ビジネスジャーナル > 経済ニュース > メモリ価格「来年1月に2倍」の衝撃

メモリ価格「来年1月に2倍」の衝撃…2028年まで続く“デジタル増税”の正体

2025.12.20 2025.12.19 23:53 経済

 

メモリ価格「来年1月に2倍」の衝撃…2028年まで続くデジタル増税の正体の画像1
UnsplashPossessed Photographyが撮影した写真

●この記事のポイント
・生成AI需要の急拡大でメモリ価格が異次元の高騰局面へ。サーバー最大190%、PC150%値上げの背景には、AI向けHBMへの生産集中という構造変化がある。
・メモリ不足は一時的現象ではなく、工場建設の遅れやAI PC普及により2028年まで続く可能性が高い。日本製メモリも世界向けAI需要に吸い取られている。
・この「メモリ・ショック」はDX投資やIT調達コストを直撃する“見えない増税”。企業には、価格下落を待たない前倒し投資と戦略的見直しが迫られている。

 昨日までの常識が、もはや通用しない――。IT業界の底流で、今まさに恐るべき地殻変動が起きている。

 私たちの生活やビジネスに不可欠な半導体部品「メモリ(DRAM・NANDフラッシュ)」の価格が、2026年初頭を境に異次元のフェーズへ突入しつつある。市場関係者の一部予測では、サーバー向けメモリで最大190%、一般的なPC向けでも150%前後の値上げが現実味を帯びて語られている。

 さらに深刻なのは、この高騰が一時的な需給の乱れではなく、2027年から2028年まで続く可能性のある「構造的欠乏」だという点だ。かつて「安価な消耗品」と見なされていたメモリは、いまや原油やレアメタルに匹敵する戦略物資へと変貌しつつある。

●目次

AIという名の「巨大なブラックホール」

 メモリ価格高騰の最大要因が、生成AI需要であることに異論はない。NVIDIA製GPUを中核とするAIサーバーでは、従来型サーバーの数倍から十数倍のメモリ容量が要求される。特に注目されているのが、GPUと一体で使われるHBM(高帯域幅メモリ)だ。

 だが、問題の本質は単なる需要爆発ではない。供給側で進行している「構造転換」が、一般消費者や中小企業を直撃している点にある。

 世界のメモリ市場は、韓国サムスン電子、SKハイニックス、米マイクロン・テクノロジーの3社が事実上寡占している。これらの企業はいずれも、利益率の高いAI向けHBMの増産に経営資源を集中させている。その結果、PCやスマートフォン、一般サーバー向けの「汎用メモリ」の生産ラインは後回しにされ、市場全体で供給不足が慢性化している。

 元半導体メーカー研究員で経済コンサルタントの岩井裕介氏は、次のように指摘する。

「HBMは通常のDRAMに比べて単価が数倍に達する。メーカーがAI向けに傾斜するのは合理的な経営判断だが、その“副作用”として、汎用品の価格が跳ね上がる構図が生まれている」

国内メーカーの苦悩と「国産メモリ」の現在地

 では、日本の半導体メーカーはこの変化をどう受け止めているのか。

 かつて世界を席巻した「半導体王国・日本」は、DRAM事業からは事実上撤退し、現在はキオクシア(旧東芝メモリ)がNANDフラッシュで奮闘し、DRAMでは米マイクロンの広島工場が国内唯一の生産拠点となっている。

キオクシアのジレンマ

 NANDフラッシュ価格の上昇は、長らく市況低迷に苦しんできたキオクシアにとって、確かに追い風だ。しかし一方で、HBMやAI向け高付加価値SSDへの対応では、海外勢に後れを取っているとの指摘も根強い。

 岩井氏はこう語る。

「価格上昇の恩恵をどこまで投資に回せるかが分岐点になる。市況回復が一時的に終われば、再び苦境に戻りかねない」

マイクロンの「広島シフト」

 一方、マイクロンは広島工場を次世代HBMの重要拠点と位置づけ、日本政府から巨額の補助金を引き出しつつ、最新設備を導入している。しかし、そこで生産されるメモリの主な供給先は、世界中のAIデータセンターだ。

 皮肉にも、日本の地で製造された最先端メモリが、日本国内の中小企業や自作PCユーザーの調達難を間接的に加速させている。

なぜ2028年まで出口が見えないのか

 専門家の多くが、この需給逼迫は2028年ごろまで続くと見ている。その理由は大きく2つある。

工場建設の時間軸

 半導体工場は、計画から量産までに5年以上を要する。マイクロンが広島で計画する新工場「FAB6」も、フル稼働は2020年代後半とされる。それまでは、供給能力が急増する見込みは乏しい。

「AI PC」という新たな需要

 2025年以降、Windows PCではAI処理能力が標準要件となり、搭載メモリ容量は8GBから16GB、さらには32GBへ引き上げられる流れが加速している。1台あたりの搭載量増加は、市場全体のメモリ需要をさらに押し上げる。

「AIはサーバーだけでなく、個人のPCにも波及する。これは“静かな需要爆発”だ」(同)

ビジネスパーソンに突きつけられる「覚悟」

 もはや「待てば安くなる」という従来の購買判断は通用しない。2025年以降の価格改定を前に、IT資産の調達を前倒しするか、あるいは『メモリは高いもの』という前提で事業計画を組み直す覚悟が求められている。

 この「メモリ・ショック」は、単なるPCパーツの値上げではない。日本企業のDX投資を圧迫し、クラウド利用料やシステム更新コストを通じて、企業収益を静かに削り取る“見えない増税”として作用する。

 デジタル資源が無限に安価だった時代は、確実に終わりを告げた。私たちは今、その転換点の只中に立っている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)