地銀・勘定系の王座から日立・富士通が脱落?アクセンチュア『黒船』襲来で崩れる牙城

●この記事のポイント
・地銀の勘定系システム市場で異変が起きている。日立のOpenStage中止や富士通の事実上撤退により、長年不動だった勢力図が崩れ始めた。
・日本IBMは共通基盤「SAIL」で囲い込みを強化する一方、アクセンチュアはJava化とクラウドを武器に「2025年の崖」を突き、急速に存在感を高める。
・堅牢性が前提となった今、銀行ITは「箱」から「経営戦略」へ。勘定系の主導権は重電メーカーからコンサル主導型へ移りつつある。
銀行の勘定系システム――。預金、為替、融資といった銀行業務の根幹を担うこの領域は、長らく「聖域」とされてきた。一度採用されれば数十年単位でベンダーが固定される極めて保守的な市場であり、「安心・安定」を最優先に、日立製作所、富士通、日本IBM、NTTデータといった限られた顔ぶれが寡占する構造が続いてきた。
しかし、その鉄の結束がいま、音を立てて崩れ始めている。2024年から25年にかけて、地方銀行を中心に、勘定系システムを巡る勢力図が大きく塗り替わりつつあるのだ。
背景にあるのは、①クラウド化の加速、②システムコストの圧縮、③「2025年の崖」に象徴されるレガシー脱却の圧力である。これまで「変えられない」とされてきた勘定系が、ついに“選別”の対象となった。
●目次
- 日立と富士通――かつての王者が直面する「出口」なき苦境
- 日本IBM――「SAIL」による巨大な囲い込み戦略
- アクセンチュア――Javaという「新兵器」とSBIの影
- 想定される地銀・勘定系システム市場の勢力変化
日立と富士通――かつての王者が直面する「出口」なき苦境
日立製作所:「OpenStage」が残した深い傷跡
日立製作所は、長年にわたり地銀勘定系市場で約15〜20%のシェアを握る有力プレイヤーだった。その日立が満を持して投入した次世代オープン勘定系が「OpenStage」である。
ところが、この切り札は期待とは裏腹の結果に終わった。2023年から24年にかけ、滋賀銀行、伊予銀行が相次いでOpenStageの導入中止を発表。特に伊予銀行は、約5年にわたる開発期間を経ながら、本稼働直前で「開発の遅延と難航」を理由に断念するという異例の事態となった。
銀行システムにおいて「本稼働直前の中止」が持つ意味は重い。
「勘定系は“失敗しても戻れる”システムではない。導入中止が公になること自体、他行に与える心理的インパクトは計り知れない」(金融アナリストの川﨑一幸氏)
この一件により、「日立なら安心」という定説は大きく揺らいだ。更新検討に入る地銀の間で、“日立外し”が静かに進んでいるとの見方もある。
富士通:メインフレームと共に去りぬ
一方、富士通の状況はさらに厳しい。かつて多くの地銀を抱えていた富士通だが、次世代勘定系として投入した「PROBANK」は、実質的に採用実績ゼロに終わった。
背景にあるのは、メインフレーム事業そのものの構造的限界だ。富士通は2030年代を視野に、メインフレームからの撤退方針を明確にしており、現在はNTTデータの地銀共同センターや日本IBMへの「顧客移管」を支援する立場に回っている。
「自社パッケージで戦うことを諦め、競合への“橋渡し役”になる。これは事実上の撤退戦だ」(元大手SIer幹部)
日本の金融インフラを長年支えてきた重電・電機メーカーが、勘定系という中枢から静かに退場しつつある。
日本IBM――「SAIL」による巨大な囲い込み戦略
この混乱の中で、着実に地盤を固めているのが日本IBMだ。地銀勘定系市場で約25〜30%のシェアを持つ同社は、マルチバンク対応の基盤「SAIL」を軸に、徹底した囲い込み戦略を進めている。
従来、銀行ごとに個別最適化されていたミドルウェアを共通基盤に集約することで、開発・保守コストを大幅に削減。地銀共同化システム「Chance」や「じゅうだん会」の参加行をSAILベースに移行させ、スケールメリットを最大化している。
「IBMは“ベンダー”というより“金融ITのプラットフォーマー”になりつつある」(川﨑氏)
富士通からこぼれ落ちた「浮動票」の最大の受け皿となっているのも、IBMだ。
アクセンチュア――Javaという「新兵器」とSBIの影
そして、この市場に最も大きな衝撃を与えているのが、アクセンチュアの存在である。
COBOLからJavaへ――「2025年の崖」への処方箋
多くの地銀が直面する最大の課題が、COBOL技術者の枯渇だ。いわゆる「2025年の崖」は、もはや理論ではなく、現実の経営課題となっている。
アクセンチュアは、COBOL資産をJavaへ自動変換する手法や、クラウドネイティブな勘定系構築力を武器に、この問題へ真正面から切り込む。
「COBOLを守るか捨てるか、ではない。“経営としてどう再設計するか”を提示できるのがアクセンチュアの強みだ」(同)
SBI連携と「みんなの銀行」という実績
象徴的なのが、SBIホールディングスとの連携である。福島銀行をはじめとするSBI傘下地銀に対し、次世代システムを供給。さらに、福岡フィナンシャルグループの「みんなの銀行」で培ったデジタルバンクの実績を武器に、独立系地銀への営業攻勢を強めている。
既存ベンダーが「仕様書通りに作る」受託開発にとどまるのに対し、アクセンチュアは「銀行経営のDX」から逆算して勘定系を再定義する。この“上流からの支配”は、従来型ベンダーにとって最大の脅威だ。
想定される地銀・勘定系システム市場の勢力変化
NTTデータ:地銀共同センターへの集約で首位堅持
日本IBM:「SAIL」による基盤統合で盤石
日立製作所:OpenStage失敗で存在感低下
富士通:自社パッケージ撤退、保守中心へ
アクセンチュア等新興:SBI連携・クラウドで急伸
2030年に向け、銀行ITの価値基準は明確に変わった。「止まらない」ことはもはや前提条件であり、問われるのは「いかに安く、いかに早く、新サービスを実装できるか」である。
高額な保守運用費で収益を上げてきた日立・富士通は、低コスト・高速開発を武器とするアクセンチュアとの価格破壊レースに巻き込まれ、構造的に不利な立場に置かれている。
「箱物の時代は終わった。これからの勘定系は“経営の武器”だ」(同)
日本の金融インフラは、重電・電機メーカーの時代から、グローバルな戦略コンサル・プラットフォーマーの時代へ。その覇権交代は、すでに始まっている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











