東京エレクトロン最高益の裏側…半導体装置が示す「AIインフラ化」の現実

●この記事のポイント
東京エレクトロンは2026年3月期に売上高2.44兆円、純利益5744億円で過去最高を更新。研究開発費2778億円への先行投資で営業減益も、中間予想は売上33%増と急拡大。HBM需要でDRAM投資が活性化し、装置・保守のストック収益も伸長。WSTSは2026年市場9755億ドル、Omdiaは1兆ドル超を予測する一方、供給過剰と電力制約がリスクとして浮上する。
東京エレクトロン(TEL)が2026年4月30日に発表した2026年3月期連結決算は、売上高2兆4,435億円(前期比0.5%増)、純利益5,744億円(同5.6%増)で、ともに過去最高となった。ただし、営業利益は6,249億円(前期比10.4%減)と一見振るわない数字も並ぶ。これは、宮城・熊本に整備した新拠点を活用すべく研究開発費を前期比11.1%増の2,778億円まで積み増したことが主因であり、将来の成長に向けた先行投資の性格が強い。
むしろ投資家の視線が集まったのは、次期(2027年3月期)の中間業績予想だ。2026年4〜9月期の連結業績予想は、売上高1兆5,700億円(前年同期比33.1%増)、純利益3,280億円(同35.7%増)と、半期ベースで過去最高の更新を見込む。同社は今期から「より適時かつ実態に即した情報提供」を目的に、通期予想の代わりに中間期のみを開示する方針に変更した。これを「消極的な非開示」と受け取るか、「出荷タイミングを見据えた合理的な判断」と読むかで、企業の実力評価が分かれる。市場は後者を選んだ。
●目次
AIだけじゃない──「二極化」から「総立ち」へ
昨今の半導体市場について、「AIサーバー向けは好調だが、その他は低迷が続く」という二極化論が根強く唱えられてきた。だが、足元ではその構図が変わりつつある。
まず、AI向けの需要そのものが裾野を広げている。TELの半導体製造装置売上高2兆4,435億円のうち、非メモリ(ロジック・ファウンドリー)が59%、DRAMが31%、不揮発性メモリが10%を占める。ここで注目すべきはDRAMの比率だ。AI向けGPUに搭載される高帯域幅メモリ(HBM)は、最先端のDRAM製造技術を必要とするため、HBM向けの設備投資がDRAM全体を押し上げている。
一方で中国市場の動向は複雑だ。地域別売上高を見ると、中国のシェアは第4四半期の47.4%から通期では26.8%まで低下し、韓国が24.3%へ拡大、台湾は22%を維持した。中国が「一服感」を見せたとはいえ、ゼロになったわけではない。米中の技術規制の網をくぐりながら、中国の地場メーカーがレガシー半導体の自給体制を着々と構築しており、その製造装置需要がTELの売上を支えてきた側面も否定できない。地政学リスクが、逆説的に需要の多様化をもたらしているのが現実だ。
TELが持つ「替えの効かない」技術的優位
なぜTELはここまで高い収益性を維持できるのか。答えは技術の参入障壁にある。
半導体の微細化が物理限界に近づいた今、製造の焦点は「平面の微細化」から「垂直方向への積層化(3D化)」へと移行している。TELが世界シェア90%以上を誇る塗布・現像(コータ/デベロッパ)装置は、DRAM・先端ロジック向けの大規模投資に乗じて、次期通期で前年度比50%以上の売上増が見込まれる。また、2026年度に約2,000億円の売上を生んでいる先端パッケージング(接合)ソリューションは、次期に60%超の成長が予測される。半導体チップを立体的に積み重ねる「高度実装」技術は、TELが強みとするエッチングや接合プロセスなしには成立しない。
さらに特筆すべきは「稼いでから稼ぐ」ビジネスモデルだ。部品・サービス・改造を含むフィールドソリューション(保守・メンテナンス)事業は6,260億円と前年比16.3%増を記録した。装置を一度納入すれば、その後も世界中のファブ(半導体工場)での稼働を支えるメンテナンス契約が継続的に収益をもたらす。ストック型収益の安定性が、TELの財務体質の強さを支えている。
元半導体メーカー研究員で経済コンサルタントの岩井裕介氏は次のように指摘する。
「現在の先端製造ロードマップを見ると、TELが強みとする工程は今後数年で重要性が増す一方だ。3D実装やゲートオールアラウンド構造への移行期には、製造装置の入れ替えサイクルが必ず発生する。装置メーカーにとって、これは中期的に確実に見込める需要だ」
2026年「1兆ドル市場」の光と影
マクロ環境も追い風だ。世界半導体市場統計(WSTS)の2025年秋季予測によると、2026年の世界半導体市場は前年比26.3%増の9,755億ドルに達するとされ、大幅に上方修正された。市場調査会社Omdiaは2026年に史上初の1兆ドル超えを予測し、コンピューティング&データストレージ分野が同41.4%増の5,000億ドル超となり、市場全体をけん引するとみている。製造装置分野においても、業界団体SEMIはウェーハファブ装置(WFE)の2026年売上高が10.2%増の1,221億ドルに達すると予測しており、AIアプリケーション向けの最先端ロジックとメモリの生産能力拡張が成長を牽引するとしている。
ただし、楽観論一色ではない。懸念材料は二つある。一つは「工場乱立」による供給過剰リスクだ。米国・日本・欧州が国家主導で半導体投資を加速する中、中期的には需給バランスが崩れる局面も想定される。Omdiaのアナリストは「2026年の市場成長の性質は、広範な消費者行動ではなくAI関連需要の集中によるもの。メモリとロジックICを除けば成長率はわずか8%にとどまる」と構造的な偏りを指摘しており、慎重な評価も示している。
もう一つは電力問題だ。データセンターの急増に伴うエネルギー消費は、各地の電力インフラの限界を試し始めている。半導体の性能向上がデータセンターの効率改善につながるという好循環はあるものの、短期的な電力制約がデータセンター建設のボトルネックとなるリスクは無視できない。
「過去のシリコンサイクルは、消費者向け端末の買い替えサイクルに引きずられるかたちで急落と急騰を繰り返してきた。だが今サイクルの主役はAIインフラという『社会的なインフラ財』であり、投資の継続性が以前とは根本的に異なる。暴落よりも、高い水準での踊り場を経た次の成長フェーズに入る可能性が相対的に高い」
製造装置の受注からデバイスの量産出荷まで、おおむね半年から1年のタイムラグがある。つまり今のTELの好調は、2027年にかけての世界の半導体供給量を映す先行指標に他ならない。TELが2026〜2027年の暦年において、ウェーハファブ装置市場が20%超の成長を示すとの広範な予測と自社の見通しが一致していることに自信を示している事実は、単なる強気姿勢ではなく受注残という実績に裏打ちされた見解だ。
「半導体を知ることは、未来の経済地図を読むこと」と言われる。東京エレクトロンの快進撃は、一企業の優秀さにとどまらない。それは人類のデジタルインフラが質・量ともに次の段階へ移行したことの、最も確実な証左のひとつである。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/経済コンサルタント)











