2030年の開業が予定されている大阪府・市のカジノを含む統合型リゾート(IR)に、海外の大規模カジノの数倍にあたる6400台の電子賭博機が設置される計画であることがわかった。17日付「しんぶん赤旗電子版」記事『大阪カジノ 世界一危険 審査委員は強く懸念 岸田政権 安易に認定』によれば、昨年5月から今年4月まで観光庁で行われた大阪IRの区域整備計画の審査において、依存性が高いとされるスロットマシンなどの電子賭博機が大量に設置されることについて、委員からは危険性を指摘する声が相次いだという。審査の総合評価では1000点満点中、基準点の600点をわずかに上回る657.9点を得て、政府のIR推進本部(本部長・岸田文雄首相)は計画を認定したが、依存症対策の不備や外国人観光客急増に伴う大阪市の治安悪化などを懸念する声も根強い。
日本国内でのIR設置に向けた動きが本格化したのは10年前にさかのぼる。2013年、国際観光産業振興議員連盟(IR議連)は通称・IR推進法案(「特定複合観光施設区域整備法案」など)を発表。16年に同法案が国会で成立し、18年にはIR実施法(カジノを含む統合型リゾート<IR>実施法)が成立した。
IR実施法では施設数は全国で最大3カ所とされたが、誘致をめぐる全国の自治体の動きは紆余曲折をたどった。当初有力視されていたのは東京都だ。フジ・メディア・ホールディングス、三井不動産、鹿島の3社は合同で政府の国家戦略特区ワーキンググループに「東京臨海副都心(お台場エリア)における国際観光拠点の整備」という案を提出し、お台場にカジノやホテル、会議場などからなる施設の建設を計画していた。だが、16年にIR誘致に消極的な小池百合子氏が東京都知事に就任し、検討作業は休止となった。
東京都と並んで有力候補とされたのが横浜市だ。同氏をお膝元とする菅義偉元首相が官房長官時代(12~20年)に誘致に積極的な姿勢を示していたためだが、21年にIR誘致に反対する山中竹春氏が横浜市長に当選し、誘致レースから降りた。
残ったのが和歌山県、長崎県、大阪府だったが、和歌山県は県議会の決議に伴い、国へIRの区域整備計画の申請を見送り、長崎県と大阪府のみが申請。長崎県は佐世保市のハウステンボスに誘致する計画を提出していたが、資金調達先のクレディ・スイス・グループの経営悪化もあり、政府から認定判断が見送られた。
建設期間が大幅に伸びる可能性も
この結果、唯一認定された大阪の整備計画は、大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)にカジノや国際会議場、展示場、ホテル、劇場など設置するという内容。運営は米MGMリゾーツ・インターナショナルの日本法人とオリックスを主要株主とする共同事業体「大阪IR株式会社」が担い、パナソニックホールディングスやダイキン工業など約20社が出資。来訪者は年間2000万人、売上は年5200億円を見込んでいる。
課題も多い。想定される初期投資額は当初の2割増の1兆2700億円に膨れ上がり、開業時期は29年秋〜冬頃から1年延期され30年秋頃となることが発表されている。
「同じく大阪湾の埋め立て地につくられた関西国際空港は、過去に台風による高潮で浸水被害が生じ閉鎖したり、空港と対岸を結ぶ連絡橋が破損して陸の孤島と化すといったトラブルが起きている。IR開業までに大阪メトロ中央線が夢洲まで延伸する計画があるものの、現在では夢洲へつながる道路は2本しかなく、さらに高潮や津波、地盤沈下の懸念などリスクは多い。
また、夢洲では25年4~10月に大阪万博が開催され、IRの建設期間と重なるため、工事に制限がかかるなどして建設が遅れる可能性も指摘されている。もともと建設業界では人手不足や建設資材の上昇、現場作業従事者への残業規制適用という2024年問題もあるなか、建設期間が大幅に伸びて費用が膨張する可能性もある」(全国紙記者)
MGMが手掛ける世界最高水準のIR
大阪IRの開業に伴っては、大きな経済波及効果が見込まれている。第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミストの永濱利廣氏はいう。
「大阪府市は整備計画で国内外の年間来訪者数を約2000万人と想定しており、近畿圏への経済波及効果は年間約1.1兆円、雇用創出効果を約9.3万人と見込んでいる。
IRの経済効果としては、建設業界以外にも、IRに紙幣の計算機などを納入する通貨処理機関連業界などにも恩恵が及ぶことになろう。また、大阪でIR開業となれば、鉄道延伸の効果も期待されよう。事実、大阪府は2016年時点で鉄道整備などの関連事業費のうち、大阪市営地下鉄中央線の延伸などに640億円を計上している。
そして、海外IRの事例などを参考にすれば、2025年の関西・大阪万博開催前後に1.1兆円程度の経済効果があるだけでなく、IR運営で持続的な経済効果が出ることに加え、万博跡地などのテーマパークや大型商業施設などができれば、大阪府・市の試算のように年間1.1兆円規模の経済効果が続くと考えられる。特に、関西の経済規模が80兆円程度であることからすれば、年間1兆円規模の経済効果が持続することは大きいといえよう」
その一方で「負の効果」として懸念されているのが、カジノ目当ての外国人観光客増加に伴う大阪市内の治安悪化や依存症患者の増加だ。その依存症をめぐって、前述のとおり海外のカジノ施設を大きく上回る数の電子賭博機が設置されることに、専門家から懸念の声が相次いでいるというのだ。
「大阪IRの延べ床面積は約77万平方メートルで、この数字を聞いてもピンとこないかもしれないが、たとえばシンガポールの大規模IRであるマリーナベイサンズよりも大きい。運営するMGMリゾーツ・インターナショナルは米国ラスベガスに本社を置き、大規模なカジノを多数展開しているが、そのMGMが手掛ける世界最高水準のIRということで、世間の人々が考える以上に大規模なカジノとなる。
その規模に比して導入されるスロットマシンなど遊技マシンの数も増えるということだろうが、街全体が世界的なリゾート地でもあるラスベガスやマカオとは性格を異にする大阪に、カジノ目的でどれだけ海外から富裕層が足を運ぶのかは未知数。同じアジアであればマカオやシンガポールのカジノに行くという富裕層も多いだろう。年間の来場者2000万人、売上5200億円というのはかなり甘い見積もりだという指摘も多く、巨額の資金を投入して巨大な施設をつくったものの閑古鳥が鳴くという悲惨な状態にもなりかねない。そうなれば、おのずと治安悪化や依存症の問題もそれほど大きくはならないかもしれない」
(文=Business Journal編集部、協力=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)