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ダイヤモンド半導体、実用化へ…宇宙・通信産業に飛躍的な発展、環境負荷低減も

2025.05.06 2025.05.06 19:38 IT
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ダイヤモンド半導体パワー回路(佐賀大学のプレスリリースより)

●この記事のポイント
・ダイヤモンド半導体が実用化に近づいている。
・Beyond 5G基地局からの出力の飛躍的向上、宇宙領域での応用などが期待される。
・エネルギー効率の向上、環境負荷低減、CO2排出量の削減によるカーボンニュートラルの進展にもつながる

「究極の半導体」と呼ばれ、次世代の超高性能半導体として注目されるダイヤモンド半導体が、実用化に近づいている。放熱性、耐電圧性、耐放射線性に優れており宇宙空間でも安定に動作させることができ、Beyond 5G基地局からの出力の飛躍的向上や、真空管が使用されている通信衛星の半導体化の実現が期待されている。生成AIの普及に伴う電力需要の増大が社会的課題となるなか、現在普及しているシリコン半導体の約5万倍の高出力電力・高効率のパワー半導体によって、電力損失や発熱の抑制によるエネルギー効率の向上、環境負荷低減、CO2排出量の削減によるカーボンニュートラルの進展にもつながる。世界で初めてダイヤモンド半導体パワー回路の開発に成功し、技術開発をリードする佐賀大学理工学部教授の嘉数誠氏に、実用化に向けた現在の状況、産業・社会に与える影響などについて聞いた。

●目次

 ダイヤモンド半導体は、従来のシリコン、シリコンカーバイド、窒化ガリウムの代わりにダイヤモンドを用いる半導体。佐賀大学は2023年に世界で初めてダイヤモンド半導体デバイスのパワー回路技術の開発に成功し、実用で重要なスイッチング特性や寿命試験などの動的な特性を測定することが可能となった。研究開発を進める一方、今年1月には伊藤忠テクノソリューションズと、4月にはJVCケンウッドとの連携を発表するなど民間企業とも連携しながら、規格の標準化や量産化の推進に取り組んでいる。26年度中にサンプル出荷を開始する見込み。

従来のパワー半導体よりも高いエネルギー効率、高出力を実現

 ダイヤモンド半導体の普及・実用化は、産業・社会にどのような影響を与えるのか。嘉数教授はいう。

「ダイヤモンド半導体は内部を流れる電子やキャリア(半導体素子の機能をつかさどる担体)の速度が速く、金属よりも熱伝導性や耐熱性に優れています。これらの物性により、従来のシリコンカーバイドや窒化ガリウムなどのパワー半導体よりも高いエネルギー効率、高出力を実現できます。ダイヤモンドの中を走るキャリアの速度が速いため、高い周波数や高出力の半導体にも使えます。例えば、放送地上局や人工衛星の電波を出す機器には、いまだに真空管が使われており、効率が低くエネルギーロスが大きいことが課題となっています。この真空管をダイヤモンド半導体に置き換えることによってエネルギー効率や信頼性が向上し、環境負荷低減にもつながります。

 課題としてはコストの問題があります。現在パワー半導体で広く使われているシリコンカーバイドと比べてダイヤモンドは高価であり、それを考慮すると、個人的にはパワー半導体よりも宇宙領域での応用が向いているのではないかと考えています。ダイヤモンド半導体は耐放射線性に優れており、宇宙空間は宇宙線が降り注いでいるため従来の半導体は短時間で故障してしまいます。そうした特性を踏まえると、宇宙領域がもっとも応用しやすいかなと個人的には考えています。ちなみにダイヤモンドは量子コンピュータの量子メモリに使うとよいということも分かっており、その研究も進んでいます。

 社会的な意義という点では、エネルギー効率の向上があげられます。電圧とエネルギー効率はトレードオフの関係にあり、半導体の設計を工夫してより高い電圧を加えられるようにすると、エネルギー効率はどんどん低下します。その問題を解決するのがダイヤモンド半導体ということになります」

情報社会へのインパクトも大きい

 実用化に向けてた取り組みは、どのようなステータスなのか。

「我々が開発しているパワー半導体の寿命は約5カ月半で、それだけ長期間動かしても壊れないという技術はすでに確立できており、2026年度にはサンプル出荷する見込みとなっています。その意味では、実用化の一歩手前のところまで来ています。

 普及に向けた課題としては、コスト面があげられます。ダイヤモンドのウエハーは世の中にまだないので、つくる必要がありますが、我々は大口径のダイヤモンドウエハーをつくる技術を開発しており、共同研究している企業では5cmのものまでできており、またコストも下げていけると考えています。ただ、シリコンのウエハーは30cm、45cmのものがあり、それに比べるとダイヤモンドウエハーはまだ小さく、コスト面は課題になると考えています。また、ダイヤモンドの素子は実験室では動いていますが、市販する際にはモジュール化などが必要になってきます。前工程の生産体制は概ね確立できましたが、後工程はこれから確立していく必要があります。

 今後、Beyond 5Gや6Gなど、より高い周波数の電波、高出力の電波が求められてくるなか、現状では真空管が使われている電波を飛ばす機器をダイヤモンド半導体に置き換えることができれば、無線通信でスマホで大容量の動画を見れるということにもつながってきます。そういう情報社会へのインパクトもあると考えています」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=嘉数誠/佐賀大学教授)

嘉数誠/佐賀大学理工学部教授

嘉数誠/佐賀大学理工学部教授

1990年日本電信電話株式会社に入社し、基礎研究所に所属。研究に取り組みながら、日本国内の大学、ドイツやフランスの大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所などで講師や研究員を務める。2011年に佐賀大学大学院の教授に就任。