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電柱を倒壊させても軽傷…トヨタ・センチュリー、価格2千万円の特殊な価値

文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター
電柱を倒壊させても軽傷…トヨタ・センチュリー、価格2千万円の特殊な価値の画像1
トヨタ・センチュリー(「Wikipedia」より/Benespit)

 トヨタ自動車の最高級セダン「センチュリー」が電柱に衝突して電柱が折れるほどの事故を起こしたものの、フロントガラスが無傷のままで、フロントドアとリアドアが通常どおり開けられる様子を収めた写真が「さすがセンチュリー」などと話題を呼んでいる。センチュリーとはどのような車種なのか、専門家の見解を交えて追ってみたい。

 センチュリーの初代車種が発売されたのは1967年。車名の由来はトヨタグループ創設者・豊田佐吉の生誕100年を記念したことによる。内閣総理大臣専用車や皇室専用車としても納入されており、日本車のなかでは最高級車に位置付けられている。フロントグリルの中央に鎮座する鳳凰エンブレム、水平・垂直を基本とし日本の伝統建築の技法を取り入れたデザイン、「水研(すいけん)」と呼ばれる工程を繰り返し何層にもわたる塗装が行われ鏡面のように輝く塗装面は、まさに芸術品ともいわれる。

 現行車種は2018年にフルモデルチェンジが行われた3代目で、エンジンはV型8気筒5.0Lハイブリッドシステムで燃費はWLTCモードで12.4km/L、タイヤは専用に開発された18インチタイヤ。オートレベリング機能で常に車高を一定に保ち、AVS機能付き電子制御エアサスペンションにより車体の動きを滑らかに抑える。「紗綾形(さやがた)崩し柄」の織物をあしらった天井や本杢オーナメントが施された内装も快適性が追求されており、後席の背もたれには腰から肩までを押圧するエアブラダー(空気袋)が内蔵され、ヒートシーターや夏にシート表皮の熱気を吸い込むベンチレーション機能も搭載されている。

 部品はほぼすべて専用のものが使われていることから、平均価格は2000万円にも上る。ちなみにサイズは全長5335mm、全幅1930mm、全高1505mmとセダンとしては大きい点も特徴の一つだ。

後席に座る人のことを最優先に考慮して設計

 センチュリーは、どのようなニーズを持つユーザが所有しているのか。中古車販売店経営者で自動車ライターの桑野将二郎氏はいう。

「センチュリーは人気や売れ行きなどという物差しでは測れない、別世界のクルマです。そもそも量産車ではありませんし、ドライバーズカーではありません。2022年のデータによれば月間販売台数は平均13台、年間でも150台程度しか売れていません。1台ずつ手作りで、運転するドライバーのことよりも、後席に座る人のことを最優先に考慮して設計されています。ドライバーの目線が考慮されているとすれば、後席に乗る人から運転席での操作や仕草をいかに見えないようにするかが考えられているくらいで、徹底して後席のために作られています。ですから、ニーズがあるのは法人の役員を乗せる専用車や、自治体の公用車などが主になるかと思われます。

 今回の事故の写真を見ますと、センチュリーが電柱をなぎ倒していますが、運転手は軽傷と発表されていますよね。フロントガラスも割れず、ドアも普通に開いています。万が一の際にも、後席の人を守るための配慮が至る所に散りばめられた、間違いなくトヨタの最高級車であることがうかがい知れます。とはいえ、センチュリーのハンドルを自身の手で運転したい人がいることも事実で、中古車市場で手頃な値段になった個体を探して、ピカピカに磨きドライブするというマニアが知り合いにいます。こういう例は、一般的なセンチュリーのユーザ層とは異なるファン層ですから、マイノリティではあります」

 どのような特徴のある車種なのか。

「いわずもがな、トヨタの最上級車種であり、日本を代表するショーファードリブン(運転手がドライブし、後席の人を快適に運ぶための車)がセンチュリーです。そして、前述のとおり、人を乗せるためのクルマとして専用設計されています。具体的な例を挙げると、乗り降りしやすいシートとサイドシルの高さ、高い静粛性、後席の人の顔映りが良くなるように反射の少ない艶消しシルバーが採用された窓枠、乗降時に人の姿が歪んで見えないように鉄板を極力フラットにデザインされたドアなど、すべてが特殊です。現行モデルはエンジンがハイブリッド化されて経済性も考慮されていますが、先代モデルは5リッターのV12気筒エンジンを搭載し、万が一エンジンを狙撃されても片バンクだけで走れるように作られていたり、我々の日常生活で想定できる状況をはるかに超えた次元で作られています」(桑野氏)

世界中のショーファードリブンに比べてもバリュー感がある

 では、高額な価格に見合う価値があるといえるのか。

「もちろんお金をかけて専用設計で作られているトヨタのフラッグシップカーですから、2000万円のプライスが妥当だと考える人も多いと思います。高額である理由は意外とシンプルで、数が売れないから1台あたりが高くなっている、ということもいえるでしょう。基本的には国内需要メインで、専用の製造ラインで職人が手作りで組み上げています。室内の素材にもこだわり、ボディの塗装は超高級塗料を使い7層にもわたって塗られたうえに、仕上げは職人の技が入るといいます。こうした品質の高さだけでなく、生産効率やトヨタの威厳を示すブランドステータスなど、高額になる理由は多々あります。

 販売台数や利益などは度外視して、トヨタというメーカーが皇室や公人のために存在意義を示すクルマ、それが歴史と品格を備えたセンチュリーなのだと思います。もちろん、価格相応の価値は十分にありますし、むしろ採算度外視で作られている1台ですから、世界中のショーファードリブン(ドイツのメルセデス・マイバッハや、イギリスのロールスロイス・ファントムなど)に比べてもバリュー感があるのではないでしょうか」

(文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター)

桑野将二郎/自動車ライター

桑野将二郎/自動車ライター

1968年、大阪府生まれ。愛車遍歴は120台以上、そのうち新車はたったの2台というUカー・ジャンキー。中古車情報誌「カーセンサー」の編集デスクを務めた後、現在はヴィンテージカー雑誌を中心に寄稿。70~80年代の希少車を眺めながら珈琲が飲めるマニアックなガレージカフェを大阪に構えつつ、自動車雑誌のライター兼カメラマンとして西日本を中心に活動する。
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