世界3位の地熱資源国なのに眠ったままの日本…大成建設が挑む”水を使わない”打開策

●この記事のポイント
大成建設が地熱技術開発と共同で「CO2地熱発電」の実現可能性調査に着手(2026年9月8日)。地下水を使わずCO2を熱媒体として循環させる次世代地熱技術で、JOGMEC採択事業として2021年から基礎研究を継続。世界3位の地熱資源国・日本で、ゼネコンの脱・請負依存とストック型ビジネス転換の狙いを読み解く。
大成建設は2026年9月8日、地熱技術開発株式会社(東京都中央区、中田晴弥社長)と共同で、「カーボンリサイクルCO2地熱発電技術」の社会実装に向けた実現可能性調査(フィジビリティ・スタディ)に着手したと発表した。資金は独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の公募事業として2025年12月に採択されたもので、両社は2021年度から5年間、同技術の基礎研究をすでに進めてきた。今回はその成果を土台に、候補地の選定や事業化ロードブックの策定へと歩を進める段階である。
一見すると「クリーンエネルギー技術の一開発案件」に映るこのニュースだが、その本質を読み解くと、地熱大国でありながら開発が進まなかった日本のエネルギー構造の課題と、資材高騰や時間外労働規制(いわゆる建設業の2024年問題)に直面するゼネコン業界の収益モデル転換という、二つの大きな文脈が重なって見えてくる。
●目次
世界3位の地熱資源国が、なぜ「眠ったまま」なのか
資源エネルギー庁によれば、日本の地熱資源量は約2,347万キロワットで、アメリカ、インドネシアに次ぐ世界第3位を誇る。ところが実際の発電設備容量は世界10位前後にとどまり、発電電力量に占める割合はわずか0.3%(2022年度時点)に過ぎない。経済産業省は2040年度に向けてこの比率を1〜2%まで引き上げる目標を掲げているが、達成には従来型開発のボトルネックを解消する必要がある。
第一の壁は、地元との合意形成である。従来型の地熱発電は地下の熱水(温泉水)を汲み上げて蒸気を取り出す仕組みのため、「温泉が枯れるのではないか」「泉質が変わるのではないか」といった地元温泉組合の懸念が根強く、開発適地の多くが自然公園法や温泉法による規制の対象にもなる。合意形成から稼働まで10年以上を要する案件も珍しくない。
第二の壁は、開発リスクとコストである。地下に十分な熱水があるかどうかは掘ってみるまで分からず、調査井の掘削には1本あたり数億円規模の投資が必要とされる。当たり外れの大きい「山師的」な事業構造が、民間資本の参入をためらわせてきた要因だ。さらに従来型の地熱発電所は出力規模が数千〜1万数千キロワット程度にとどまるケースが多く、投資回収の観点からも事業化のハードルは決して低くなかった。
「CO2を使い、水を使わない」という発想の転換
大成建設らが開発するのは、地下の高温地層にCO2を圧入し、熱媒体として循環させて採熱する技術である。原理としては、人工的に貯留層を造成して流体を循環させる「EGS(増進地熱システム)」の一種だが、循環させる流体に水ではなくCO2を用いる点に独自性がある。
超臨界状態になったCO2は水よりも粘性が低く、岩盤の小さな亀裂にも入り込みやすいため、熱交換の効率化が見込める。さらに圧入したCO2の一部は地層内で炭酸塩鉱物として固定されるため、大気への排出を伴わない閉鎖系のサイクルを形成しつつ、カーボン固定効果も期待できるという「一粒で二度おいしい」設計になっている。
地下水を汲み上げないという特性は、技術面だけでなくビジネス面でも大きな意味を持つ。温泉資源への影響が抑えられることで、地元との利害対立の構造そのものが緩和され、合意形成に要する時間とコストの圧縮につながる可能性がある。また熱水量が不足しているために従来は事業化を断念していたエリアでも開発の道が開ける点は、立地制約の解除という意味で開発可能地点を広げるインパクトを持つ。
「地熱開発が長年停滞してきた最大の理由は、技術そのものよりも地域との合意形成コストにありました。水を使わない技術は、この構造的な制約を技術的に回避しようとする試みとして注目に値します。ただし炭酸塩化によるCO2固定量やコストの検証はこれからで、フィジビリティ・スタディの結果を冷静に見極める必要があります」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)
大成建設、「施工請負」から「インフラの担い手」へ
大手ゼネコンは今、資材価格の高騰、2024年に本格適用された時間外労働の上限規制、そして中長期的な国内建設需要の伸び悩みという構造的な逆風にさらされている。建物を建てて引き渡せば完了する従来型の請負(フロー型)ビジネスだけに依存する経営は、収益の安定性という点で限界が見え始めている。
大成建設は中期経営計画「TAISEI VISION 2030」達成計画(2024〜2026年度)の中で、O&M(運営・維持管理)事業の拡大やPPP・コンセッション事業への参画を掲げ、請負中心からの転換を明確に打ち出している。環境・エネルギー分野には3年間で750億円規模の投資を計画し、洋上風力や原子力関連、CO2回収・貯留(CCS)を重点領域と位置づけてきた。今回のCO2地熱発電は、こうした戦略の延長線上に位置づけられる取り組みと見ることができる。
発電事業者として長期にわたり売電収入を得る「ストック型」の収益構造を築くことができれば、景気や工事量の増減に左右されにくい安定財源を確保できる。加えて、土木技術による建設から運用ノウハウまでを自社で一貫して担うことができれば、単なる発電所のオーナーにとどまらない付加価値の獲得も視野に入る。CCS事業で培ってきたCO2の地下挙動を把握する知見をそのまま応用できる点も、他業種からの新規参入者にはない強みといえるだろう。
もちろん、一つの実証・FS案件だけで大成建設全体の収益構造が即座に変わるわけではない。しかし、洋上風力や原子力関連投資と並ぶ「環境・エネルギー分野」への3年間750億円という投資規模の大きさを踏まえれば、CO2地熱発電は単発の技術開発にとどまらず、会社全体が目指す事業ポートフォリオの多角化戦略の一部として位置づけられていると見るのが妥当だろう。
次世代地熱をめぐる競争
もっとも、次世代地熱への関心は大成建設に限った話ではない。鹿島建設は2024年2月、水を使わずに高温岩盤の熱を回収する「Eavor-Loop」技術を持つカナダのEavor Technologiesに出資し、地熱発電事業への参入を進めている。大林組はニュージーランドで地熱発電会社Eastland Generationへの出資を通じ約108メガワットの発電設備を保有するほか、国内でも北海道でJOGMECの助成を受けた資源量調査を進めている。
つまり大手ゼネコン各社は、それぞれ異なるアプローチで次世代地熱という同じ土俵に立ちつつある。鹿島が海外発の技術に出資して知見を取り込む戦略を採る一方、大成建設は地熱技術開発との共同研究というかたちで、CO2循環という独自技術を自前で育ててきた点に違いがある。自社のCCS関連技術やCO2の地下挙動解析ノウハウを転用できることは、掘削技術と流体制御を併せ持つプレイヤーが限られる中で、一定の参入障壁として機能する可能性がある。ただし、これが実際に商業化段階でどこまでの優位性につながるかは、今後のフィジビリティ・スタディの結果や実証段階でのコスト検証を待つ必要があり、現時点で優劣を断定するのは早計だろう。
商業化への道のりと残る課題
経済産業省は超臨界地熱、クローズドループ、EGSを含む次世代地熱技術について、2030年代の発電開始を見据えたロードマップを策定する方針を示している。大成建設のCO2地熱発電も、この国家的な取り組みの一角を占める技術の一つと位置づけられる。
海外に目を向ければ、水資源が乏しい一方で地熱ポテンシャルを持つ中東やアフリカの一部地域、あるいは環太平洋火山帯上にありながら水利用に制約を抱える地域などは、水を使わない地熱技術にとって将来的な展開余地となり得る。日本はかつて地熱発電プラントの機器輸出で世界的なシェアを持っていた実績もあり、技術輸出国としての再興を描く余地はある。ただし、これはあくまで技術的な親和性から見た可能性であり、現時点で大成建設から具体的な海外進出計画が公表されているわけではない点には注意が必要だ。
課題も残る。フィジビリティ・スタディの段階から商業規模へのスケールアップにあたっては、掘削コストや設備コストの見通しを精緻化する必要があり、大深度掘削における技術的トラブルへの対応やメンテナンス体制の確立も避けて通れない。何より、実際にCO2を安定的に地下に循環させ続けられるかどうかという技術的な実証そのものが、今後数年間の焦点となる。
「次世代地熱は複数の技術方式が並走している発展途上の分野です。CO2循環方式は理論上の優位性は語られていますが、実際のプラント規模での長期運転データはまだ乏しい。今後はコストと信頼性の両面での実証データの蓄積が、技術の優劣を判断する鍵になるでしょう」(同)
大成建設が着手したのは、まだ実証プラントの稼働ではなく、社会実装に向けた可能性を見極めるフィジビリティ・スタディの段階である。過大な期待も、過度な懐疑も禁物だろう。それでもこの取り組みが示唆するのは、地下という土木の本領発揮領域を軸に、建設業が「建てて終わり」のフロー型ビジネスから、長期的な収益を生むストック型のインフラ事業者へと自らを再定義しようとする動きである。日本が抱える地理的な強みを、次世代のエネルギー産業へと転換できるかどうか。その最初の一歩を、業界がどう検証していくかが注目される。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)
【主な参照データ・出典】
大成建設株式会社 プレスリリース「『カーボンリサイクルCO2地熱発電技術』に関する実現可能性調査について」(2026年9月8日)
大成建設株式会社 プレスリリース「『カーボンリサイクルCO2地熱発電技術』の開発に着手」(2021年8月23日)
資源エネルギー庁「地熱発電も『次世代』へ!課題をクリアし日本の地熱を最大限に活用」
独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)関連資料
鹿島建設株式会社 プレスリリース(2024年2月19日、Eavor Technologiesへの出資について)
株式会社大林組 グリーンエネルギー事業関連ページ
大成建設株式会社 中期経営計画(2024-2026)資料











