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大成建設、ゼネコン不況でも「利益率17%」の舞台裏…”脱・新築”でストック収益化

2026.09.09 05:55 2026.09.08 21:35 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=秋田智樹/不動産ジャーナリスト

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●この記事のポイント
大成建設は改修工事を軸に建築利益率17%を視野に収益改革を進める。新築特有の工期リスクを避け、元施工データの活用と「居ながら施工」による高粗利受注を実現している。非住宅リニューアル市場は2025年度に11.8兆円規模へ拡大する見通しで、他産業にも通じるストックLTV最大化モデルとして構造を分析する。

 ゼネコン業界に「タイムラグによる採算悪化」という構造的な逆風が吹き続けている。新築の大型プロジェクトは受注から竣工まで数年を要するため、契約時に見積もった価格のまま着工後の資材高騰や人件費上昇を吸収せざるを得ない。建設物価調査会の統計では、建設総合の資材物価指数は2026年6月時点で149.6(2015年=100)となり、前年同月比で5.2%上昇した。さらに2024年4月に建設業へも適用された時間外労働の上限規制、いわゆる「2024年問題」が追い打ちをかける。東京商工リサーチの調査では、建設業の69.3%が同規制を「マイナス」と回答し、うち57.5%が「稼働率低下による利益率の悪化」を最大の懸念として挙げた。

 この構造不況のさなか、大成建設が異彩を放っている。8月30日付日本経済新聞記事によれば、同社は改修(リニューアル)工事に特化した専門部署を増員し、「短い工期、物価高に耐性」という特性を武器に「利益率17%」を視野に入れた収益改善策を打ち出したと報じられている。実際、2026年3月期の連結決算は売上高こそ前期比3.0%減の2兆890億円にとどまったものの、営業利益は56.4%増の1879億円と過去最高を更新した。建築事業単体の営業利益率は6.1%(前期の低水準からの大幅回復)であり、17%という数字はあくまで改修事業を軸とした将来目標であることには留意が必要だが、同社が「量」から「質」への転換を鮮明に打ち出している事実は間違いない。相川善郎社長も2025年1月の日本経済新聞のインタビューで「国内建築で利益率15%は可能」と述べ、改装工事の拡大に意欲を示していた。本稿では、この「改修シフト」がなぜ高収益につながるのか、その構造的な理由を事実に基づいて解き明かす。

●目次

「改修=薄利」の常識を覆す高収益のロジック

 改修工事は従来、新築に比べて単価も利益率も低い「薄利多売」の領域とみなされてきた。しかし、インフレと人手不足が常態化した現在の環境下では、この常識は必ずしも当てはまらない。

 第一の理由は、時間リスクの極小化である。新築工事の工期が数年単位であるのに対し、改修工事は数カ月から1年程度で完了するケースが多い。工期が短ければ、見積もり時点と施工時点のコスト乖離リスクは構造的に小さくなる。この点は、ゼネコン各社が直面してきた「物価スライド条項」を巡る交渉の実態からも裏付けられる。建設業界団体の調査によれば、実際に発注者側と契約変更(価格転嫁)が行われた比率は2023年度に上昇したものの、現場で語られる実感としては、物価スライドで実際に獲得できた金額は本来のコスト増加分の2〜3割程度にとどまるとの指摘もある。つまり、工期が長くなるほど「価格転嫁の遅れ」による損失が積み上がりやすい構造にあり、逆に工期の短い改修工事はこのリスクから相対的に自由になれる。

 第二の理由は、「元施工データ」という情報資産のマネタイズである。自社が過去に手がけたビルであれば、竣工図面や構造データ、設備の劣化履歴を保有している。大成建設自身も、リニューアル事業について「建物を使用しながら行うことが多いため、設計と施工が一体となって合理的な計画を進めることが成功の要件」と説明しており、既存建物の情報をどれだけ正確に把握しているかが計画の精度を左右する業態であることがうかがえる。他社が新規参入する場合に必要となる詳細な事前調査や、施工中に判明する予期せぬ不具合への対応コストは、元施工者であれば大幅に圧縮できる。見積もり精度が上がれば、追加費用の発生リスクも下がり、結果として粗利益率が構造的に高くなりやすい。

「新築偏重の収益モデルは、インフレ局面では“時間”そのものがコストリスクになる。改修工事への傾斜は単なる需要対応ではなく、時間軸の短い案件に資源を寄せることでインフレ耐性を確保する、極めて合理的なリスクマネジメントだ」(不動産ジャーナリスト・秋田智樹氏)

技術的参入障壁「居ながら施工」と価格決定権の確保

 改修工事の多くは、オフィスや商業施設を稼働させたまま進める「居ながら施工」を伴う。テナントを退去させずに騒音や振動を制御し、安全動線や資材搬入経路を限定された条件のなかで確保する施工管理には、新築工事とは異なる高度なエンジニアリングとマネジメント能力が求められる。

 この技術的な難易度の高さは、発注者であるビルオーナー側の経済合理性と結びついたとき、価格決定力の源泉に変わる。オーナーにとって、テナントを退去させずに工事を完了できることは、単なる「工事の巧拙」の問題ではない。賃料収入が途切れる空白期間(ダウンタイム)を作らずに済むという、事業機会損失の回避そのものが最大の価値になる。矢野経済研究所の調査(2026年発表)によれば、非住宅リニューアル市場は2024年度に11兆5900億円(前年度比2.8%増)、2025年度は11.8兆円程度(同2.1%増)に拡大すると見込まれており、その背景として「建設費高騰によりオーナーが新築から既存ストック活用へ投資方針を転換していること」「1980年代後半から90年代前半の建築物がリニューアル時期を迎えていること」「ZEB改修やBCP対策強化など高付加価値なリニューアル需要の活発化」が挙げられている。

 つまり発注者は、単に「工賃が安いか」ではなく「事業への影響を最小化できるか」を基準に発注先を選ぶようになっている。この土俵では、施工品質と情報優位性を持つ元施工ゼネコンが、価格競争に巻き込まれにくい適正価格での受注を実現しやすい。

「ビルオーナーにとって、改修中のダウンタイムはそのまま逸失賃料に直結する。発注先を選ぶ基準は工事費の多寡だけでなく、いかに稼働を止めずに価値を上げてくれるかという“事業継続の保証”に移りつつある。ここに価格の主導権が生まれる」(同)

「売り切り」から「ストックLTV最大化」へ

 この動きは大成建設一社の成功譚にとどまらない。大手ゼネコン各社は2026年3月期決算でそろって増益を確保しており、新築の受注規模(完成工事高)を競う時代から、竣工後のビルが生み出す収益をライフサイクル全体でどれだけ確実に回収できるかという「LTV(顧客生涯価値)」型の競争へと、業界内の重心が移りつつあることをうかがわせる。大成建設自身も中期経営計画とTAISEI VISION 2030達成計画において、2030年度に国内建築事業の売上総利益率10%以上、グループ純利益1500億円、ROE10.0%程度を目標に掲げ、リニューアル事業を「強みであり注力分野」と明記している。

 この構造転換は、建設業界にとどまらず、他産業にも普遍的な示唆を与える。新しい顧客や新しい製品を売り続けることで成長してきた「フロー獲得型」のビジネスモデルは、どの業界でも新規開拓コストの高騰という同じ壁に直面しつつある。製造業では既存設備の保守・大規模改修・機能アップデートで収益を積み上げる動きが広がり、ソフトウェア産業ではサブスクリプション型の継続課金モデルが主流になった。自動車業界でも、新車販売そのものより点検・整備・ソフトウェアアップデートによる継続収益への関心が高まっている。共通するのは、既存顧客が持つデータや関係性という「手元の資産」を起点に、確実な収益を積み上げる発想への転換である。

「大成建設の事例は建設業に固有の話ではなく、成熟市場における普遍的な経営課題への回答例と見るべきだ。新規顧客の獲得コストが高止まりする局面では、既存資産の再活用によるLTV最大化こそが、業種を問わず確実な収益源になる」(同)

不確実性時代における「確実な収益軸」の確立

 大成建設の取り組みは、単に「地味な改修工事へのシフト」と片づけられるものではない。資材高騰と労働力不足というマクロ環境の構造変化に対し、価格転嫁の遅れという時間リスクをコントロールできる事業領域へ経営資源を集中させた、洗練されたポートフォリオ改革として理解すべきだろう。

 もっとも、17%という利益率目標はあくまで報道ベースの将来目標であり、2026年3月期時点の建築事業全体の営業利益率は6.1%にとどまる。改修へのシフトが実際に全社収益をどこまで押し上げるかは、今後の決算で継続的に検証していく必要がある。それでも、変化が激しく先行きの見通しが立てにくい現代において、企業が資源を投じるべき対象は「不確実な巨大案件」だけではなく、「手元にある資産――データや既存顧客との関係――を活かした確実な収益化」であるという示唆は、業種を問わず重みを持つ。大成建設の改修シフトは、その一つの実証例として注目に値する。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=秋田智樹/不動産ジャーナリスト)

【主な参照データ・出典】
大成建設2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
【TAISEI VISION 2030】達成計画・中期経営計画(2024-2026)策定について(大成建設公式IR)
非住宅リニューアル市場に関する調査を実施(2026年)(矢野経済研究所)
「2024年問題」で6割の企業が「マイナス」影響(東京商工リサーチ)
ゼネコンの物価スライド獲得状況について|2024年版(archi-book)
建設コストの高騰とその要因について 2025年(野村不動産ソリューションズ)
リニューアル ― 既存建物に価値を(大成建設 Technology & Solution)

BusinessJournal編集部

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公開:2026.09.09 05:55