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京都で脱・中国が進行、春節ショックでも崩れず…観光モデル再編で欧米豪4割時代へ

2026.02.13 2026.02.13 00:39 経済

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●この記事のポイント
 2026年春節に中国政府の訪日自粛要請が重なり、中国人団体客の予約が急減している京都。しかし京都市観光協会の調査では、ホテルの約6割が「前年比減」と回答する一方、「大幅減」は12.3%にとどまり、影響は想定より限定的だった。背景には、外国人宿泊客の約4割を占める欧米豪市場の拡大がある。欧米客は5〜7泊の長期滞在や体験型消費を重視し、1人当たり消費額も高水準。ラグジュアリーホテルや高級旅館は単価を維持し、地域連携型の体験商品やデジタル戦略の転換も進む。中国依存から脱却し、「量から質」へ転換する京都の動きは、日本のインバウンド政策の方向性を占う試金石となっている。

 中国の大型連休「春節」は17日からだが、今年は15日から連休が始まり史上最長の9連休となる。例年であれば、京都の中心部は中国人団体客で埋め尽くされるはずだった。祇園や嵐山では大型バスが列をなし、百貨店や家電量販店では免税カウンターに長蛇の列ができる――それが“いつもの光景”だ。

 しかし今年、その景色は一変する。日中間の緊張を背景に、中国政府が訪日旅行への自粛を事実上促したことで、団体ツアーは急減。春節商戦は肩透かしを食らっている。

 だが、現場の空気は意外にも冷静だ。それどころか、一部ではこの状況を「長年の構造問題を見直す好機」と捉える声すら上がる。京都でいま起きているのは、単なる客層の変動ではない。観光経済そのものの“質的転換”である。

●目次

データが示す「想定より軽微」な影響

 京都市観光協会が公表した2026年春節期間の調査によれば、市内ホテルの予約状況について「前年比で減少」と回答した施設は約6割に達した。約3割は客室単価を引き下げたという。

 数字だけ見れば打撃は深刻に映る。しかし内訳はやや異なる様相を示す。

・「大幅に減った」:12.3%
・「やや減った」:49.1%
・「ほとんど変わらない」:31.6%

 観光政策アナリスト・湯浅郁夫氏はこう指摘する。

「中国人団体客の消失は確かにインパクトが大きい。ただし、京都の場合は市場の多様化が進んでいたため、ダメージは想定よりも限定的だった。むしろ依存度の高かった事業者と、そうでない事業者の差が顕在化した」

 事実、ラグジュアリーホテルや高級旅館では稼働率・客室単価ともに前年並み、あるいは微増というケースも少なくない。京都のインバウンド構造は、すでに変わり始めていたのだ。

欧米比率4割が生む「高単価・長期滞在」

 2025年時点で、京都市内の外国人宿泊客に占める欧米豪の割合は約4割に達している。全国平均を大きく上回る水準だ。

 中国人団体客が「1〜2泊・短期滞在・モノ消費」を中心としていたのに対し、欧米豪の旅行者は「5〜7泊・長期滞在・コト消費」を重視する傾向が強い。

 観光庁の消費動向調査によれば、欧米豪の訪日客1人あたりの滞在日数と消費単価はアジア主要国より高い水準にある。特に体験型アクティビティや飲食、文化体験への支出比率が高い。

 京都市内の外資系ホテル幹部はこう語る。

「中国人団体客が減っても、欧米富裕層の予約は堅調。1人あたりの総消費額で見れば、団体客数人分に匹敵するケースもある。滞在が長いため、地域経済への波及効果も大きい」

 さらに注目すべきは、日本人観光客の“回帰”だ。オーバーツーリズムによる混雑を嫌って京都を避けていた国内旅行者が、「街に静けさが戻った」として再び訪れ始めている。

 京都市内の老舗旅館もこう述べる。

「混雑が緩和され、落ち着いた雰囲気が戻ったことで、日本人の予約が増えた。単価は派手ではないが、リピーターとして定着しやすい」

 これは単なる穴埋め需要ではない。市場の再構成が進んでいる兆候だ。

明暗を分ける「適応力」

 もっとも、すべての事業者が恩恵を受けているわけではない。

 中国人団体客向け免税販売や団体食に依存してきた店舗、中規模ホテルの一部では売上が大幅に落ち込んでいる。特定市場への依存という「一本足打法」のリスクが露呈した形だ。

 一方で、適応を進める事業者は明確な戦略転換を図っている。

1. 「真正性(オーセンティシティ)」の強化
単なる豪華さではなく、職人の工房見学、非公開寺院ツアー、茶道や能楽のプライベート体験など、「そこでしか得られない知的価値」を商品化。

2. 滞在の“線”を設計
宿泊単体ではなく、地域の飲食店や文化施設と連携し、数日間の体験を一体でコーディネート。地域全体で客単価を高める。

3. デジタル戦略の転換
中国SNSへの広告投資を縮小し、欧米富裕層向け旅行メディアやサステナブルツーリズム系プラットフォームへ再配分。

「これから重要なのは“量を呼ぶ広告”ではなく、“価値を伝える物語”。欧米豪の富裕層は、単なる観光地ではなく“思想や文化の背景”に共鳴する」(湯浅氏)

 京都はその点で圧倒的なストックを持つ都市だ。寺社仏閣、伝統工芸、食文化、四季の景観。問題は、それをいかに編集し、届けるかである。

「量から質へ」という不可逆の転換

 2010年代後半、日本の観光政策は「訪日客数4000万人」を目標に掲げ、量的拡大を推進してきた。その成果として訪日客数は急増したが、同時にオーバーツーリズムという副作用も生んだ。京都はその象徴的存在だった。

 だが今回の春節の“空白”は、観光の価値基準を問い直す契機となっている。

「特定国依存は政治リスクと常に隣り合わせ。持続可能な観光とは、市場ポートフォリオを分散し、質の高い滞在を増やすことだ」(同)

 実際、政府もインバウンド政策を「量から質へ」と再定義しつつある。富裕層誘致、地方分散、体験型消費の拡大――これらは京都が先行実験場となり得るテーマだ。

京都が示す“観光経済の未来像”

 「脱・中国人依存」とは、中国市場を切り捨てることではない。特定市場への過度な集中を是正し、リスク耐性を高めることだ。

 京都のブランド力は依然として強い。だが、その強さを“数”で測る時代は終わりつつある。

 いま問われているのは、
・滞在日数の長さ
・1人あたり消費額
・地域への波及効果
・住民との共存
といった“質の指標”である。

 今回の春節の誤算は、皮肉にも京都に静けさを取り戻した。その静けさの中で、観光経済の次の形が模索されている。

 政治情勢に左右されない、分散型の市場構造。
 混雑ではなく満足度で稼ぐモデル。
 短期消費ではなく長期滞在を軸にした地域循環。

 京都の現在地は、日本のインバウンド戦略の縮図でもある。“量”の時代を経て、“質”の時代へ。京都の転換は、偶然ではない。観光立国・日本が成熟段階に入ったことを示すシグナルなのかもしれない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯浅郁夫/観光政策アナリスト)