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建設業界は「夢がある業種」 22歳・職人で年収1200万円も…人手不足の原因

2025.04.29 2025.05.18 19:16 企業
建設業界は「夢がある業種」 22歳・職人で年収1200万円も…人手不足の原因の画像1
「Unsplash」より

●この記事のポイント
・建設費の高騰が深刻化するなか、新規着工できずに開発がストップする事例が全国で相次いでいる
・建設費高騰の要因として資材費の上昇とともに指摘されているのが、人手不足による人件費の高騰
・新規学卒者の建設業への入職者数は近年では減っておらず、年間4万人台で推移している

 建設費の高騰が深刻化するなか、新規着工できずに開発がストップする事例が全国で相次いでいる。3月には東京・中野区の「中野サンプラザ」跡地の再開発の工事費が当初の想定を900億円以上も上回る見込みとなり、再開発計画が撤回され白紙に戻されるという事態が発生。同月には、京王電鉄とJR東日本が事業主体となって東京・新宿駅の西南口地区で進めている大規模な再開発が、一部の区で施工を担当する建設会社が決まらないため着工できず、工期完了予定時期について「未定」に変更すると発表された。

 建設費高騰の要因として資材費の上昇とともに指摘されているのが、人手不足による人件費の高騰だ。人件費の指標となる公共工事設計労務単価は、25年3月に全国全職種平均で2万4852円。前年同月から1000円以上も増えた。約10年前(15年2月)と比べると5割近く高い。そんな建設業界の「成り手不足」の背景には賃金水準が低いというイメージが広まっていることがあるともいわれているが、少し前にはSNS上で、22歳で年収1200万円の職人もいるという投稿が一部で話題となっていた。建設業界関係者は「年収としては可能な金額」「若手の入職者の数が減っているわけではない」という。建設業界の今とこれからについて、加藤装飾株式会社の山本悠太氏の協力のもとに取材した。

●目次

新規学卒者の建設業への入職者数は近年では減少していない

 日建連の調査によれば、加盟社の2024年度の国内建設受注額は前年度比5%増の18兆6333億円で、過去20年で最高額となった。こうした建設需要の高まりと「建設業の2024年問題」といわれる時間外労働の上限規制(時間外労働時間が原則「月45時間・年360時間」に制限され、違反は罰則の対象となる)、高齢化などにより、建設業界の人手不足は深刻だと指摘されている。

「これまで建設会社はディベロッパーなどの事業主といったん工事の請負契約を結ぶと、工事費が上昇しても事業主に追加分の費用を請求できず、建設会社がそれを吸収して“自腹を切る”かっこうでした。現在ではその力関係が逆転して、建設会社は採算が合わない工事は引き受けないようになり、事業主側も工事費が上がった分をきちんと支払う約束をしないと、建設会社に工事を引き受けてもらえないというケースも出てきています。そして大手ゼネコンは現場作業員を確保するために設備工事会社に頭を下げるという状況も生まれています」(ディベロッパー関係者)

 建設費上昇の要因の一つが業界の人手不足だ。国土交通省「建設業における働き方改革と工期の適正化について」によれば、2023年の建設業就業者数は483万人で、ピーク時(1997年)と比較して約3割減となっている。もっとも、新規学卒者の建設業への入職者数は近年では減っておらず、年間4万人台で推移している。業界全体の就業者が減っているのは、建設業就業者の6人に1人が65歳以上と高齢化が進み離職者が増加していることが原因だ。ちなみに過去10年間で100名以上の工事会社の就業者は増加傾向にある。

職人が月収100万円を得るケースとは?

 建設業界をめぐっては、低賃金というイメージも持たれがちだが、前述のとおり22歳の職人が年収1200万円を得るケースもあるという情報も報告されている。建設業界関係者はいう。

「可能かといわれれば、可能だと思います。建設会社の社員という身だと難しく、やるとすれば一人親方、つまり個人事業主というかたちです。年収1200万円ということは一月あたり100万円ですが、たとえばリフォーム業界は粗利率は3割ほどといわれており、500万円の工事を受けると粗利が150万円くらいで、そこから工具や自動車の維持費などの経費を差し引いて100万円というイメージでしょうか。つまり毎月コンスタントに500万円の売上をあげる必要があり、おいしい工事案件を優先的に回してくれる事業者との太いパイプを持っている必要があります。

 職人の工事の受け方には大きく2つあり、一つは『手間受け』といわれる日単位の労働です。日当の相場が2万5000円~3万円ほどなので、月収100万円というのは難しいのではないかと思います。もう一つが、工事一式を受注して材料や職人をすべて段取りする『請け負い』という形態ですが、多くの職人を引っ張ってくることができる力があったり、一人で大工仕事や水回り、電気関連の仕事をこなせる多能工の職人だと、請け負う工事金額も上がるため利益率が高くなり、月収100万円というのもみえてくるかもしれません。ただ、一つの職種で信頼されるようなレベルに到達するまでには最低でも4~5年以上はかかるので、多能工として活躍するためにはそれなりの年数が必要になります」

 建設業界全体の給与水準はどうなっているのか。

「国税庁『民間給与実態統計調査結果』によれば、建設業の平均給与は全産業平均より高くなっており、大手企業や、全体の2割ほどを占める、積極的に働き方改革やデジタル化に取り組み業績が伸びている優良企業では、管理職年収700万円レベルは一般的になってきます。そのため、現在では地銀や地方公務員、介護職からの転職も増えています。また、今では工業高校の求人倍率は10倍以上、高専は20倍以上と高い水準になっていますが、建設業界は技術と専門性が求められる世界なので、多くの工業高校・高専卒業者が大手の工事会社や優良企業に就職して、大卒者並みの給与を得ています。他方で、製造業では大手企業の正社員が半数を超えるのに対し、建設業は資本金1,000万円以下の小規模企業(家族経営の会社など)で勤務する人が就業者の4割もいます。この4割の人の給与水準が上がっていないことが課題です。また、業界努力で死傷労災件数もピーク時から9割近く減っています」(24年6月3日付当サイト記事より/クラフトバンク総研所長の高木健次氏)

実力を身につければ、それに比例して収入を高めていくことができる業界

 建設業界関係者はいう。

「大手ゼネコンの給与水準は他業種の上場大企業と同じ水準ですが、中小の建設事業者は利益が出にくい構造があります。きちんと利益を確保しようとすると見積金額が高くなり、お客さんは複数社から相見積もりをとって比較するので、他社に競り負けてしまいます。各社が足並みをそろえて適正な利益水準を前提とする見積金額を提示するようになれば、建設業者社員の待遇は改善されていくかもしれませんが、受注優先で安さをウリにする業者も少なくないので、なかなか難しいです。たとえばトイレ修理など特定の分野を専門にする業者が、大量仕入れによるコスト削減やインターネットの活用によって利益率を上げていくというケースはあるかもしれませんが、すべての中小事業者が積極的な改革を進めていくというのは簡単ではないように感じます」

 別の建設業界関係者はいう。

「努力して実力を身につければ、それに比例して収入を高めていくことができる業界ではあると思います。高卒でも大卒の会社員並みの収入を得ている職人は多いですし、地方であれば30代の職人が年収700~800万円を得て戸建ての持ち家で家族4人で生活するというモデルは普通にあります。その意味では夢がある職種といえるかもしれません」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=山本悠太/加藤装飾株式会社)

山本悠太/加藤装飾株式会社

山本悠太/加藤装飾株式会社

2013年竹中工務店に技術職で入社し、施工管理・内勤として9年間従事。在職中に一級施工管理技士を取得。
2022年に退職後、大阪府吹田市のリフォーム会社である加藤装飾株式会社へ転職。リフォーム工事の施工管理として従事しながらWebライターとしても活動中。
加藤装飾株式会社の公式サイト