マックの注文端末が「使いにくい」と不評、松屋は劇的改善…飲食店UXデザインの本質

●この記事のポイント
マクドナルドの巨大セルフ注文端末が「価格非表示・冗長なアップセル」でSNS炎上状態に。一方、かつて不評だった松屋の券売機はゼロベース設計の見直しで高評価に転換。両社の事例から、飲食店DXにおける「透明性・迷わせない設計・動線の多様化」という3つのUX原則を解説する。
マクドナルドの店頭に設置された巨大な縦型セルフ注文端末に対するSNS上の批判が急速に広まっている。「使い勝手が悪すぎる」「もう使いたくない」という声が相次ぎ、「何回タッチしたら決済できるのか」と戸惑う声や、端末が大きく操作しにくいとの指摘も多く、使い勝手への不満がSNSで拡散している状況だ。
問題の本質は、単なる「使いにくさ」への不満ではない。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の旗印のもとで導入されたはずの端末が、なぜ顧客体験(UX)を損なう結果を招いているのか。この問いに向き合うことは、外食産業に限らず、デジタル接点を持つあらゆるビジネスにとって不可欠な課題である。
●目次
不評の裏にある「設計思想」のズレ
マクドナルド──マーケティング優先の代償
批判の中で特に根強いのが「価格表示の不親切さ」だ。メニュー一覧に各商品の価格が表示されておらず、食べたい商品をカートに入れ、注文の最終段階まで進まないと合計金額がわからない仕様となっている。仮に「600円以内で食事を済ませたい」などと予算を決めて来店した学生や会社員にとって、計算しながら注文できないのは不親切と言わざるを得ない。
加えて、アップセルを目的とした「ご一緒にいかがですか?」の画面が随所に挿入され、最短距離で注文を完了したいユーザーの動線を何度も遮断する設計になっている。「モバイルオーダーのページをそのまま移植したらいいのに」という声があるように、モバイルオーダーの洗練された画面設計を取り入れるだけでも、使い勝手は飛躍的に向上するはずだという指摘は的を射ている。
動画クリエイターでUIデザイン倫理の専門家である片野一樹氏はこう指摘する。
「価格を最後まで隠す設計は、ユーザビリティの問題であると同時に、デザイン倫理の問題でもあります。意図的であるかどうかにかかわらず、『購入前提の状態を作り出してから金額を提示する』というフローは、行動経済学でいう”コミットメントと一貫性”の原理を利用している側面があります。これは『ダークパターン』と呼ばれる手法と構造的に近く、長期的なブランド信頼を損なうリスクがあります」
松屋──失敗から学んだ「ゼロベース設計」
一方、長らく不評を抱えていた松屋の券売機は、2025年初頭から大幅な改良が進んでいる。当サイトの既報が示すように、旧来の端末では「全取消」ボタンが「次へ」ボタンのすぐそばにある、ひとつの画面に盛り込まれている情報が多すぎてわかりにくい、などの問題が指摘されていた。「牛丼1杯と半熟玉子を頼むだけで16回のボタン操作が必要」との声も上がるほど、操作フローが複雑化していたのだ。
新型端末について片野氏は、次のように述べている。
「デザインや操作フローがゼロベースから設計の見直しがされており、従来のUXを踏襲していない点が成功の要因だと考えられます。それによって、ユーザーが操作の途中で迷うということがなくなっています。また、ボタンを押してから次の画面に遷移するまでのレスポンスも速くなっている点も評価できます」
SNS上でも「ちゃんといろいろ選んでからお会計を押したらお会計できる。いや、それが普通であってほしかったんやけど」という声に象徴されるように、”当たり前の体験”を取り戻したことへの安堵感が広がっている。
なぜ「使いにくい端末」が生まれるのか
「提供者都合」のUI設計
使いにくい端末が生まれる最大の原因は、設計の視点が「ユーザーの利用文脈」ではなく「事業者の経営課題」に向いていることにある。人件費の削減、客単価の向上、新メニューの訴求──こうした正当な経営目標が、UI設計の優先順位を歪めた結果、ユーザーにとって”迷路”のようなフローが生まれてしまう。
行動経済学の知見から片野氏はこう指摘する。
「人間は、選択の途中で合計コストが見えない状況に置かれると、不安と不信感を抱きます。これは『損失回避バイアス』と関連しており、”いくら取られるかわからない”という状態は、認知的なストレスを著しく高めます。ファストフードの注文という本来は低コストな意思決定が、心理的には重い体験になってしまうのです」
大画面特有の設計上の落とし穴
スマートフォンのモバイルオーダーでは実現できている快適さが、なぜ据え置き端末では損なわれるのか。理由の一つは、大型縦型画面に固有の「視線移動の多さ」にある。UIデザインの原則「フィッツの法則」は、「ターゲット(ボタン)が大きく近いほど素早く操作できる」ことを示しているが、大画面では逆に操作すべきボタンが遠くなりやすい。スマホは片手の親指が届く範囲に主要な操作が集約されているのに対し、縦型大画面では重要な情報が画面の上端や下端に分散し、視線と腕の移動コストが跳ね上がる。
コストとUX品質のトレードオフ
「飲食店の店舗でよくみられるタッチパネル式の券売機は結構な値段がするのに加え、ハードウェアなので一定の確率で故障は起きますし、システムの開発・運用・エンハンスのコストも重なってきます。そのため、チェーン本部としては、顧客が自身のスマホを使ってモバイルオーダーのアプリで注文してくれる形態にシフトしていきたいわけです」というのが業界の本音だ。
しかし、スマートフォンに不慣れな高齢者や外国人観光客にとって、店頭端末は依然として唯一の注文手段である場合も多い。UX改善への投資を「コスト」としか見ない視点は、長期的なブランド毀損という別のコストを生む。
飲食店が学ぶべき「UXデザインの3原則」
① 透明性と信頼を設計に組み込む
価格・残りステップ数・現在地を常に可視化し、ユーザーに「コントロールしている感覚」を与えることが基本だ。メニュー一覧の時点で「〇〇円〜」という基本価格を明示し、オプションを選択するたびに加算される明朗なシステムへと改修することは、技術的な難易度は低く、意思決定の問題にすぎない。
②「おもてなし」をデジタルで再現する
対人レジでは、熟練した店員が顧客の状況を瞬時に読み取り、必要な情報だけをスムーズに提供してきた。セルフ端末に求められるのも同じことだ。「省人化」を目的とするなら、少なくともその代替として「人が介在しなくても迷わない体験」を設計する責任がある。松屋の新型端末が評価されているのは、まさにその「迷わせない設計」を実現したからにほかならない。
③ ユーザーの多様性に応じた動線設計
毎日利用するヘビーユーザーと、月1回の初来店客に同一フローを強いることは合理的ではない。「クイック注文(前回と同じ内容)」「初めての方向けガイドモード」のように動線を分けることで、両者の満足度を同時に高めることが可能だ。
未来への展望──注文端末はどこへ向かうのか
飲食店における注文チャネルは今後、「店頭端末」と「モバイルオーダー」の二元体制が主流になると考えられる。ただし、この二つを単純に「新旧」として捉えるのは誤りだ。モバイルオーダーが浸透するほど、店頭端末は「スマートフォンを持たない・使えない層」にとっての最後の砦となり、設計の質がそのままブランドの包摂性(インクルーシビティ)を体現する。
デジタル接点が増えれば増えるほど、ブランド体験はUIの質に直結する。マクドナルドは世界最大規模のファストフードブランドとして、アプリやモバイルオーダーでは高い評価を得てきた実績を持つ。店頭の注文端末についても、ネット上で寄せられている顧客のリアルな声に真摯に耳を傾け、ユーザー中心のUIへと抜本的な改修を行うことが期待される。
松屋の事例は、UX改善が「コスト」でなく「投資」であることを証明した。不評を真摯に受け止め、ゼロベースで設計を見直したその姿勢は、デジタル化に取り組むすべての企業にとって、最も具体的で前向きな教訓となるはずだ。「便利にするためのデジタル化」が顧客を遠ざける──その逆説を乗り越えるカギは、技術ではなく設計哲学の中にある。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=片野一樹/動画クリエイター)











