ビジネスジャーナル > 企業ニュース > BYD、なぜ水平対向エンジン開発

中国BYD、なぜスバルの象徴=水平対向エンジン開発・実用化に成功?真の目的

2025.04.21 2025.04.29 18:50 企業
中国BYD、なぜスバルの象徴=水平対向エンジン開発・実用化に成功?真の目的の画像1
BYD「U7」(「Wikipedia」より/Autosdeprimera)

●この記事のポイント
・中国BYDがSUBARUの象徴的技術である水平対向エンジンを開発・実用化したことが注目されている
・エンジンがかかった状態でもEVに近い静粛性や振動の少なさが要求された
・高級車ブランドとしての価値を打ち出すためという目的も考えられる

 昨年(2024年)の世界のEV販売台数ではテスラに次ぐ2位につけ、今年は1位に浮上する可能性があるともいわれている中国・比亜迪(BYD)。そのBYDが日本のSUBARU(スバル)の象徴的技術である水平対向エンジンを開発・実用化したことが注目されている。同社のプレミアムブランド「仰望(Yangwang)のセダン「U7」に搭載されるということだが、なぜBYDは水平対向エンジンを開発したのか。また、その技術力をどう評価すべきか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

 まず、水平対向エンジンとは、どのようなエンジンなのか。自動車技術のコンテンツ制作を専門とするオートインサイト株式会社代表で日経BP総研未来ラボの客員研究員を務める鶴原吉郎氏はいう。

「一般的なエンジンは注射器のような構造で、シリンダの中で、燃焼室内で爆発した力でピストンが下に押され、その力で車軸を回す仕組みになっています。一般的にはシリンダは垂直方向に配置されています。一方、水平対向エンジンは、シリンダが水平方向に寝かされ、シリンダが2つずつ、向き合うような格好で配置されています。そして、右側の2つと左側の2つのピストンが、ちょうど向かい合うようにして動いて車軸を回します。シリンダを水平に配置することにより、エンジンの高さを低く抑えることができるのが、水平対向エンジンの最大の特徴です。

 その水平対向エンジンを現在量産しているのは、世界でもポルシェとスバルだけですが、水平対向エンジンを採用する最大のメリットといえるのが、エンジンの高さが低いので、車の重心を低くして運動性能を高められることです」

パワートレーン(駆動部)の全高を抑制

 BYDが水平対向エンジンを開発、搭載した理由は何か。

「パワートレーン(駆動部)の全高を抑えたいということでしょう。水平対向エンジンを搭載する『U7』は、モーターのユニットの上にエンジンを重ねたような構造になっているため、ボンネットの高さを抑えるためには全高の低いエンジンが必要です。水平対向エンジンは従来の直列4気筒エンジンより大幅にボンネットの高さを低くできるとBYDは説明しています。もう一つの理由は静粛性の確保です。エンジンを搭載する『U7』はPHEV(プラグインハイブリッド車)なので(他にEV仕様もある)、電池の電気があるうちはEVとして走り、電池が切れるとエンジンで発電して、その電気でモーターを駆動させるかたちになります。EVはエンジン車と比較して静かでスムーズに走れるわけですが、エンジンがかかった突端にうるさくなったり、振動が大きくなると、印象が悪くなります。特に『U7』はBYDの高級車ブランドなので、エンジンがかかった状態でもEVに近い静粛性や振動の少なさが要求されたと考えられます。

 この振動の少なさというのが、水平対向エンジンの第2の特徴です。通常の直列エンジンでは、どのピストンも上下方向に動くのでエンジンが上下に振動します。一方、水平対向エンジンは、水平方向に向かい合ったピストンが左右対称に動くので、右側のピストンの動きが生み出す振動を左側のピストンが打ち消すような格好になり、振動が非常に少ないという特徴があります。

 また、高級車ブランドとしての価値を打ち出すためという目的もあるのではないでしょうか。“ポルシェのような高級スポーツカーに採用されているエンジンを搭載する、非常に高度なメカニズムを持った車です”とアピールする目的もあるでしょう。実際にBYDのプロモーションビデオでも、エンジンが精緻に動作している様子などを強調しています」

それほど業界に衝撃を与える出来事ではない?

 では、BYDが水平対向エンジン開発して実用化にいたったというのは、自動車業界にとっては衝撃的なことなのか。

「BYDはEVメーカーというイメージが強いですが、もともとは電池メーカーだった同社が、2003年に破綻した国営自動車メーカーを買収して自動車産業に参入したという経緯があります。なのでEV専業のシャオミ(小米)などと異なり、エンジン車の技術をもともと持っています。また、水平対向エンジンはピストンが水平方向に動くので潤滑油をエンジン内にまんべんなく行き渡らせるのが難しいことや、エンジンの組み立てに手間がかかるといった技術的な難しさはあるものの、普通にエンジンを作れる会社であれば、スバルやポルシェなどのエンジンを研究すれば開発はできるでしょう。ですので、BYDが水平対向エンジンを製造すること自体は、それほど業界に衝撃を与える出来事ではないと感じます」(鶴原氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=鶴原吉郎/オートインサイト代表)

鶴原吉郎/オートインサイト代表

鶴原吉郎/オートインサイト代表

1985年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社、新素材技術の専門情報誌、機械技術の専門情報誌の編集に携わったのち、2004年に自動車技術の専門情報誌「日経Automotive Technology」の創刊を担当。編集長として約10年にわたって、同誌の編集に従事。2014年4月に独立、クルマの技術・産業に関するコンテンツ編集・制作を専門とするオートインサイト株式会社を設立、代表に就任。
オートインサイトの公式サイト