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トヨタですら…大企業でも製造業は金融・不動産業より段違いに年収が低い理由

文=Business Journal編集部、協力=安藤健/人材研究所ディレクター
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「gettyimages」より

 9月、総合商社の伊藤忠商事が2025年度の社員の平均年収を引き上げ、成績最優秀者の場合で部長相当職は年収4110万円、役職がない担当者は同2500万円となることが明らかになり話題となったが、同じ大企業でも製造業と非製造業では平均年収に大きな差があることは、よく知られている。その理由は何なのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 伊藤忠商事に限らず総合商社の年収は高い。三菱商事の今年夏の平均賞与支給額が641万円にも上ることが話題を呼んだが、4大商社の23年度の平均年間給与は有価証券報告書によれば軒並み1700万円を超えている。金融業界も比較的高いとされ、大手都市銀行(メガバンク)は30歳を超えて調査役や主任などの肩書がつくと年収1000万円台に乗り、40代で支店長クラスになると1500万円くらいになる。大手証券会社・野村證券の持株会社である野村ホールディングス(HD)の平均年収は1408万円(24年3月期有価証券報告書より)。このほか、不動産業界をみてみると、三菱地所の平均年収は1273万円(24年3月期有報より)、ヒューリックの平均年収は1908万円(23年12月期有報より)と高い水準となっている。

「外資系投資銀行は大卒新卒1年目で1000万円を超えるのが普通。アクセンチュアやデロイト トーマツ コンサルティングをはじめとする外資系大手コンサルティング会社も現在、日本の事業会社に勤めていて一定の経験がある若手・中堅社員に年収1千万円以上を提示して、ばんばん中途採用している」(転職支援サービス会社社員)

トヨタの平均年収は899万円

 こうした非製造業と比較すると、同じ大企業でも製造業は一段も二段も平均年収は下がるといわれる。トヨタ自動車の平均年収は899万円(24年3月期有報より)、電機メーカー・三菱電機は830万円(同)、鉄鋼メーカー・日本製鉄は829万円(同)、食品メーカー・江崎グリコは823万円(23年12月期有報より)、生活用品メーカー・花王は802万円(同)。ちなみにメーカー以外でも、JR東日本は725万円(24年3月期有報より)、イオンは864万円(24年2月期有報より)、すかいらーくホールディングスは695万円(23年12月期有報より)となっており、“大手企業=高年収”というイメージとは少し離れていると感じる人もいるだろう。

 大手電機メーカー課長はいう。

「ウチは役職がない20~30代の給料は安く、課長でも年収1000万円いかないケースもザラにあります。総合商社など比較するにも及びませんが、大手の金融や不動産だと役職がない30代でも普通に1000万円は超えているので、それらの業界の主任クラスがウチの課長クラスと同じくらいというイメージです。金融からウチに転職してきた人間は『本当に給料が安い』と言っていますし、20代の若手のなかには高収入を求めて不動産業界や金融業界に転職する人間もいます。

 正直いって電機メーカーは給与面での魅力というのは薄いですし、世間的には大手メーカーはのんびりしていると思われがちですが、特に営業などのフロント部門は結構ハードなので、あまり割に合う仕事とはいえないかもしれません」

 もっとも、キーエンスやファナック、半導体装置メーカーなど給与が高いことで知られるメーカーも存在する。

工場、設備、多くの従業員を抱える必要がある

 年によって変動があるため一概にはいえないが、ざっくりといえば日本を代表する自動車メーカーであるトヨタの平均年収は総合商社の約半分の水準となっているわけだが、なぜメーカーと非メーカーの間で格差が生じるのか。人材研究所ディレクターの安藤健氏はいう。

「その理由は明確でして、メーカーはモノを製造するための工場、設備、そして工場従業員を含めて多くの従業員を抱える必要があるため、売上のうちで給与の支払いに回せるお金の余裕が少なく、逆に金融や商社、ディベロッパー、コンサルなどの非製造業は、製造業と比較すると少ない社員数と設備投資で事業を運営できるため、売上のうちより多くを給与の支払いに回せるという違いがあるためです。その観点でいうと、製造業と同じく多くの設備と人員を必要とする鉄道業や小売業なども平均年収が低くなりがちです。

 付加価値のうち人件費がどれだけの割合を占めるのか示す労働分配率でみると、製造業は平均約50%なのに対し、たとえば金融業であるクレジットカード業は30%台となっています。ちなみに製造業の労働分配率は全産業平均とほぼ同じですが、産業別就業者数の分布(2023年の平均)としては、製造業の就業者数がもっとも多く全体の15.6%なのに対し、金融業と不動産業はともに2%台となっており、製造業では限られた売上=パイを多くの労働者に分配する必要があるため、一人当たりの賃金が抑えられる傾向が生じます。ちなみに就業者数が2番目に多く、全体の15.4%を占める卸売業・小売業も平均年収が低い業界となっています。

 このほか、一般的に初任給は大学院卒がもっとも高く、その次が大卒、高卒と続きますが、工場がある製造業には高卒の従業員が多いのに対し、大手の金融機関や総合商社、コンサル会社などでは少ないという要因も影響しているでしょう」

(文=Business Journal編集部、協力=安藤健/人材研究所ディレクター)

安藤健/人材研究所ディレクター

安藤健/人材研究所ディレクター

青山学院大学教育人間科学部心理学科卒業。2016年に人事・採用支援などを手掛ける「人材研究所」(東京・港)へ入社。2018年から現職。国内大手企業での新卒・中途採用の外部面接業務や人事向けセミナーなどを手掛ける。毎月1回、組織・人事に関わる人のためのオンラインコミュニティー『人事心理塾』を企画・運営。著書に『人材マネジメント用語図鑑』(ソシム)、『誰でも履修履歴と学び方から強みが見つかる あたらしい「自己分析」の教科書』(日本実業出版社)。
安藤 健 | 株式会社人材研究所

Twitter:@andoK_official

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