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信金17金庫「赤字転落」の内実…本業は堅調でも債券含み損3兆円が直撃

2026.09.01 05:55 2026.08.31 18:13 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト

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●この記事のポイント
2026年3月期決算で全国17信用金庫が最終赤字に転落。日銀利上げ(26年6月に政策金利1.00%)で保有国債・地方債の含み損が拡大し売却損計上が主因。但馬信金220億円、九州・沖縄27信金227億円の売却損が判明し、中小企業向け貸出金利の引き上げ交渉や審査厳格化、ファクタリング等代替金融の可能性と限界を解説する。

 日本経済新聞は2026年8月5日付の報道で、2026年3月期(2025年度)決算において全国の信用金庫のうち17金庫が最終赤字に転落したと伝えた。低金利からの脱却が進む「金利のある世界」で、地域金融機関を支えてきた収益構造の弱点が表面化した格好だ。単なる一部金庫の経営不振ではなく、業界全体が直面する構造的な課題であり、その先には中小・零細企業の資金繰りへの波及という現実的な論点が横たわっている。本稿では、赤字転落の背景にある構造的要因を整理したうえで、中小企業への実務的な影響、そして近年注目される代替金融(FinTech)が信用金庫の機能をどこまで代替しうるのかを、客観的なデータに基づいて検証する。

●目次

17信金赤字の背景にある構造的要因

 今回の赤字転落は、貸出審査の甘さや放漫経営といった個別金庫の管理不足に起因するものではない。日本銀行が2026年7月24日に公表した金融システムレポート別冊「2025年度の銀行・信用金庫決算」でも、信用金庫は全体として減益となったものの、「コア業務純益(投信解約損益を除く)」、すなわち貸出や手数料収入を中心とした本業の稼ぐ力は増益基調にあったと分析されている。つまり、本業は堅調に推移している一方で、保有する国債・地方債など有価証券の含み損拡大に伴う売却損の計上と、貸倒引当金(信用コスト)の上昇という二重の圧力が、最終損益を押し下げたというのが実態に近い。

 その背景にあるのが、日本銀行による断続的な利上げである。日銀は2025年12月に続き、2026年6月16日の金融政策決定会合で政策金利を0.75%から1.00%へ引き上げた(賛成7、反対1)。第一生命経済研究所の熊野英生氏はこの決定を受け、次の利上げ時期について「12月が本線シナリオ」としつつ、為替動向によっては前倒しの可能性もあると分析している。長年にわたる超低金利環境のもとで、地域金融機関の多くは貸出だけでは十分な利ざやを確保できず、国債や地方債といった有価証券での運用に収益源の一部を頼らざるを得なかった。その構造が、金利上昇局面で一気に裏目に出た形だ。金融庁は2025年10月の時点で、信用金庫全体の国債含み損が約2.5兆円弱に達し、1年で3倍に急増したとして立入り点検の方針を示していたが、その後の報道では含み損の規模が3兆円規模に膨らんでいるとの指摘もある。長すぎた低金利時代の「後始末」が、様々な形で信用金庫の決算に表れ始めていると言えるだろう。

なぜ信金は構造的に利上げの影響を受けやすいのか

 信用金庫が利上げの影響を強く受けやすいのは、資産と負債の両面に構造的なギャップが存在するためである。

 資産側(運用)を見ると、多くの信用金庫は過去の低金利下で、相対的に利回りの高い長期の国債や地方債を積み増してきた経緯がある。しかし金利が上昇すると債券価格は下落するため、これらの保有債券には含み損が発生する。金利上昇のペースが緩やかであれば満期保有を続けて損失計上を回避する選択肢もあるが、自己資本比率の維持や流動性確保のために売却を迫られれば、含み損は実現損として決算に直接反映される。実際、兵庫県の但馬信用金庫は2026年3月期決算で13年ぶりの赤字に転落し、長期金利の急上昇により保有する国債・地方債の価格が下落、売却損として220億円を計上したと報じられている。九州・沖縄地方の27信金でも国債売却損の合計が前期比8割増の227億円に達し、同期に5信金が赤字となった。新潟県内でも長岡信金など3信金が最終赤字となる一方、県内信金・信組の3分の2超はコア業務純益が増益しており、「本業は健全だが有価証券関連損失で最終赤字」という全国共通の構図が浮かび上がる。

 負債側(調達)でも圧力は強まっている。金利上昇局面では預金者への還元期待が高まり、預金金利を引き上げる動きが業界全体に広がる。実際に一部の信用金庫は2026年に入り、貸出金利だけでなく各種預金金利の引き上げを相次いで告知しており、調達コストの上昇が利ざやを圧迫する要因となっている。

 こうした影響の表れ方には、金融機関ごとの体力差も反映されている。信用金庫の中央機関である信金中央金庫は、傘下の信用金庫とは対照的に2026年3月期の純利益が前期比1%増となり、運用改善によって利息収入が増加したと発表している。一方で、含み損による財務悪化を受けて信金中金に資本支援を申請した金庫もあり、規模やポートフォリオの分散度合い、金利リスクヘッジの巧拙によって個々の業績には明暗が分かれている。メガバンクや大手地方銀行がデリバティブ等による金利リスクヘッジや分散運用でこの種の変動を緩和しやすい体制を築いてきたのに対し、多くの信用金庫ではそうした体制整備が発展途上にあることも、業績格差の一因として指摘できるだろう。

「地域金融機関の多くは、預貸率の低さを補うために有価証券運用に依存してきました。今回の赤字転落は、その構造的な脆弱性が金利上昇という形で表面化した結果であり、経営の巧拙というより業界全体が抱えてきた宿題が顕在化したと見るべきでしょう」(金融アナリスト・川﨑一幸氏)

中小・零細企業に生じる具体的な実務影響

 信用金庫の収益悪化は、取引先である中小・零細企業の資金調達環境にも波及しうる。

 第一に懸念されるのが、貸出姿勢の変化である。自己資本比率の低下を防ぐため、業況が不安定な先や担保・保証の乏しい先への新規融資審査が、これまで以上に厳格化する懸念がある。もっとも自己資本に十分な余力を持つ金庫では影響は限定的とみられ、個別金庫の財務体力によって濃淡が生じる点には留意したい。

 第二に、「伴走支援」機能の低下という、より中長期的な懸念がある。信用金庫は本来、財務データだけでなく経営者の人柄や事業の将来性、地域特性といった定性情報を踏まえ、事業承継や経営改善の相談に長期的に伴走してきた存在である。収益性の悪化が続けば、こうした人的・コスト的な支援体制の維持が難しくなる可能性があり、特に小規模で人員体制の薄い金庫ほど影響を受けやすいと考えられる。

 第三に、貸出金利への転嫁である。信金側の調達コスト増加を受け、中小企業向け貸出金利の引き上げ交渉が本格化しつつある。実際に一部の信用金庫は2026年に入り、貸出・預金双方の金利改定を公表しており、これまで超低金利環境に慣れてきた借り手企業にとっては、利払い負担の増加という形で実務上の影響が生じ始めている。

「中小企業の経営者からは、これまで当たり前だった低金利での借り換えが以前ほどスムーズにいかなくなった、という声を聞くようになりました。ただし、これは金利が正常化する過程で世界的にも見られる一般的な現象であり、過度に悲観する必要はありません。重要なのは、金利のある世界を前提とした資金計画への切り替えです」(同)

FinTech・ファクタリング等は信金の補完になり得るか?

 信用金庫の与信環境が変化するなかで、ファクタリングやオンライン融資といった代替金融の役割にも注目が集まっている。

 売掛債権を早期に現金化するファクタリングは、短期的な資金繰りの改善には即効性がある。黒字であっても入金サイトの長さから手元資金が不足する、いわゆる「黒字倒産」リスクへの対策として一定の有効性が認められる。一方で、ファクタリングの手数料は取引形態(二社間か三社間か)によって差はあるものの、金融機関からの通常の融資と比較すると相対的に割高になりやすいとされ、これを長期・継続的な事業資金の調達手段として位置づけるには限界がある。あくまで一時的・局所的な資金繰りの補完策と捉えるのが実態に即しているだろう。

 オンライン融資やAIを活用した審査型レンディングも普及が進んでいる。会計データや入出金データなど財務情報に基づいた迅速な融資判断が可能で、小口かつスピード重視の運転資金ニーズには適合しやすい。実際、大手銀行を含む金融機関がAIを活用した中小企業向け融資の裾野拡大に動いており、今後も市場の拡大が見込まれる分野である。ただし、これらのサービスは基本的に定量データに基づく審査を強みとするものであり、経営者の人間性や技術力の将来性、地域における取引慣行といった定性情報を踏まえた「リレーションシップ・バンキング」を全面的に代替するものではない。特に、事業承継や大規模な設備投資といった長期の意思決定を伴う場面では、地域金融機関が担ってきた人的な関係性に基づく与信判断の重要性は依然として大きいと考えられる。

「ファクタリングやAIレンディングは、資金繰りの『点』を補う優れたツールですが、企業の成長を長期で支える『線』の関係を築くものではありません。両者は代替関係というより、企業がどちらも使いこなす補完関係として捉えるのが実務的な考え方だと思います」(同)

 結論として、代替金融は局所的・短期的な資金繰りの補完としては有効性を発揮する一方、信用金庫が長年にわたって担ってきた地域密着型の与信機能を全面的に置き換えるものではないというのが、現時点での客観的な評価といえるだろう。

地域金融と中小企業が目指すべきこれからの関係

 金利のある世界への移行は、地域金融機関と中小企業の双方に構造転換を迫っている。

 企業側には、単一の金融機関への依存から脱却し、メインバンク・サブバンクの役割分担を明確にしつつ、短期資金と長期資金それぞれに適した調達手段を組み合わせる「マルチソーシング」的な発想が求められる局面に入りつつある。ファクタリングやオンライン融資は、その選択肢の一つとして、平時から関係を築いておく価値があるだろう。

 一方、信用金庫側には、有価証券運用への依存から脱却し、地域企業への本業支援や手数料ビジネスへの構造転換を加速させることが求められる。今回の赤字転落は、多くの金庫にとって痛みを伴う経験ではあるが、日銀のレポートが示すようにコア業務純益自体は増益基調にあることは、本業の与信・支援機能そのものが揺らいでいるわけではないことを示唆している。金利のある世界における新たな収益モデルの構築は、地域金融機関にとって避けて通れない課題であり、その巧拙が今後の地域経済の活力を左右することになる。

中小企業と地域金融機関は、これまでも長期にわたる信頼関係のなかで地域経済を支えてきた。金利上昇という構造変化を、双方が資金調達・支援体制を見直す契機として前向きに捉えられるかどうかが、今後の地域経済の持続性を占う一つの分岐点になりそうだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト)

 

【主な参照データ・出典】
日本経済新聞「全国17信用金庫が赤字に 金利上昇で債券含み損、中小・零細企業に逆風」(2026年8月5日付)
日本経済新聞「信金の債券含み損3兆円 長すぎた超低金利の代償、地域金融に綻び」
日本経済新聞「信金の国債含み損2.5兆円弱 金利上昇うけ1年で3倍、金融庁が点検へ」(2025年10月)
日本経済新聞「九州・沖縄27信金、国債売却損8割増の227億円 26年3月期5信金赤字」
日本経済新聞「稚内信金、信金中金に資本支援を申請 債券含み損で財務悪化受け」
日本経済新聞「信金中央金庫の26年3月期、純利益1%増 運用改善で利息収入増」
日本銀行「金融システムレポート別冊 2025年度の銀行・信用金庫決算」(2026年7月24日)
神戸新聞NEXT「但馬信用金庫が13年ぶり赤字決算 26年3月期 金利上昇で債券の売却損220億円」
新潟日報「県内信用金庫・信用組合2026年3月期決算、長岡など3信金が最終赤字 コア業務純益は3分の2超が増益」
中日BIZナビ「紀北信金3月期決算、31億円の純損失 評価損の債権売却などで」
第一生命経済研究所(熊野英生氏)「政策金利1.00%への引き上げ~2026年6月の日銀金融政策決定会合~」

BusinessJournal編集部

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公開:2026.09.01 05:55