稠密・複雑・高リスク…「世界最難関の都市」東京がスマートシティの試金石になる

●この記事のポイント
・グーグルはAI開発に10年以上投資してきた実績を持ち、Geminiを搭載した製品は70以上、各20億人超に利用されている。セッションでは「AIは道具であり、それを使って地域をどう良くするかが本質」と強調した。
・グーグルと東京都は昨年DX推進に向けた協定を締結。その成果の一つ「東京マップ」では、分散していた行政の地図情報を統合し、市民が自らデータを読み解くプラットフォームを目指している。
・地理空間AIやEarth AIなど最新技術を活用し、都市計画・防災・モビリティへの実装が進む。「東京で機能するものは、どこでも機能する」──東京は世界の都市課題解決の実験場として位置づけられている。
東京都などが主催するSusHi Tech Tokyo 2025の2日目(4月29日)、グーグルと東京都のセッションが会場の一角で静かな熱気を帯びていた。登壇したのは、グーグルでAI研究・Geoパートナーシップ分野を統括するクリス・ターナー氏をはじめ、Geoパートナーシップ日本・中華圏統括の大沼利広氏、AIリサーチ&Geoパートナーシップマネージャーの倉田結生子氏、そして東京都デジタルサービス局の高橋正和氏。テーマは「AIを社会のために使う」、一見シンプルなそのメッセージの裏側には、10年超のAI開発の歴史と、東京という都市固有の課題への深い洞察があった。
●目次
- 「AIは今始まったものではない」…グーグルの10年超の軌跡
- 地図を「話しかけられる存在」に…GeminiがGoogle Mapsを変える
- 「地球規模」で考えるGeoテクノロジー…Earth AIが切り拓く都市の未来
- 人口1400万人の「実験場」…グーグルと東京都が結んだ協定の中身
- 「AIで穴を埋めて70%削減」…ミズーリ州から届く実装の手ざわり
「AIは今始まったものではない」…グーグルの10年超の軌跡

ターナー氏はまず、会場の熱気に触れながら切り出した。
「AIは今のトレンドのように語られることが多いですが、グーグルにとっては決してそうではありません。私たちは2014年にDeepMindを買収し、10年以上にわたってAIソリューションへの投資を続けてきました。2016年にはCEOが『グーグルはAIファーストの企業になる』と宣言しています」
グーグルの原点は「世界の情報を整理し、誰もがアクセスできるようにする」こと。その使命がAI開発の根底にも貫かれているとターナー氏は語る。現在、Geminiを搭載した製品のうち15製品が5億人超、70製品が各20億人超のユーザーに使われているという数字は、その積み重ねの証左だ。
「AIはあくまで道具です。重要なのは、AIが素晴らしいということではなく、AIを使ってあなたの地域をどう良くするか、ということです」とターナー氏は強調した。
地図を「話しかけられる存在」に…GeminiがGoogle Mapsを変える

続いて大沼氏が、Google Mapsの現在地を解説した。250か国・地域でサービスを展開し、20億人のユーザーを持つGoogle Maps。昨年は20周年を迎えたが、大沼氏が強調したのはその「進化の質」だ。
ストリートビューで収集した高解像度画像にAIを掛け合わせることで、建物や都市景観をリアルタイムに3Dで再現。さらに、GeminiをGoogle Mapsに統合することで、地図に「話しかける」ことが可能になった。
「行き先を入力するのではなく、会話するように使える地図になります。質問すれば、場所の予約方法や隠れたメニュー、駐車のコツまで教えてくれます」
複雑な地形と多様な交通機関が混在する東京は、こうしたAR/AIナビゲーションの恩恵を受けやすい都市の筆頭として位置づけられている。
「地球規模」で考えるGeoテクノロジー…Earth AIが切り拓く都市の未来

倉田氏は、Googleのジオスペーシャル技術(地理空間情報技術)が企業や自治体にどう活用できるかを、映像を交えながら解説した。キーワードは三つ──「生成AI」「ジオスペーシャル分析」「地理空間的推論」だ。
なかでも関心を集めたのが「Google Earth AI」だ。衛星画像の解析、人口・人流データの統合、気候・環境モデルの三つの柱を組み合わせることで、単一のモデルでは答えられなかった複雑な問いに応えられるようになった。
たとえば「ハリケーンはどこに上陸し、どの地域が最も脆弱か」という問いに答えるには、衛星画像、人口データ、環境要因を横断的に推論する必要がある。Earth AIはその「横断的思考」を可能にする。都市の熱源マップから植樹の最適場所を割り出す機能はすでに実装されており、都市計画の現場で実用段階に入っている。
人口1400万人の「実験場」…グーグルと東京都が結んだ協定の中身
ターナー氏は東京をこう表現した。
「稠密な人口、世界屈指の公共交通網、リアルタイムで制御される道路ネットワーク、そして地震・台風という常在する自然災害リスク──この組み合わせは世界のどの都市にもありません。東京で機能するものは、どこでも機能します」
昨年、グーグルはDX推進に向けた連携・協力に関する協定を東京都と締結した。この協定に基づき現在進んでいる具体的な取り組みの一つが「東京マップ(Tokyo Map)」だ。東京都のデジタルサービス局・高橋氏がステージに上がり、その概要を説明した。
「これまで防災、バリアフリー、フードマップなど分散していた行政の地図情報を、一つのプラットフォームに統合して閲覧できるようにする試みです。重要なのは、政府がデータの解釈を押しつけるのではなく、市民が自分のニーズに合わせてデータを読み解く主体となること」
現在はトライアル版の段階で、まず静的なデータから始め、今後は防災・環境分野の動的データを加えていく方針だ。「東京都の役割は信頼できるデータを整備し、使いやすいプラットフォームを提供することです。それ以上でも以下でもありません」という高橋氏の言葉は、この協定が目指すスマートシティ像を端的に示している。
「AIで穴を埋めて70%削減」…ミズーリ州から届く実装の手ざわり
ターナー氏が紹介した海外事例の一つが、米国ミズーリ州の行政サービスのAI化だ。年間100万件の予約をAIで自動処理し、待ち時間を70%削減。年間1万2000時間分のエージェント業務を節約したという。
「コスト削減と市民満足の向上が同時に起きました。AIで行政サービスの穴を塞ぐことで、住民が本当に必要な答えを得られるようになります」と、ターナー氏は説明する。気候変動対策から教育、モビリティまで、AIが社会課題解決の道具になり得るという実証がここにある。
セッション全体を通じて繰り返されたキーワードが「トラステッドAI(信頼できるAI)」だ。グーグルが強調するのは、AIを「どう使うか」の前に「それを信頼できるか」を問うこと。東京都とのパートナーシップもその文脈に位置づけられる。
SusHi Tech Tokyoという場で語られたこのメッセージは、都市のAI活用がいよいよ「展示」から「実装」へと移行しつつあることを示すものだった。東京という「世界最大の都市実験室」が、次のフェーズへと踏み出している。
(取材・文=昼間たかし)











