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なぜ星野・ヒルトン・バンヤンは瀬戸内に集まるのか…地銀主導の開発モデルと課題の現在地

2026.08.08 06:00 2026.08.07 23:52 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯浅郁夫/観光政策アナリスト

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●この記事のポイント
星野リゾート「界 宮島」、ヒルトンのLXR、バンヤン・グループが相次いで進出する瀬戸内海。地銀主導の富裕層誘致や宿泊税導入の裏で、地価高騰・人手不足・二次交通不足も表面化している。九州・周防灘など「第2の瀬戸内」候補地も含め、地方リゾート投資の構造を解剖する。

 星野リゾートは7月、広島県廿日市市の宮島口温泉に「界 宮島」を開業した。星野リゾートとして広島県への初進出であり、世界遺産・厳島神社の対岸という立地に、全54室から瀬戸内海の多島美を望む設計を採用している。

 これは単発のニュースではない。同じ宮島口では、広島銀行が保有していた保養所「レゾナンス宮島」の跡地に、ヒルトンのラグジュアリーブランド「LXRホテルズ&リゾーツ」が2028年の開業を目指して進出する。国内では2021年開業の京都に続く2軒目だ。さらに広島県呉市の音戸の瀬戸では、シンガポール発のバンヤン・グループが高級ブランド「GARRYA(ギャリア)」と「DHAWA(ダーワ)」の2施設を2029年度に開業する計画を進めている。

 星野・ヒルトン・バンヤンという世界的ホテル資本が、示し合わせたように瀬戸内海沿岸に集中する。これは「脱ゴールデンルート」を掲げる欧米豪の富裕層マネーが、地方の景観資源に本格的に流入し始めたサインと読むべきだろう。本稿では、この開発ラッシュが地域経済に何をもたらし、何を軋ませているのかを現地視点で整理したうえで、同じ構図が次に立ち上がりうる「第2の瀬戸内」候補地を展望する。

●目次

なぜ瀬戸内なのか

 瀬戸内が選ばれる理由は大きく2つに整理できる。

 第一に、多島美という景観の希少性と、直島・豊島などの現代アートに象徴される文化的ストーリー性の組み合わせだ。「非日常」と「静けさ」を求める層にとって、これは代替の効きにくい資産である。

 第二に、官民が一体となった誘致体制の存在だ。瀬戸内ブランドコーポレーションやせとうちDMOに加え、近年は地方銀行そのものが観光開発の担い手として動き出している点が特徴的である。広島銀行は宮島口の遊休不動産をヒルトン誘致に活用し、山口フィナンシャルグループ(YMFG)は2025年10月、ドリームインキュベータやエクスペリサスなど4社と連携し、広島・山口・福岡を対象エリアとする「高付加価値体験の構築×インバウンド富裕層誘客プロジェクト」を始動させた。地銀が単なる融資者ではなく、開発リスクを分担するプレーヤーへと役割を変えつつある。

進出ラッシュに沸く周辺地域のリアル

ポジティブな波及効果

 外資・大手資本の参入は、これまで日帰り中心だった宮島口・呉といったエリアに、1泊数万円から十数万円台の滞在型消費をもたらしつつある。地元食材や地域の伝統工芸を高付加価値な体験コンテンツとして再構成する動きも進んでおり、山口FGのプロジェクトでは、下関のフグ卸売市場見学や萩焼窯元での職人体験など、価格帯が数万円から100万円超に及ぶ観光プランが2025年10月から販売されている。

 一方で、この波及効果には明確な地域差もある。観光庁などの調査によれば、2024年の訪日外国人客数は福岡県が597万人(2019年比72%増)、広島県が121万人(同50%増)だったのに対し、山口県は10万人(同9%増)にとどまる。欧米豪からの客数に限れば、福岡・広島が6割以上伸びた一方、山口はむしろ12%減少している。東京・関西方面から西進する旅行者の多くが広島で折り返すか、山口・北九州を素通りして福岡へ向かってしまう構造があるとみられ、YMFGの取り組みはこの「通過県」構造からの脱却を狙ったものといえる。

顕在化する構造的な課題

 もっとも、開発が進むほど、いくつかの摩擦も表面化してくる。

 第一に、宿泊税をはじめとする受益と負担の設計だ。広島県は2026年4月1日から宿泊税の課税を開始し、宿泊料金が1人1泊6000円(税抜)以上の場合に200円を徴収する制度を導入した。地域資源の魅力向上や受入環境整備の財源とする狙いだが、税収を実際にインフラや人材育成へどう還元するかは、今後の運用が問われる段階にある。

 第二に、外資・大手資本と地元事業者の間の処遇格差だ。国際ブランドが提示する給与・労働条件は、地元の従来型事業者にとって人材流出の脅威になりうる。星野リゾートやヒルトンのような開業ラッシュが続けば、地域内での人材の奪い合いは避けがたい。

 第三に、二次交通のボトルネックである。宮島や呉の島しょ部・沿岸部は、高速船やタクシーの供給が観光需要の伸びに追いついていない地域が多い。富裕層が求める「混雑のないプライベートな移動」を担うヘリコプターや海上タクシーなどの整備は、まだ緒に就いたばかりだ。

「瀬戸内の開発ラッシュは、地方が単独で富裕層需要を取り込むことの限界を示している。地銀が開発リスクをシェアする体制ができて初めて、外資は本気で投資判断を下す。今後の課題は、税収を二次交通や人材育成にどう再配分し、地元事業者を置き去りにしない仕組みを作れるかだ」(観光政策アナリスト・湯浅郁夫氏)

第2の瀬戸内はどこか

 瀬戸内モデルの成功要因を「希少な自然景観×文化的ストーリー×二次交通アクセス×官民・金融連携」という4条件に分解すると、同様の構図が立ち上がりつつある地域が見えてくる。

九州・周防灘〜関門・福岡エリア YMFGを軸に、地銀主導の富裕層誘客プロジェクトがすでに動き出している。関門海峡を望む「リゾナーレ下関」が2025年12月に開業するなど、星野リゾートも布石を打っている。アジア圏からのアクセスの良さに加え、瀬戸内と同じ「地銀×観光」のファンド構造が急速に整備されつつある点で、最も瀬戸内モデルに近い次点候補といえる。

伊勢志摩・紀伊半島 リアス式海岸の景観美と、伊勢神宮・熊野古道という国際的にも認知度の高い歴史・文化資源を併せ持つ。課題は、都市部からのプライベートアクセスをどう構築するかにある。

奄美群島・沖縄離島 世界自然遺産に指定されたエリアを含み、エコロジー志向の富裕層需要と親和性が高い。ただし台風リスクや建設コストの高さ、環境保全基準との両立という高いハードルがある。

阿蘇〜別府・由布院エリア 火山景観と温泉資源という世界的にも希少な組み合わせを持つが、老朽化した既存温泉街の高付加価値化という別種の課題を抱える。

 いずれのエリアも、瀬戸内が示した「景観の独占」「地銀主導のファンド組成」「サステナビリティの実装」という3条件をどこまで満たせるかが、投資マネーを呼び込めるかどうかの分岐点になる。

地方創生・リゾート投資で問われる視点

瀬戸内の事例が示すのは、富裕層が求めているのは部屋の広さではなく「景観の独占」と「混雑のない体験」だという点だ。そのうえで、地域金融機関や自治体を巻き込んだリスク分担の仕組みづくりと、宿泊税収を二次交通やインフラに具体的に還元する設計が伴わなければ、開発の恩恵は一部の事業者にとどまりかねない。

瀬戸内の地殻変動は、日本各地の「地方×富裕層インバウンド」の先行指標である。次の波に乗れるかどうかは、単なる土地開発ではなく、地域資源のブランド化と二次交通整備までを含めた包括的な戦略設計にかかっている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯浅郁夫/観光政策アナリスト)

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公開:2026.08.08 06:00