東京都心中古マンション高騰にブレーキ…1.8億円で頭打ち、値下げ物件が急増

●この記事のポイント
東京・都心6区の中古マンション市場で価格上昇に一服感が見え始めた。東京カンテイのデータでは平均希望売り出し価格が1億8000万円台で足踏みし、売り出し物件の約半数が値下げを経験。背景には投資マネーの慎重姿勢、住宅ローン金利の上昇、実需層の買い控えがある。一方で市場全体の暴落ではなく、立地や物件ごとの差が広がる「選別相場」への移行が進んでいる可能性を分析する。
東京の中古マンション市場で、これまでの右肩上がりの値動きに変化の兆しが出ている。不動産調査会社の東京カンテイ(東京・品川)によると、千代田・中央・港・新宿・文京・渋谷の「都心6区」における中古マンションの平均希望売り出し価格(70平方メートル換算)は、2025年後半から1億8000万円台で足踏みが続いている。2025年2月には初めて1億5000万円台に乗せ、25カ月連続で上昇するなど勢いを保ってきただけに、ここ半年の「足踏み」は市場関係者の間で注目を集めている。
さらに目を引くのが、売り出し物件の約半数が値下げを経験しているというデータだ。これまで相場をけん引してきた投資目的の需要に陰りが見え始めているとの見方が、業界内で広がりつつある。
●目次
「強気の価格」が通らなくなった現場
価格の踊り場は、湾岸エリアなど一部の地域でより早く表面化していたとみられる。豊洲や勝どきといった湾岸エリアで不動産仲介を手掛けるFJリアルティの藤田祥吾社長は、湾岸の中古マンション価格が上昇を続けてきた一方、2025年末ごろから踊り場を迎えていると指摘する。強気の売り出し価格のままでは成約に至らない案件が増え、売り手が価格を引き下げる動きが目立ってきているという。
不動産仲介の現場では、これまで「いま買わないと値段はさらに上がる」という売り急がせるトークが一定の説得力を持っていた。しかし、売れ残り期間が長期化する物件が増えるにつれ、買い手側が値下げ交渉の主導権を握る場面も見られるようになってきた。価格交渉のあり方が、売り手優位から徐々に変化しつつある局面といえる。
「踊り場」の背景にある複合要因
なぜ都心の価格上昇に一服感が出ているのか。専門家が指摘する要因は主に三つある。
第一に、投資マネーの慎重姿勢だ。 価格高騰を受けて政府や自治体が抑制的な姿勢を打ち出したことで、売却益を狙う国内外の投資家が購入に二の足を踏み始めているとの指摘がある。東京23区の新築マンション取得者のうち海外住所を持つ人の割合は、国土交通省の調査では2025年1〜6月時点で都心6区に限ると7.5%に達しており、都心ほど海外投資マネーの存在感が大きいことがうかがえる。こうした投資需要の伸び率が鈍化すれば、上値を追う力は弱まりやすい。
ある大手不動産会社の幹部は次のように話す。
「ここ数年は『価格が上がるから買う』という投資家も少なくありませんでした。しかし価格が横ばいになれば、投資家は急速に様子見へ転じます。不動産市場は実需よりも期待値で動く部分があり、その期待が少しでも弱まれば売買回転率は落ちます」
第二に、金利上昇という構造的な逆風だ。 住宅ローン金利の先高観が意識される中、実需層・投資層を問わず購入予算の上限が実質的に切り下げられつつある。
「マンション価格は金利の影響を非常に受けやすい資産です。これまで超低金利が価格を押し上げてきましたが、今後は金利上昇によって購入可能価格が実質的に下がる局面に入りつつあります。価格が下落しなくても、伸び率は確実に鈍化しやすくなります」(不動産ジャーナリストの秋田智樹氏)
日経ヴェリタスの分析でも、中古マンション価格は本来、株価に遅れて連動する傾向があるとされるが、足元では株高のペースに価格上昇が追いついていないとの指摘がある。資産価値の先行指標としての株式市場と、不動産市場との連動性に乱れが出ている点は注視に値する。
第三に、実需層の「様子見」姿勢だ。 東京カンテイの上席主任研究員・高橋雅之氏はこれまで、新築マンションの供給減少を背景に実需層が中古市場へ流入し、株高による資産効果も相まって富裕層の購入意欲が価格を押し上げてきたと分析してきた。しかし、都心の価格が高止まりする局面では、無理のある価格帯まで背伸びして購入していた層が、相場の先行きを見極めるために購入を先送りする動きも出やすい。
「暴落」と決めつけるのは早計
ここで強調しておきたいのは、現時点のデータは「高騰の一服」「値下げ物件の増加」を示すものであり、価格の急落・暴落を裏付けるものではないという点だ。東京23区全体で見れば、新築マンションの供給減少を背景に中古市場へ実需が流入する構造は変わっておらず、都心の希少な立地・物件には根強い需要が残る。東京カンテイは年内についても東京23区の価格上昇継続を見込む分析を示しており、市場全体が一様に縮小に向かっているわけではない。
価格動向には地域差・物件差が大きい点にも注意が必要だ。千代田区のように希少性の高いエリアでは高値が維持されやすい一方、投資・投機目的の比率が相対的に高いとされる湾岸エリアや、コロナ禍のテレワーク需要を背景に価格が上昇した郊外エリアの一部では、需給バランスの変化が価格に表れやすいとの見方もある。ただし、これらはあくまで構造的な特性に基づく可能性の指摘であり、個別の確定的な予測ではない。
「価格調整局面に入ったとしても、都心マンション市場は一枚岩ではありません。立地、築年数、管理品質、ブランド力によって価格形成は大きく異なります。『東京のマンションが下がる』という一括りの議論は実態を正確に表していません」(同)
不動産取引においては、売り出し価格がそのまま成約価格になるとは限らない。検討中の物件がどの程度の期間売りに出されているか、近隣の成約事例と比較してどう評価されるかを冷静に確認する姿勢が、これまで以上に重要になっている。
市場が転換点を迎えつつあるのか、一時的な踊り場にとどまるのかを見極めるには、今後数カ月の東京カンテイなどの統計データの推移を注視する必要があるだろう。過熱と冷静さのあいだで揺れる都心マンション市場の行方は、引き続き取材を続けていきたい。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=秋田智樹/不動産ジャーナリスト)











