロンの中国売上高は2024年度に1兆円を超え、全社売上の4割に達したとされるが、同社の技術が中国国内メーカーに追い上げられる構図は年々鮮明になっている。東洋経済オンラインの報道では、業界関係者の間で「猶予はあと5年程度」との見方が示されている。

迫りくる「内製化の壁」というタイムリミット

 ファーウェイのR&D投資の最終目標は、部材から装置、OS、チップ設計に至るまでの「100%国内完結」にある。現時点で日本企業が提供している素材・技術も、中国国内ベンダーの技術水準が追いついた段階で置き換えられるリスクを常に抱えている。

 これは、過去に液晶パネルや太陽光パネルの分野で日本企業がたどった経路と重なる面がある。技術供与や部材供給を通じて中国メーカーの成長を後押しした結果、価格競争力で追い抜かれ、市場から退出せざるを得なくなった産業構造は、半導体分野でも繰り返されないとは言い切れない。

 ある電子部品メーカーの経営企画担当者は「中国向けの売上が伸びているうちは実感しにくいが、相手の内製化が完了した瞬間に取引が細る可能性は常に頭に入れておく必要がある」と話す。

 米国の対中輸出規制の枠組みの中で事業を続ける日本企業にとって、中国市場からの収益機会を追求するか、将来の中国依存リスクを見据えて取引を絞るかは、単純な二者択一では割り切れない経営判断となっている。

ファーウェイの「出血戦略」が示すこと

 日本企業が得意としてきた「毎期の黒字確保」や「R&D費の圧縮によるコスト管理」は、短期的な財務健全性の観点では合理的だが、プラットフォームや先端技術の主導権を争う局面では必ずしも有効とは限らない。ファーウェイの事例が示すのは、非上場・従業員持株制という特殊な構造があってこそ可能な「総力戦」であり、上場企業がそのまま模倣できるものではない。

 とはいえ、そこから得られる示唆はある。一社単独でファーウェイ規模のR&D投資を継続することが難しい日本企業にとっては、特定分野でのアライアンス(連合)形成や、代替の効きにくいニッチ領域への集中投資が現実的な対抗策となりうる。個々の企業が技術を抱え込んで単独で防衛する発想には限界があり、業界横断での協調によって研究開発コストを分散させる発想への転換が、今後の論点になっていくとみられる。

 ファーウェイの純利益37%減という数字は、経営体力の弱体化を示すサインではなく、むしろ中長期的な技術覇権を見据えた「力業による追い上げ」の途上にあると捉えるのが妥当だろう。日本企業には、目先の特需に安住するのではなく、中国の内製化が完了した後の「ポスト・ファーウェイ市場」で自社がどのような強みを発揮できるかを、いまのうちから見極めておくことが求められている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/半導体アナリスト・経済コンサルタント)

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公開:2026.09.07 06:00