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メタ「著作権侵害の組織的黙認」で集団訴訟の衝撃…AI開発競争に急ブレーキの懸念

2026.02.01 2026.01.31 22:59 企業

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●この記事のポイント
・メタが著作権侵害を黙認したとして米国で集団訴訟。DMCA削除要請の機能不全が露呈し、SNSの収益構造が問われている。
・無断転載の放置だけでなく「本家が凍結される」逆転現象も問題化。プラットフォームの管理責任が司法の俎上に載った。
・判決次第では生成AIにも波及。権利処理コスト増が開発競争にブレーキをかけ、AI市場のルールが変わる可能性がある。

 FacebookやInstagramを運営する米メタ(旧Facebook)に対し、米国で新たな集団訴訟(クラスアクション)が提起された。原告となったのは、竜巻や巨大嵐を追い、命がけで気象現象を撮影する「ストームチェイサー(嵐の追跡者)」として知られるクリエイターたちだ。

 彼らは、メタのプラットフォーム上で自らの映像が無断転載され続けているにもかかわらず、同社が著作権侵害の通報に十分な対応を取らず、侵害状態を“事実上黙認”してきたと主張する。損害賠償に加え、システム改善などの是正措置を求めている。

 本件は単なる「クリエイター vs. プラットフォーム」の紛争にとどまらない。SNSが抱える根深い構造、すなわち「ユーザー滞在時間と広告収益の最大化」を軸にしたビジネスモデルと、著作権・コンプライアンスの衝突が、司法の場で正面から問われる局面に入ったからだ。

 さらに見逃せないのは、この争点が生成AI開発競争とも接続しうる点である。著作物の取り扱いが厳格化すれば、AI開発企業やプラットフォーマーは、学習データの確保や権利処理コストの負担を避けられず、競争ルールそのものが変わりうる。

「速度」か、「正当性」か。生成AI時代の“成長至上主義”が、いま試されている。

●目次

数百件の削除要請が“効かなかった”という主張

 今回の訴訟を主導するのは、米国で著名なストームチェイサーであるブランドン・クレメント氏らのグループだ。嵐や竜巻の接近を予測し、危険地帯に入り込んで撮影する映像は、ニュース価値が高いだけでなく、研究用途や災害啓発としても社会的意義を持つ。言い換えれば彼らにとって映像は「作品」であると同時に、「生計を支える資産」でもある。

 訴状によれば、原告らはFacebookやInstagram上で自らの映像が無断転載されるたびに、米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく削除通知(テイクダウン通知)を提出してきたという。その件数は「数百件に及ぶ」とされる。

 しかし原告側は、メタがこうした通知に対し適切に対応せず、侵害投稿が残り続けたケースがあると主張している。メタの規約上、著作権侵害は明確に禁止されているものの、その運用が追いつかず、結果として侵害コンテンツが“温存”されている――。原告らの問題提起はそこにある。

 もちろん現時点で、これらは原告側の主張であり、裁判の中で事実認定が争われる。ただ、削除要請の運用がブラックボックス化していることは、長年クリエイター側が抱えてきた不満の核心でもある。

「侵害者が残り、本家が凍結される」逆転現象の深刻さ

 さらに深刻なのは、著作権対応の遅延や未処理そのものではない。原告側が問題視するのは、AIや自動検知システムの誤作動によって、侵害者側が“権利者”として扱われ、逆に正当な権利者がアカウント停止・ブロックを受けるような「逆転現象」が起きているという点だ。

 本来、権利侵害を止めるための仕組みが、権利者を締め出す結果になっているとすれば、被害は単なる収益逸失に留まらない。クリエイターにとってSNSアカウントは、作品発表の場であると同時に、ファンや取引先に対する信用の証明でもある。アカウント凍結は、事実上の“営業停止”に近い打撃を与える。

 米国の情報法にまつわる訴訟に詳しいITジャーナリスト・小平貴裕氏は、次のような見解を示す。

「DMCAは、権利者保護と表現の自由のバランスを取るための制度設計だが、現代のSNS規模では“制度が回っていない”という現実がある。誤判定で正当な権利者が排除されると、救済の遅れ自体が二次被害を生む。裁判では、メタが通知をどの程度組織的に処理していたか、あるいは放置していたかが争点になり得る」

 SNSは今や、クリエイターの活動基盤そのものだ。その基盤の上で「守るべき人が守られない」状態が続けば、反発が集団訴訟に拡大していくのは自然な流れだろう。

なぜ改善が進まないのか…背景に“広告ビジネス”のジレンマ

 では、なぜメタは十分な対応を取れていないのか。原告側は、メタが「著作権侵害を放置した方が、プラットフォームのトラフィックを維持できる」という構造的誘惑を抱えていると指摘する。

 SNSの広告ビジネスは、基本的に「滞在時間×表示回数」で収益が決まる。極論すれば、ユーザーの目を引くコンテンツが多いほど、広告枠の価値は高まる。そこに“無断転載されたバズ動画”が混ざっていたとしても、短期的には数字が作れてしまう。

 メタを巡っては過去に、詐欺広告や禁止商品の広告に関して「対策不足が指摘された」とする報道もあり、プラットフォーム上の問題を“収益優先で見過ごしているのではないか”という疑念がくすぶってきた。

 もちろんメタ側も、違法コンテンツの削除体制強化や通報処理の改善を掲げてきた立場である。しかし現場で体感される改善が遅ければ、「結局、ビジネスを優先しているのではないか」という疑いは晴れない。

「SNS企業は“中立な場の提供者”でありながら、アルゴリズムで注目を配分する“編集者”でもある。著作権侵害の抑止を本気でやるほど、短期的には滞在時間や再生数が落ちる可能性がある。結果として企業が『コストの割に得がない』と判断しやすい構造がある」(同)

 ここにあるのは、単なる怠慢ではなく、ビジネスモデルが内包する倫理的な矛盾だ。メタが問われているのは、法的責任だけではない。「成長のためならどこまで見過ごすのか」という価値判断である。

生成AI競争への波及:論点は「学習データ」だけではない

 今回の訴訟が持つ意味は、メタ一社の問題に閉じない。なぜなら、著作権侵害をめぐる社会の視線は、生成AIの学習データ問題にも直結しているからだ。

 動画生成AIのOpenAI「Sora」や、各社のマルチモーダルAI(テキスト・画像・動画を扱うAI)は、性能向上のために大量の学習データを必要とする。しかしインターネット上のコンテンツは、権利関係が複雑で、完全なクリアランス(権利処理)が困難なケースも多い。

 ここで重要なのは、「著作権侵害コンテンツの放置」と「AI学習データの問題」は同一ではないことだ。ただし共通する根は、“権利処理を後回しにしやすい産業構造”にある。

 もし裁判を通じて、プラットフォーマーの管理責任がより強く認定される方向に動けば、SNSだけでなく、AI企業やデータ利用者も「権利処理コスト」を明示的に負担する流れが強まる可能性がある。

「生成AIの競争は『モデルが賢いか』から、『合法的にデータを確保できるか』へ移りつつある。権利者保護の強化は、短期的には開発速度を落とすが、長期的には市場の信頼を回復し、健全な競争条件を作る。今後は“データ調達力”がAI企業の競争力の一部になる」(同)

 結果として、AIビジネスの収益モデルも見直しを迫られる。無料サービスでユーザーを集め、広告やサブスクで回収する設計が、権利処理コストの増大に耐えられるのか――。議論は、より現実的なフェーズに入っていく。

日本企業・クリエイターにとっての「他人事ではない」現実

 この問題は米国の集団訴訟だが、日本の事業者・クリエイターにとっても対岸の火事ではない。なぜなら、日本でも動画クリエイター、報道機関、研究者、企業の広報素材などが、SNS上で無断利用される事例は珍しくないからだ。

 また企業側も、マーケティング目的でSNS動画を埋め込んだり引用したりする場面が増えている。そのとき、「どこまでが適法か」「転載・二次利用に該当しないか」「権利者の許諾は取れているか」を曖昧にしたまま進めれば、炎上や法的紛争に直結する。

 プラットフォームが“管理する側”としての責任を問われる時代には、投稿者・利用者側のリテラシーも同時に問われる。そして企業が求められるのは、「速さ」よりも「説明可能性」である。

「成長の免罪符」が通用しない時代へ

 クリエイターの権利を守る盾であるはずのDMCAが、実務上うまく機能していない――。その疑念が、メタという巨大プラットフォーマーに向けて集団訴訟の形で噴き出した。

 本件の焦点は、単純な勝ち負けではない。問われているのは、巨大な広告プラットフォームが「違法行為を防ぐインセンティブ」を本当に持っているのか、そして持てない構造なら、社会はそれをどのように規制・設計し直すべきかという点だ。

 生成AIが社会インフラ化し、動画や画像の価値がますます高まる時代に、著作権は“守るべき過去”ではなく、“競争力の源泉”になる。無断転載を許す世界では、最前線でリスクを取って作品を生み出す者が報われない。その不均衡は、いずれ市場の信頼を崩壊させる。

 メタに突きつけられた今回の訴訟は、ビッグテックが成長のために見過ごしてきたものを、司法が“問い直す”局面に入ったことを示している。そしてそれは、SNSと生成AIの未来に対し、明確な警告となるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=小平貴裕/ITジャーナリスト)