みなさん、こんにちは。元グラフィックデザイナーの経営コンサルタント、共感ブランディングの提唱者・松下一功です。
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、さまざまな経営戦略が生まれ、最近特に増えているのが「アンバサダーマーケティング」です。大企業に限らず、中小企業でも取り入れつつあるので、インターネットやSNSでもよく目にします。
これは、ある商品やサービスに対して熱量の高いファンを「アンバサダー」と捉え、マーケティングに生かす手法です。2月18日放送の『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)では、コンビニエンスストアの新作スイーツや有楽製菓「ブラックサンダー」の熱烈なファンにスポットを当てた内容が放送されました。大規模なプロモーション頼みだった時代が変わりつつある今、企業にとって一般のファンは無視できない状況になっています。
しかし、アンバサダーといいながら、その活動内容や存在に違和感を覚えるケースもたびたび目にします。
そこで今回は、現在流行しているアンバサダーマーケティングに抱く違和感の正体、本来のアンバサダーマーケティングとはいったい何なのかをお伝えします。
インフルエンサーからアンバサダーへ
まず、近年の、人を使ったマーケティングの歴史を見てみましょう。
一昔前は、高級ブランドがアンバサダーと称して俳優やモデルを起用する方法が一般的でした。これは「イメージキャラクター」という意味合いが強く、自社のイメージに合った人物を広告塔にすることで、商品やブランドの周知に一役買っていました。
その後に、SNS等で多くのフォロワー数を持つインフルエンサーを起用する「インフルエンサーマーケティング」が流行りました。インフルエンサーとは「影響」「勢力」「効果」といった意味を持つ「influence」という英語が語源の、いわゆる影響力が強い人のことです。前述のアンバサダーと違い、影響力を持っていれば、必ずしも俳優やモデルではなくても構いません。
一方、現在多く見られるアンバサダーマーケティングでは、インフルエンサーのような影響力を持ちつつ、自社の商品やサービスへの愛情が強い一般人をマーケティングに生かしています。よく目にするのが、広く募集した中から選出した一般人に、1年間などの期間を設けて広報活動をしてもらう、という内容です。
ここで考えていただきたいのが、アンバサダーは「大使」や「使節」という意味だということです。言い換えるならば、「商品やサービスなどの対象物を愛し、それらと他の消費者との親交を深める架け橋になる人」といったところでしょう。結果的に、その活動が広告塔とみなされることはありますが、はじめから広告塔として機能しているわけではありません。
つまり、インフルエンサーはマーケティングのひとつの技法として効果が期待できるものであり、アンバサダーはすでに認知されているものとの親交をさらに深める、いわばエンゲージメントを高める効果が期待できるものなのです。
「エンゲージメント」とは、もともと「婚約」や「約束」を意味する言葉ですが、マーケティングにおいては「ある商品やサービスとの親交が深い関係性」といった意味で使われます。つまり、エンゲージメントを高めるというのは、「商品やサービスとのつながりをより深め、愛着を持たせる」という意味です。
すでにお気づきかと思いますが、今流行しているアンバサダーマーケティングでは、熱心なファンであるアンバサダーとして紹介されながら、広告塔であるインフルエンサーの役割を担っています。それが、違和感の正体なのです。
真のアンバサダーとは「オタク」?
アンバサダーマーケティングに抱く違和感の正体がわかったら、次は「マーケティングとエンゲージメントは同時進行できない」ということも理解しましょう。
物事には順番があるように、先にマーケティングを行って認知度を得た後に、エンゲージメントを高める段階に移るなど、両者の効果を理解した上で、順に戦略を立てる必要があります。しかし、今流行しているアンバサダーマーケティングは、媒体への理解が足りず、戦略と媒体がマッチしていないケースが多く、そもそも成立していないのです。
そうなると、「エンゲージメントを高めるためにアンバサダーを使うには、どうしたらいいのか?」という疑問が浮かぶと思います。その答えは、アンバサダーの人物像から導き出せます。
まず、アンバサダーの肝となるのは、その商品やサービスへの愛情度です。具体的には、その人の生活の中でどのように使われていて、どのくらいディープな情報を持っているのか、などです。
ディズニーファンを例にしてみましょう。年間パスポートを購入して、毎週末のようにディズニーリゾートに通っていると聞けば、書店で売っているガイドよりも、ディープでお得な情報を知っているのではないか、と思いませんか?
そう、アンバサダーとは言い方を変えると「オタク」なのです。その商品やサービスのディープな情報は、インフルエンサーには必要ありませんが、アンバサダーには必要です。情報があふれている今、私たちは何かを調べるときに、よりディープでためになる情報を求めます。その情報元が、「オタク」であるアンバサダーなのです。
そして、アンバサダーの活動や情報が、ディープでオリジナリティにあふれていたら問題はないのですが、すでに知っていたり、公式サイトなどで公表されているものだったら、ガッカリしませんか?
これがアンバサダーの深いところであり、恐ろしいところでもあります。ディープな情報を発信しないアンバサダーは、やがて見向きされなくなるでしょう。さらに、そんな人物をアンバサダーに起用している企業への信頼感は薄れていき、イメージダウンにつながる危険性もあります。
一般人を使ったアンバサダーマーケティングは決して悪いものではなく、情報社会の現代では有効な手段です。しかし、やり方を少しでも間違えると、効果を期待するどころか、マイナスになってしまうこともあります。
商品やサービスの知名度を上げたいなら、インフルエンサーを使う。エンゲージメントを高めたいなら、アンバサダーを使う。このルールだけは間違えないように気をつけてください。
次回は、実際にブランディングにアンバサダーを取り入れるための具体的な方法についてお伝えします。
(松下一功/共感ブランディングの提唱者、安倍川モチ子/フリーライター)