ビジネスジャーナル > 経済ニュース > 金融庁が仕組み預金にメス入れる理由

金融庁が「仕組み預金」にメスを入れる理由…利上げ局面で露呈した銀行ビジネスの死角

2026.06.10 06:00 2026.06.09 23:47 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト

金融庁が「仕組み預金」にメスを入れる理由…利上げ局面で露呈した銀行ビジネスの死角の画像1

●この記事のポイント
金融庁が2026年夏にも「仕組み預金」の監督強化に乗り出す。仕組み預金は高金利をうたう一方、満期延長特約や中途解約調整金が組み込まれ、利上げ局面では元本の2〜3割が失われる可能性もある。日銀の利上げによってトラブルが顕在化し、「預金」という名称が生む安心感と実際のリスクの乖離が問題視されている。背景には地銀の収益悪化と手数料ビジネス依存の構造もある。

 金融庁が「仕組み預金」の販売実態に対し、本格的な規制強化に踏み切ることが明らかになった。6月6日付日本経済新聞の報道によれば、金融庁は今夏にも監督指針を改正し、解約制限のリスクなどを顧客向け説明資料に明記するよう銀行に義務付ける方針だ。月内にもパブリックコメント(意見公募)を開始し、違反した銀行は検査の対象となる。全国銀行協会も動向を注視している。

 背景にあるのは、全国の銀行窓口で急増する「中途解約トラブル」だ。「他の定期預金より金利が高い」と説明を受けて契約した顧客が、解約しようとすると預けた元本が大幅に目減りして戻ってくる——。こうした事態が、日銀の利上げという「想定外の地殻変動」を機に一気に表面化した。

 かつて「仕組み債」の大量販売で金融庁から厳しく処分された銀行業界が、今度は「預金」という安全・安心のレッテルを利用して同じ過ちを繰り返していると指摘されている。

●目次

そもそも「仕組み預金」とは何か

「預金」という名のデリバティブ

 仕組み預金とは、通常の定期預金に「デリバティブ(金融派生商品)」を組み込んだ金融商品だ。全国銀行協会の説明によれば、「満期まで原則として中途解約ができず、例外的に解約できた場合でも、受取額が預け入れた元本を大きく下回る可能性がある」商品である。

 表面上は「年利1〜3%」という通常の定期預金(大手行の0.025〜0.4%程度)を大きく上回る金利が提示される。しかし、その高金利は何かの「見返り」として設定されている。利用者が引き受けている条件の内容こそ、理解しておくべき核心だ。

顧客にとって圧倒的不利な「2大特約」

 仕組み預金の構造を理解するカギは、銀行側が持つ2つの「オプション(選択権)」にある。

①満期繰上特約(コーラブル型) 世の中の金利が下がった場合、銀行側が「満期を繰り上げて、預金を早期返済する」権利。銀行は自分にとって都合の良い(低コストの)タイミングで資金を返すことができる。顧客の立場からすれば、金利が下がった局面で高利率の恩恵を長く受けることができない。

②満期延長特約(ステップアップ型など) 逆に世の中の金利が上がった場合、銀行側が「最長10年まで満期を延長する」権利。市場金利が上昇した局面では、銀行は低コストの調達源(=顧客の資金)を手放さない。顧客は低い固定金利のまま、長期にわたって資金を「人質」に取られることになる。

 住信SBIネット銀行のFAQ(公開情報)には、最長10年まで延長可能な円プレーオフ型商品について、「市場金利が大幅に上昇した状況で預入直後に解約した場合、元本の約29%(100万円預けると29万円)の調整金が発生しうる」と明記されている。

「後出しジャンケン」が制度的に許された商品

 要するに、市場金利が下がれば銀行が元本を繰り上げ返済して高金利を終わらせ、市場金利が上がれば顧客を長期間拘束して低金利のまま囲い込む。どちらに転んでも銀行が有利になるよう設計されており、金利変動リスクの実質的なすべてが顧客側に集中する構造だ。

 高金利はこのリスク負担に対する「対価」として設定されているが、その内容が一般の顧客に正確に理解されているかは、別の問題である。

なぜ今、トラブルが急増するのか

ゼロ金利時代に設計された「バグ」が炸裂した

 仕組み預金に内在するリスクは、長年のゼロ金利時代には表面化しにくかった。金利が動かなければ、延長特約も繰上特約も頻繁に発動されないからだ。

 しかし2024年以降、日銀は政策金利の引き上げに踏み切り、国内金利は本格的な上昇局面に入った。これが仕組み預金の「欠陥」を一気に顕在化させた。

「他行の普通預金より低い」という逆転現象

 たとえば2020〜22年頃に「年利0.5%、最長10年の延長特約付き」で仕組み預金を契約した顧客を想定してほしい。当時は定期預金の金利がほぼゼロの時代だったため、0.5%という金利は確かに魅力的に見えた。

 ところが2025〜26年の現在、大手行の定期預金金利でさえ0.4〜0.7%に達し、ネット銀行では1%を超える商品も珍しくない。しかし銀行は延長特約を行使し続けるため、顧客は0.5%の低金利のまま、最長10年間資金を動かせない状態に置かれる。

 この「市場金利との逆転」こそ、中途解約の急増を招いている根本原因だ。

「解約しようとしたら元本が2〜3割消えた」

 不満を持った顧客が解約を申し出ると、待っているのは「中途解約調整金(デリバティブ清算コスト)」だ。金利上昇局面では、銀行がバックで結んでいたスワップ等のデリバティブ契約の清算コストが膨らむため、顧客の負担は大きくなる。

 実際に金融機関の公開情報が示す試算では、市場金利が大幅に上昇した状況での中途解約時に、元本の29%程度が調整金として差し引かれる可能性がある。100万円を預けた顧客が、71万円しか受け取れないケースが現実に起きているのだ。これが各地の銀行窓口で大量のクレームに発展し、今回の金融庁介入につながった。

「金融商品として仕組み預金そのものが違法というわけではありません。問題は、顧客が本当にリスクを理解して契約しているかどうかです。金融商品販売法や顧客本位の業務運営の観点から見ると、『預金』という名称が与える安心感と、実際のリスクとの間に大きなギャップが存在しています」(金融アナリスト・川﨑一幸氏)

 金融商品の世界では「情報の非対称性」が常に問題となる。銀行は商品設計の専門家だが、顧客の多くは金融工学やデリバティブの知識を持たない。

 しかも「預金」という名称が付くことで、多くの人が投資商品とは異なる認識を持ってしまう。この構造自体が、今回の問題の根底にある。

金融庁が本腰を入れる背景

仕組み債問題の「焼き直し」

 金融庁が今回の動きを重視する背景には、過去の「仕組み債問題」がある。2022年前後、地方銀行を中心に高齢者へ大量販売された「仕組み債」が、元本の大幅な損失をもたらし社会問題化した。金融庁は全国99行以上の地銀を対象に調査し、多数の銀行に対して厳しく業務改善を求めた。多くの銀行が「仕組み債の新規販売を停止する」と表明した。

 しかしその後、銀行が目を向けたのが「仕組み預金」だった。仕組み債と同様にデリバティブを組み込みつつ、名称に「預金」を使うことで顧客に安全なイメージを与えられる。銀行側には依然として高い収益性(スワップマージン等)がある。規制上は預金であるため、仕組み債と同等の説明義務規制がかかりにくい——という「抜け穴」を活用した構図だ。

「有利誤認」を誘う「預金」ブランドの悪用

 問題の核心は「有利誤認」にある。「投資信託」や「債券」という名称であれば、一般の顧客も「元本割れがありうる」と構えて検討する。しかし「仕組み”預金”」と言われた瞬間、多くの人は「元本は保証されているもの」と安心してしまう。

 実際には預金保険制度の保護対象ではあっても(円建ての場合)、中途解約時の調整金は保護されず、実質的に元本を大きく下回る金額しか受け取れない事態が起きる。

 金融庁はこの状況を、顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)の徹底義務に正面から反するものと判断している。今回の監督指針改正では、解約制限リスクを顧客向け説明資料に明記するよう義務付け、違反した銀行は立入検査の対象となる。

銀行側の事情——地銀を追い詰める構造的な収益圧力

「打ち出の小槌」を手放せない地銀の苦境

 地方銀行が仕組み預金に依存する背景には、深刻な収益環境がある。人口減少による融資先の縮小、長期金利低迷による利鞘の圧縮、デジタルバンクとの顧客争奪——こうした複合的な逆風の中で、仕組み預金は「比較的手間なく、安定した収益(スワップ取引のマージン)が得られる商品」として重宝されてきた。

 顧客から集めた資金を裏側でスワップ等に活用することで得るマージンは、融資や投信販売よりもシンプルに収益化しやすい。地銀の現場にとって、ノルマ達成の有力な手段であり続けてきた。

「地方銀行は本業の融資だけでは十分な収益を確保しにくくなっています。仕組み預金は比較的安定した収益源として機能してきました。しかし顧客理解が十分でない状態で販売が拡大すると、短期的な収益と長期的な信頼のトレードオフが生じます」(同)

 実際、銀行業界が直面している本質的な課題は、商品そのものよりもビジネスモデルにある。

「また売るものがなくなる」——現場の本音と今後の動向

 金融庁の規制強化が本格化すれば、メガバンク・主要地銀は順次「仕組み預金の新規販売停止」や「勧誘ルールの厳格化」に追い込まれるとみられる。仕組み債の販売停止後に起きたのと同じ構図だ。

 業界関係者の間には「規制が強化されれば、顧客に説明しにくい商品は売れなくなる」という現実論がある一方、「それが本来あるべき姿だ」という声も出始めている。

 顧客との信頼関係を重視するのか。それとも短期的な収益を優先するのか。その選択が問われている。

個人としての防衛策

「複雑さ」の中に隠された手数料

 金融の世界には普遍的な法則がある。「金融機関がわざわざ複雑な仕組みを作って一般向けに販売する商品には、その複雑さの中に金融機関の取り分(高マージン)が埋め込まれている」というものだ。

 仕組み債しかり、通貨選択型投資信託しかり、そして仕組み預金しかり。商品を「理解できない」と感じた時点で、それはシグナルだ。

「一般の個人投資家にとって最も重要なのは、仕組みが理解できる商品を選ぶことです。理解できない商品は、自分に適しているかどうかも判断できません。資産形成の基本は、透明性の高い商品を長期的に活用することです」(同)

金利上昇局面における、より合理的な選択肢

 利上げ局面で資産を守り・育てるための原則はシンプルだ。

個人向け国債(変動10年型):半年ごとに適用金利が市場金利に連動して見直される。元本保証、流動性も1年経過後は担保されており、透明性も高い。金利上昇の恩恵を直接受けられる。

新NISA(積立投資枠・成長投資枠):中身のわかるインデックスファンドを通じて、長期・分散・積立の原則を守った資産形成。手数料が低く透明性も高い。

ネット銀行の普通・定期預金:仕組み預金と同等か、それ以上の金利を提供する商品が増えている。拘束条件なく、解約自由なため流動性が保たれる。

親・家族へ「今すぐ確認」を

 特に注意が必要なのは、退職金を受け取ったばかりの親世代だ。地銀の窓口では、退職金の相談に来た顧客に対して「今だけキャンペーン金利」として仕組み預金を勧める手法が横行してきた。

「高金利だから安心」「預金だから元本は大丈夫」——この2点セットの説明で契約してしまった親が全国に多数いる可能性がある。今すぐ通帳・契約書を確認し、「仕組み預金」「プレーオフ預金」「ステップアップ定期」などの名称があれば、中途解約条件を必ず確認してほしい。

 仕組み預金問題の本質は、個別の商品リスクにとどまらない。「複雑な金融商品を、その複雑さを正確に伝えずに販売することで収益を得る」という銀行のビジネスモデルそのものへの問いかけだ。

 金融庁が今回打ち出した監督指針の改正は、その問いへの制度的な回答の一つである。しかし制度が整うまでの間、個人が自分自身を守る知識を持つことの重要性は変わらない。「高金利には必ず理由がある」——この一点を出発点に、すべての金融商品を疑う目で見ることが、これからの資産防衛の基本姿勢となる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト)

公開:2026.06.10 06:00