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レアステーキ丼の食中毒で10代女性が重症…「肉の生食」を出す飲食店がなくならない理由

2026.02.10 2026.02.10 00:50 経済

レアステーキ丼の食中毒で10代女性が重症…「肉の生食」を出す飲食店がなくならない理由の画像1

●この記事のポイント
・山口県でレアステーキ丼によるO157食中毒が発生し、10代女性が重症化。国は生食を厳格に規制しているにもかかわらず、生肉提供がなくならない背景とリスクを検証する。
・2011年の死亡事故を機に生食規制は強化されたが、基準を満たせば提供は可能。集客やブランド力向上を狙う店側の事情と、衛生管理の難しさが浮き彫りとなる。
・人気メニューとして根強い需要がある一方、違法な裏メニューや管理不十分な店も存在。生肉を食べる際に客が確認すべきポイントと自己責任の重みを問いかける。

 なぜ食中毒のリスクがあるとわかっていながら、日本人は生肉を欲してやまないのか――。

 1月、山口県周防大島町の飲食店「アロハオレンジ」でレアステーキ丼を食べた7人が食中毒の症状を訴え、3人の患者の便から腸管出血性大腸菌「O157」が検出され、10代の女性1人が溶血性尿毒症症候群を発症し重症となる事案が発生した。飲食店での生肉の提供をめぐっては過去に死亡事故も起きており、一部の種別・部位は生肉の提供が法律で禁止されており、国は基本的なスタンスとして肉の生食を推奨していない。

 それでも、なぜ飲食店はリスクを冒してまで生肉を提供するのか。また、提供する飲食店、そして食べる側の客は、どのような点に注意すべきなのか。

●目次

国は肉の生食提供を厳格に規制

 肉の生肉の危険性が国内で広く認識されるようになったきっかけは、2011年に富山の焼肉チェーン「焼肉酒家えびす」で発生した、ユッケを食べた計5名の食中毒による死亡事故だ。この事件を受け、国は牛レバーの販売を禁止するなど生食用食肉の規格基準を厳格化。

 現在、豚肉や豚レバーなどの豚の内臓も生食用として販売・提供することが法律で禁止されている一方、 馬肉、馬レバー、牛肉(牛レバー以外)は調理・加工等の一定の衛星基準を満たせば提供は許されている(鶏肉には生食用の基準はないが加熱調理が前提)。

 たとえば内臓を除く生食用の牛肉は、ブロック状の肉の表面から1センチメートル以上の深さまで60度で2分間以上加熱殺菌をして表面を切り取るという加工・調理の基準や、O157などの腸内細菌科菌群が陰性であることなどが規格として定められている。もっとも、食中毒菌を完全になくすことはできないため、国は子どもや高齢者など食中毒に対する抵抗力の弱い人は生食を控えるべきと定めており、基本的には肉の生食を推奨していない。

「店が肉の生食を提供する際には、畜場の名称やその肉の加工を行った施設の名称、所在地などを表示することが義務付けられているため、お客側としては、そのような表示がきちんとなされているのかが、その店が安全かどうかを判断する一つのポイントとなってくる」(外食チェーン関係者)

肉の生食を提供する店側の事情

 こうしたなか、国の基準を満たし保健所から許可を得たうえで肉の生食を提供する飲食店は少なくなく、なかには行列ができる人気店もある。たとえば、東京・恵比寿の焼肉店「#ヒロキヤ恵比寿」はライスの上に生肉と生卵の黄身を乗せた「#究極のユッケ丼」が人気メニューとなっている。東京・中目黒の焼肉店「Yakiniku.ushicoco.」も、黒毛和牛のユッケが食べられる店として有名。このほか、九州・中部・関東エリアに複数の店舗を展開する「極味や」は、上下の面に軽く焼き目をつけた“ほぼ生”のかたちでハンバーグを客に提供し、客が目の前の鉄板で好みの焼き加減にして食べる形態をとっている。

 全国ではしばしば食中毒が起きているにもかかわらず、なぜ肉の生食を提供する飲食店は多いのか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏は言う。

「大きな理由としては、飲食店として新鮮なものを扱っているというプラスのイメージを打ち出したいという狙いがあります。そして、やはり日本人の間では生食は人気が高いというのも理由の一つです。このほか、生食も提供できるとメニューのバリエーションの幅が広がり、集客上の武器にもなります。ある食材について生食メニューを食べたお客さんが、『これは美味しいので、焼いたものや揚げたものも食べてみよう』という感じで他のメニューを注文してくれることで客単価の上昇も見込めます。

 こうしたメリットがある半面、衛星管理が非常に大変になってくるというデメリットもあります。信頼できる業者から仕入れる必要がありますし、マニュアルをつくって温度管理や湿度管理を厳格に行い、『●%の塩水に●分浸ける』といったルールに則って食材管理や調理を行っていくのはコストと労力がかかります。ですので、こうした手間や食中毒リスクを勘案して生食の提供をやめるという判断をする店もあります」

 食中毒を発生させてしまう店には、大きく2パターンあるという。

「衛生管理を甘く見ている店が少なくないのは事実です。一方で、かなり厳格に衛生管理を徹底していても食中毒を起こしてしまう店もあります。どれだけしっかりと火を入れても、お客さんに提供される料理が100%無菌状態ということはあり得ず、たとえばお客さんが食べるときにたまたま体力が弱っていて抵抗力が下がっていれば、食中毒が起きてしまうということもあります。しっかりと火を通せば、その分、食中毒リスクは減りますが、肉料理の場合は火を通すとパサついたり硬くなり味や食感が悪くなってしまうこともあり、食中毒リスクの低減と料理のクオリティのバランスをどうとっていくのは難しいところでもあります」(江間氏)

客の安全より集客を優先する店も存在

“本当に危険な店”も存在するという。ある飲食店オーナーはいう。

「法律で禁止されているにもかかわらず、裏メニューとして牛レバーを提供して、それをウリにしている店や、料理のクオリティで勝負できないため、とにかく生食だけをウリにするといった店もあります。牛レバーなどを好む人は一定数いるので致し方ない面はあるものの、そうした店は、やはりお客さんの安全をおざなりにして集客を優先しているといえ、避けたほうが無難でしょう。食中毒は重いと後遺症が残ったり、特に子どもや高齢者など抵抗力の弱い人は死亡リスクもあるため、生食をナメるのは禁物です」

 あくまでも肉の生食は自己責任で。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部(株)代表)

江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部(株)代表

江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部(株)代表

東京未来倶楽部(株)代表
5年間大手信託銀行のファンドマネージャーとして勤務後、1998年独立。14年間、夜は直営店(新宿20坪30席)ダイニングバーの現場に出続けながら、昼間、プロデューサー・コンサル業。コンサル先の増加と好業績先の次の展開のため、2012年5月からプロデューサー・コンサル業に専念。
「数字(経営者側)と現場(スタッフ・オペレーション)の融合」「各種アイデア・提案」が得意。また、現場とのメニュー開発等、自称<「実践」料理研究家>。
・著書:『ランチは儲からない、飲み放題は儲かる』『とりあえず生!が儲かるワケ』『ド素人OLが飲食店を開業しちゃダメですか?』

Instagram:@masakazuema