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アドビの生成AI、マーケ・キャンペーンの構築時間を10倍・高速化に成功

2025.04.12 2025.04.12 14:51 IT
アドビの生成AI、マーケ・キャンペーンの構築時間を10倍・高速化に成功の画像1
Adobe Summitでは、自社のツール導入で「構築速度10倍」という大きな効果をアピール

●この記事のポイント
・アドビは、同社独自の生成AIである「Firefly」によって「マーケティングキャンペーンを構築する時間が10倍速くなった」と説明。
・プロンプトに自分が行いたいキャンペーンの内容を入力すると、それに合わせた施策が作られ、どのような広告コンテンツを作るべきかが指示される。
・同じコストの中でより多くのプランを実行できて「キャンペーン成功の確率を上げられる」というのがアドビの狙い。

 アドビは3月18~20日に米ラスベガスで開催したデジタルマーケティング関連のイベント「Adobe Summit 2025」内で、同社独自の生成AIである「Firefly」によって「マーケティングキャンペーンを構築する時間が10倍速くなった」と説明した。アドビといえば「Photoshop」のようなクリエイティブツールを思い浮かべる人が多いだろうが、マーケティングのためのツール群を企業に向けて提供することを、もう1つのビジネスの柱にしている。「構築速度10倍」とはどういうことなのか。イベントの取材をもとに解説してみよう。

パーソナライズで広告コンテンツが劇的に増える

 デジタルマーケティングとは、我々が普段目にするウェブやアプリ上の広告、ダイレクトメールなどの「デジタル上で目にする広告キャンペーン」全体を使い、商品やサービスのマーケティングを行うことを指す。いまやあたりまえのものだが、現在特に課題となっているのはその「効率」だ。ウェブとメールしかなかった時代はシンプルだった。広告のバリエーションといっても、バナー広告のサイズが違うくらいのものだ。

 だが、現在はまったく違う。バナー広告のバリエーションは増え、見ているソーシャルメディアは層によって違う。広告を見ている場所や時間帯によって、同じ商品でも消費者の受け止め方は異なるものだ。だからこそ、マーケティングキャンペーンを効率化していくには、「人や場所や時間を選んで広告コンテンツを大量に作り、効率的に出していく」必要がある。

 今、デジタルマーケティングが抱えているのは、「広告価値を最大化するために、大量のコンテンツを作る」ことであり、さらには「それを管理し、適切なマーケティングプランを構築する」ことでもある。多数の広告コンテンツを作るといっても、ゼロからまったく違うものを用意するものばかりではない。同じ素材・同じ広告コピーで縦横比を変えるだけで済む場合もある。以下は、アドビが自社イベント向けにコンテンツのバリエーションを増やしている様子だが、ソーシャルメディアの種類によって縦横比などが違うのが分かるだろう。

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アドビがキャンペーンに使うコンテンツの例。SNSによって見せ方は変わる

 だが、動画広告をメディアごとに出し分けるために縦横比や広告コピーを変える、となると相当な手間が掛かる。広告が出る地域に合わせて内容を変える場合にはさらに手間が掛かる。どれも、コンテンツを作るクリエイターから見れば、そこまで難しい話ではないが、従来に比べ数倍の量が必須になるので、すべてをクリエイターが作業するのは難しくなる。

 そこで出てくるのが生成AIだ。アドビは独自の生成AIである「Firefly」を提供中だ。ゼロからAIに作ってもらうのではなく、素材を元に、企業が求めるトーンやルールにあわせて広告素材のバリエーションを増やしていくことになる。また、その際にはクリエイター向けのコアなツールだけでなく、よりシンプルに作業ができるツールも必要になる。

「効率10倍」は「効果10倍」ではないが、AIの力で効果向上を目指す

 ここで注意が必要なのだが、「効率が10倍になる」というのは、Fireflyでコンテンツを素早く増やせるからではない。それはあくまで、マーケティングキャンペーン向けの素材を用意するという、仕事の一部にすぎない。また、「構築する時間が10倍速くなった」のであって、「10倍の効果があった」ではない点も重要である。

 マーケティングキャンペーンのパーソナライズが進み、必要な素材の量が増えたとしても、マーケティングにかけられる予算は増えるわけではない。求められているのは広告効果であり、広告を作るはそのための手段でしかないからだ。それに、どの国も景気がいいわけではない。そのためにアドビは、管理ツールである「Adobe Experience Cloud」に、マーケティングキャンペーンの生成と管理、キャンペーンの成果を把握するツールを組み合わせている。

 そこで使うのも生成AIだ。プロンプトに自分が行いたいキャンペーンの内容を入力すると、それに合わせた施策が作られ、どのような広告コンテンツを作るべきかが指示される。それらを実行して行くと、ページビューなどの効果が提示される。さらに生成AIに相談すれば、「キャンペーンをどう修正すべきか」という方針を錬ることもできる。

 このようなシステムの狙いは「確実なキャンペーンを1つ作ること」ではない。生成AIは魔法ではないので、人間より精度の高いオリジナルなコンテンツやキャンペーンを自動で作ってくれるわけではない。だが、一般的なキャンペーンを行う上での手間を大幅に減らすことはできる。結果として同じコストの中でより多くのプランを実行できて「キャンペーン成功の確率を上げられる」というのが同社の狙いだ。

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アドビは「クリエイティビティ+マーケティング+AI」でデジタル広告の世界が変わると主張

 もう一つ、アドビの主張には重要な点がある。ツールの効果として同社は「ダイレクトメールの開封率が30%上がった」としている。たくさんの広告を打っても、効果が紐づいていなければ意味はない。予算や人手を有効に使うためにも、顧客に好感を持たれるためにも、広告は効果的なものであるべきだ。ネット広告は質の低下が懸念されている。この記事につく広告がどんなものか、筆者は把握していないが、やはり「効果のある」「好かれる」広告であるべきだろう。

(文=西田宗千佳/ITジャーナリスト)

西田宗千佳/ITジャーナリスト

西田宗千佳/ITジャーナリスト

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。
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