トヨタ自動車の豊田章男会長は18日、報道陣を前に「(自動車業界が)日本から出ていけば、大変になる。ただ、今の日本はがんばろうという気になれない」「“ジャパンラブ”の私が日本脱出を考えているのは本当に危ない」「日本のサイレントマジョリティーは、自動車産業が世界で競争していることに、ものすごく感謝していると思う」と発言(「朝日新聞」記事より)。これを受け、トヨタが本社をはじめとする主要拠点を日本から海外へ移転させることを検討しているのではないかと注目されている。豊田会長の発言の真意は何か。また、もしトヨタが主要拠点を海外に移転させた場合、日本経済にどのような影響をおよぼすのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
型式指定の認証不正問題が発覚したトヨタ自動車。不正があった3車種は、国土交通省による型式認証の基準適合調査が行われている関係で8月末まで生産停止が続く見通しとなっており、生産停止は約3カ月にわたることになる。このタイミングでトヨタ会長が日本脱出を示唆する発言をした背景には何かあるのか。自動車評論家の国沢光宏氏はいう。
「自動車の製造過程において無数にあるチェック項目のうち、不適切な点が発覚したのは6項目のみで、これは不正というよりは『ミス』というのが正確な表現でしょう。それを国交省が『不正』だとして騒いでメディアの報道に火をつけて、ことさらに事を大きくしました。豊田会長は不正発覚後の会見で、国の認証制度について時代に合わない基準や不明確なルールが多く現場に負担がかかっているとして、制度改善の必要性を主張するなど、国交省に逆らうとも受け取れる発言をしたことも影響してか、国交省はトヨタに対して厳しい姿勢をみせています。たとえば、同じく認証不正が発覚したマツダやヤマハ発動機などは、すでに一部車種の生産が再開、もしくは再開のメドが立っていますが、トヨタはいまだにメドは立っておらず、国交省からイジメのような扱いを受けています。
豊田会長は非常に日本のことが好きな経営者として知られており、日本を支える自動車産業と国は一緒になって日本を盛り上げていくべきという考えを持っていますが、豊田会長の目には国交省は業界を取り締まることばかりに注力していると映っている。しかも、国交省は米国の自動車メーカーに対して噛みつくことはなく、日本のメーカーばかりに厳しい。米国では政府と自動車メーカーは一体となって国益を追求する傾向があるのに対し、日本の政府は自動車業界を敵視するような姿勢が目立ち、こうした国交省の姿勢に豊田会長は怒っているというよりは、失望しているという表現のほうが近いのではないでしょうか。現時点でトヨタが本社を海外に移転させることを真剣に検討しているということはないでしょうが、“このままだと本気で検討しちゃいますよ”ということを言いたかったのでしょう」
日本経済が大きく傾く
トヨタの2024年3月期の営業利益は5兆3529億円で国内トップ、売上高は45兆円に上り、トヨタグループの従業員は約38万人。関連する企業まで含めると、生み出される利益や雇用は無視できない規模となる。また、自動車産業全体でみると、日本の貿易収支を大きく左右する存在であり、2月の日本の輸出額8兆2492億円のうち、自動車は1兆3821億円、自動車部品は3235億円であり、2つを合計すると輸出額全体の約2割を占める(財務省「貿易統計速報」より)。
「もし仮に自動車産業がこぞって海外に移転すれば、日本経済が大きく傾くことになります。個別の企業でいえば、たとえばホンダは北米事業の比率が高いため、本社を北米に移しても大きな支障はないかもしれません。一方、トヨタは世界の各エリアでまんべんなく稼いでおり、地域ごとに分社化して本社を置くというというかたちは現実的でしょう」
(文=Business Journal編集部、協力=国沢光宏/自動車評論家)