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日テレ、大谷翔平の邸宅の外観の映像を放送…大谷夫妻の犯罪被害のリスク上昇

文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学教授
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日本テレビ(「Wikipedia」より/Suicasmo)

 23日放送のニュース番組『news every.』(日本テレビ系)は、米大リーグ・ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手が購入したとされる邸宅の外観と周辺を映した映像を放送。さらに周辺住民へのインタビュー取材を行い、結果的に大谷選手が引っ越してくることを周辺住民に明かすことに。大谷選手本人の承諾を得ていないとみられるため、プライバシーの侵害に当たるのではないかという指摘や、この放送によって住居が特定されることで大谷選手夫妻が窃盗や誘拐などの犯罪に巻き込まれるリスクが高まるとの指摘が相次いでいる。こうした報道はテレビ業界のルール的に問題ないのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 24日(日本時間)時点で米大リーグのナ・リーグとア・リーグ両リーグで打率トップで、アトランタ・ブレーブスのマルセル・オズナとホームラン首位争いを展開する大谷選手。今シーズン開幕直前の3月には元通訳、水原一平氏が違法賭博を行っていたとして球団から解雇され銀行詐欺の罪に問われるという騒動に見舞われたものの、好調な成績をあげている。

 今月には、ドジャースの本拠地ドジャースタジアムから車で約20分ほどの距離にある場所に邸宅を785万ドル(約12億3000万円)で購入したことが明らかに。現地報道によれば、3階建てでベッドルームが5つ、バスルームが6つ備えられているという。

 そんな大谷選手の邸宅をめぐる『news every.』の報道が議論を呼んでいる。23日放送回では取材班が邸宅があるロサンゼルス郊外の高級住宅街を訪問レポート。ハリウッド俳優や人気司会者などが暮らしていると説明し、レポーターは大谷選手の邸宅とみられる建物の前まで行くと、「あの家ですかね。大谷選手が購入した邸宅とみられます」と語り、映像にはその外観が映し出されていた。

 続けて、「敷地全体の面積は4000平方メートル」「備える設備も超ド級」「ジム、サウナ、シアタールーム」と物件の詳細を伝え、バスケットボールのコートもあるという説明シーンでは大谷選手の妻・真美子さんが元バスケットボール選手であることから「バスケットコートは妻のため?」と書かれたテロップが表示されていた。

 この報道をめぐり、場所と邸宅の外観映像が報じられたことで住居が特定されてしまうとして、ネット上では以下のような声が相次いでいる。

<日本テレビに倫理観を求めるのはやめましょう>

<他人の家覗いて動画を拡散している>

<覗きと何も変わらない>

<もう昭和じゃない いつまでこんなことやっているのか>

<報道という名のパパラッチ>

<どうみても取材許可取っていない>

<プライベート嗅ぎ回っている>
 

犯罪被害のリスクが高まる

 こうした報道はテレビ業界的には問題ではないのか。元日本テレビ・ディレクター兼解説キャスターで上智大学文学部新聞学科教授の水島宏明氏はいう。

「『news every.』の映像を見る限り、5月22日付の米紙ロサンゼルス・タイムズ(LAタイムズ)を引用して報道している。同紙記事の内容は、大谷選手がテレビの司会者が所有していた豪邸を12億円あまりで購入したというもの。番組ではLAタイムズが掲載した邸宅を上空から撮影した航空写真を放映。プールつきの庭や屋根の上に並ぶソーラーパネルなどがわかるように伝えていた。敷地の広さが4000平方メートルあることや、『築11年で3階建て』で邸宅内にジム、サウナ、シアタールームが完備され、敷地内にはバスケットボールのコートも完備されていると伝えている。周囲の住宅街の映像とともにハリウッド俳優や人気テレビ司会者などが暮らす高級住宅街であること、所属するドジャースタジアムから車で20分ほどの距離だという情報を伝えて、岡田光弘記者(NNNロサンゼルス)が邸宅のすぐ手前で顔出しレポートしていた。

『すごい豪邸ばっかりですね』
『大谷選手が購入した邸宅とみられます』

 敷地内には入っていないものの外から建物を撮影。近所の住民に大谷選手が引っ越してくることについての感想を聞いている。『ワクワクしている。近いうちにばったり会うかもしれない』と近隣住民が楽しみにしている様子を報道した。

 これに対してプライバシーの侵害ではないかという声がネットなどで出ているという。テレビ報道について研究している立場で判断すると、この報道だけですぐに明らかなプライバシー侵害でアウトといえるものではないが、ギリギリの微妙なケースだと評価する。一方、記者が車で邸宅の敷地のすぐ前まで行くことができることを明らかにするなど、報道機関として大谷選手および家族への配慮がない報道であることは間違いないという。過激なファンなどがカメラ片手に敷地内に入りこんだり、上空にドローンを飛ばしたり、家族の行動を見張って何らかの標的にしたりするなどプライバシー侵害や犯罪リスクを生じさせる行為を誘発しかねない報道だということができる。『この放送を見て家族が強い不安を感じた』として大谷選手の側が法的手段を取ることもありうる報道だと評価した。

 また、このニュースはプライバシーを侵害する可能性を冒してまで伝えるべきニュース内容なのかといえば、そうではないことも明らかだ。大谷選手が購入した新居はバスケットボールのコート付きなので、元バスケットボール選手の真美子夫人への愛情ゆえの購入ではないか、という下世話な臆測の報道でしかない。視聴者にのぞき見趣味を満足させるものでしかない。

 大谷選手が真美子さんのプライバシーを大事に守ろうとしていることは結婚報道以来、一貫している。他のテレビ局や新聞社など『配慮ある』報道機関はこのLAタイムズの報道を後追いしていない。それでなくても元通訳・水原容疑者による犯罪に巻き込まれている彼を野球に専念させてあげたいと考えるのが、まともな報道関係者の『思慮』や『配慮』といえるものだ。このため、今回の『news every.』の報道はただちにプライバシーの侵害とまでいえないが、だからといって『配慮した』報道とはとてもいえない。むしろ記者本人や放送した日本テレビの関係者の『思慮のなさ』を際立たせるものだと思う」

 テレビ局関係者はいう。

「現在の放送倫理基準に則れば、問題があるといえる。大谷選手が高額な報酬を得ていることは周知の事実なので、住居がバレることで、大谷選手と夫人が窃盗や誘拐などの犯罪の被害に遭うリスクを高めてしまう。著名人については本人の許可なく住宅の外観を撮影する行為のみならず、住居があるエリアが特定される報道も現在ではNGとされている。当人や家族に身の危険が及ぶ行為までいかなくても、さまざまな迷惑行為の被害を受けるリスクが生じる。誘拐などを防ぐために著名人の未成年の子どもが在籍する学校を報じることも事実上禁止されているが、もし仮に今後、大谷選手夫妻が子どもを授かれば、住居が特定されてしまうことで子どもが誘拐されるリスクを高めてしまう恐れもある」

 別のテレビ局関係者はいう。

「日テレは運営するニュースサイトや公式YouTubeチャンネル上の動画でも『news every.』で使用した邸宅外観の映像を配信しており、結果的に大谷選手夫妻の重要なプライバシー情報を拡散させている。この報道によって興味本位の見物人やセールス・勧誘目的の営業が多数押し寄せることになれば、大谷選手夫妻としては迷惑を被ることになり、潜在的なデメリットが生まれている。

 現在ではテレビで著名人に限らず特定の人物のものだとわかるかたちで住宅と周辺を映像で流す際はボカシなどを入れて加工するのが一般的で、たとえ対象が一般人であっても、自宅がバレることによって何らかの理由でその人物が被害や不利益を被るリスクを回避するためだ。週刊誌ならまだしも、なぜキー局である日テレがこのような放送をしたのか疑問」

求められる制作姿勢の見直し

 日本テレビといえば1月、昨年10月期の連続テレビドラマ『セクシー田中さん』で、原作者・芦原妃名子さんの意向に反し何度もプロットや脚本が改変されていたとされる問題が表面化し、芦原さんが死去。同社は社内特別調査チームを設置し、当初は結果をゴールデンウイーク明け頃に発表するとしていたが、公表が遅れている。

 2023年の年間個人視聴率がゴールデン帯で1位になるなど視聴率好調を維持する日テレだが、改めて今、制作姿勢の見直しを迫られているのかもしれない。

(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学教授)

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

水島宏明/上智大学文学部新聞学科教授

1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー「母さんが死んだ」や准看護婦制度の問題点を問う「天使の矛盾」を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。「ネットカフェ難民」の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。著書に『内側から見たテレビ やらせ・捏造・情報操作の構造』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)、『メディアは「貧困」をどう伝えたか:現場からの証言:年越し派遣村からコロナ貧困まで』(同時代社)など多数。
上智大学 水島宏明教授プロフィールページ

Twitter:@hiroakimizushim

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