亡くなった父親が契約していたNHKを解約しようとしたら、「解約できない」と言われた、との投稿がX上で大きな話題となっている。なぜ解約できないのか、どうすれば解約できるのか、など次々に疑問が噴出すると同時に、NHKに対する不信の声も少なくない。これらの疑問を、直接NHKに聞いてみた。
元の投稿主はメディアで取り上げられることを願っていないようなので詳細は伏せるが、内容としては、介護のために同居していた父親が亡くなったため、その父親が契約していたNHKの受信契約を解除しようとしたが、NHKからは解約できないと言われた、というものだ。ご本人はテレビを持っておらず、父親が使用していたテレビも兄弟が引き取ったため、居住している家の中にはテレビはない。
このような状況で、なぜNHKは解約を拒否したのか。NHKの受信契約において、解約の対象となる事例を次のように定めている。
「テレビ等の受信機(以下、「受信機」といいます。)を設置した住居にどなたも居住しなくなる場合や、廃棄、故障などにより、受信契約の対象となる受信機がすべてなくなった場合は、受信契約は解約の対象となります」
そして「解約の主な事由」として、
(1)受信機を設置した住居にどなたも居住しなくなる場合
・2つの世帯が1つになる場合
・世帯消滅
・海外転居など
と例示している。
つまり、今回の事例において、電話を受けたNHKの担当者が解約を拒否した理由は、契約者が亡くなっても、その住居に誰かが住んでいる限り契約は継続する、との解釈に基づいているといえる。
テレビを撤去したら解約できる
だが、NHKは解約の事由として、もうひとつ次のように定めている。
(2)廃棄、故障などにより、受信契約の対象となる受信機がすべてなくなった場合
・受信機の撤去
・受信機の故障
・受信機の譲渡など
これに従えば、今回の事例の方は受信機を家から撤去されていることから、解約の対象になると考えられる。では、なぜ解約を拒否されたのか。Business Journal編集部は、NHK広報部に直接、今回の事例の対応について話を聞いた。
――受信契約を結んでいた方が亡くなった場合に、同居の親族が解約を申し出た際に、解約できないと言われたとの投稿が話題になっています。このような事例の場合、実際に解約することはできないのでしょうか。NHKの契約では、契約者が亡くなった場合に、家族が引き継がなければならないことになっているのでしょうか。
「放送受信契約の解約につきましては、ご契約者様の氏名、住所や放送受信契約を要しないこと となった事由等をお届けいただき、NHKにおいてお届けいただいた内容を確認のうえ、解約とさせていただいています。
今回のケースでは、詳細はわかりかねますが、通常、受信契約者がお亡くなりになり、その住居でのテレビ設置がなくなったということであれば、解約の事由に該当するものと考えられます。なお、受信契約者がお亡くなりになり、相続人の方が引き続きその住居でテレビを設置している場合は、契約者名義の変更と受信料のお支払いをお願いしています」
この回答のとおりであれば、今回の事例においては電話応対したNHKふれあいセンターの担当者の対応ミスとしか言いようがない。そもそも、契約者が存命中であっても、テレビを設置しなくなれば契約は当然に解約できるはずだ。
なぜ解約できない事例が相次ぐのか
だが、SNS上には同じような体験をしたという報告が相次いでいる。
「うちも親が亡くなってしばらくしたらNHK解約手続きするんだけど… 契約者亡くなってるのに解約できませんて悪質すぎる」
「ばあちゃん亡くなった時、支払いの封筒に書いてある電話番号に掛けても全然出なくて、ばあちゃん家の地域の放送局に電話したらやっと繋がって「亡くなったんで、解約したい」って言ってもめちゃくちゃ渋られた記憶。 同居無し、テレビは親戚が持って帰ったから無いって言ってんのに話通じんのよな」
「これ全く同じ状況… 今年から同居して先月亡くなったんだけど父がJCOMでNHKも一緒に払ってて解約しようとしたら家に住んでるなら無理の一点張り。 TV捨てて連絡してみるしかないけどそもそも死亡した人の契約を継続させようとするのっておかしいよなぁ。まず解約させろよ」
「引き落とし出来なかった分は、滞納金としてまとめて請求が来ます 請求を無視してると裁判起こすぞという脅迫書面が送られて来ます 亡くなった人、しかも121歳の祖父宛に」
これらの投稿を見ると、契約者が亡くなっても、なかなか解約に応じてくれないNHKの様子がうかがえる。この背景には、NHKの受信料収入の減少があると大手新聞社社会部の記者は言う。
「NHKの受信料は2018年をピークに、減少傾向が続いています。しかも昨年度は値下げの影響もあり、過去最大の下げ幅となる396億円減でした。また、NHKとしては国民全体に広く受信料を払ってもらうため契約数を増やしていくことが前提で、減らしたくないという意図が見えます。来年10月にはネット受信料を導入する計画で、スマホでテレビを見る人にも課金されることになります。こうなると、テレビを持っていながら受信契約を結んでいない家があれば、受信料を払っている人からは不公平との不満がますます高まることは容易に想定されます。そのため、受信契約を減らすことは極力避けたいというのが本音でしょう」
実際にNHKは、サブスクリプションによるネット配信サービスとは性格が異なるとして、「解約方法などの面でなかなか融通が利かない部分もあるのは確か。ただ、入ったりやめたりが簡単にできるというのは受信料制度と違ってしまう」と説明している。
つまり、気が向いたら入る、あまり見なくなったからやめる、といった気軽に入退会できる制度ではない、との主張ではあるが、それでも公共インフラとして、一定の要件を満たした場合には、スムーズに解約に応じる体制は整えるべきではないだろうか。
(文=Business Journal編集部)