「グーグル終焉」説一転、純利益18兆円…検索広告を捨てずに脱皮したアルファベット

●この記事のポイント
米アルファベットの2026年4〜6月期決算は純利益18兆円で前年比4倍。検索広告632億ドルを維持しつつ、グーグルクラウドが82%増収、スペースX上場に伴う含み益が寄与した。本業堅守と長期投資の両立から、日本企業のCVC戦略や新規事業のあり方への示唆を考察する。
「ChatGPTやPerplexityが台頭して、もうグーグル検索なんて使わないのでは」——ここ数年、ビジネスの現場でそんな声を耳にした人は少なくないだろう。生成AIが検索行動そのものを代替し始めたことで、「検索広告に依存するグーグルは終わりの始まりにある」という論調は、投資家やメディアの間でたびたび語られてきた。
ところが蓋を開けてみると、状況はまるで逆だった。グーグル持ち株会社の米アルファベットが7月22日に発表した2026年4〜6月期決算は、純利益が1121億700万ドル(約18兆2900億円)と前年同期比で約4倍(298%増)に達し、四半期ベースで過去最高を更新した。売上高も前年同期比24%増の1197億9600万ドル(約19兆5400億円)と、こちらも過去最高だ。
なぜ生成AIの荒波の中で、アルファベットは沈むどころか過去最強レベルの決算をたたき出せたのか。本稿では、その背景にある「2つの脱皮」を読み解きながら、日本企業が学べる示唆を考えていく。
●目次
- 検索広告は「守りきった」、そのうえで積み上がった巨大利益
- なぜ日本の大企業は「同じ真似」ができないのか
- 日本のビジネスパーソンへの3つのリアルな影響
- 「今の稼ぎ頭」があるうちに、次の10年に種をまけているか
検索広告は「守りきった」、そのうえで積み上がった巨大利益
まず押さえておきたいのは、生成AIの台頭によって検索広告事業が崩壊したわけではないという点だ。今回の決算では、検索広告収入は632億ドルとなり、市場予想をわずかに下回ったものの、前年から大きく落ち込んだわけではない。むしろグーグルは自社の検索結果にAIによる要約機能(AI Overviews)や広告商品(Performance Max、AI Maxなど)を組み込むことで、生成AI時代に適応した形で広告事業を維持している。
つまり「検索広告というエンジン」を捨てたわけではなく、その上に新しい収益の柱を重ね塗りしたことが、純利益18兆円という結果につながった。ここに、日本企業が見落としがちな重要な視点がある。本業を否定せず、本業が生み出すキャッシュを使って新しい事業の芽を育てる——アルファベットが体現しているのは、この極めてシンプルだが実行の難しい経営の型だ。
脱皮① 赤字の金食い虫から「AI収益の主軸」へ育ったグーグルクラウド
決算内容を仔細に見ると、伸びの主役は検索ではなくクラウド事業であることがわかる。グーグルクラウドの売上高は前年同期比82%増の247億7000万ドルに達し、企業の生成AI基盤(インフラ)需要を大きく取り込んだ。かつて赤字体質を長く引きずっていたクラウド事業が、いまや会社全体の成長を牽引する主力事業へと変貌している。
これは単なる「サーバーの貸し出し業」の拡大ではない。生成AIブームの中で、企業や開発者がAIモデルを動かすための計算基盤そのものを提供する立場を確保したことを意味する。検索という「BtoC」の会社から、クラウドという「BtoB」の会社へと二刀流を確立したことが、AI時代における収益の分散とレジリエンス(強靭性)を生んでいる。
なお、この成長の裏側でデータセンターへの設備投資も膨らんでおり、2026年の設備投資額は倍増の449億ドル規模に達する見通しが示された。決算発表後にアルファベット株が時間外取引で下落した背景には、この投資回収に対する市場の警戒感があったとみられる。急成長と先行投資の綱引きは、AIインフラ競争の渦中にある企業に共通する構図だ。
「クラウド事業の82%という成長率は、単なる需要の取り込みだけでなく、アンソロピックなど生成AI企業への出資を通じて自社インフラの”バイヤー”を囲い込んでいる効果も大きい。検索とクラウドの二本柱化は、広告市況の変動に対する保険としても機能している」(国内証券会社 テクノロジーセクター担当アナリスト)
脱皮② 11年前の900万ドルが数兆円規模に…スペースX投資という「隠れた含み益」
もう一つの脱皮は、投資先企業の株式評価益だ。今回の純利益を押し上げた最大の要因は、保有株式の評価益を中心とする投資利益で、その規模は990億3100万ドルにのぼる。この評価益が税引き後ベースで純利益を771億ドル押し上げたとみられ、前年同期の評価益がわずか12億9000万ドルだったことと比べると、その膨らみ方は突出している。
この評価益の中心にあるのが、宇宙開発企業スペースXへの出資だ。アルファベットは2015年、スペースXに約9億ドルを投資したとされる。その後スペースXは非上場のまま企業価値を拡大させ続け、2026年6月についにIPO(新規株式公開)を果たした。米当局への開示資料によれば、アルファベット傘下のグーグルは2025年末時点でスペースX株式の6.11%を保有していたとされ(その後のxAIとの合併により持ち分は5%前後に希薄化したとの見方もある)、IPO時の評価額(2兆ドル規模)を踏まえると、その持ち分価値は日本円換算で10兆円を優に超える水準に達していたと試算されている。
つまりアルファベットは、11年前にリスクを取って投じた出資額を、非上場のまま静かに育て続け、上場という「出口」のタイミングで一気に会計上の利益として顕在化させたことになる。なお上場後のスペースX株価は変動しており、含み益の規模は今後の株価動向次第で増減する点には留意が必要だ。
「スペースXへの出資は、グーグルの衛星通信事業(スターリンクと競合する分野)との緊張関係も指摘されてきたが、結果として財務面では”最大の外部投資家”としての地位が莫大なリターンを生んだ。事業シナジーだけでなく、純粋な財務リターンを狙う視点も、テック企業の投資判断には必要だという好例だ」(スタートアップ投資に詳しい金融アナリストの川﨑一幸氏)
こうして見ると、アルファベットはもはや「検索会社」という枠には収まらない。自社の技術と、有望な未上場テック企業を長期で育てる、いわば超巨大なメガファンドとしての性格を強めている。
なぜ日本の大企業は「同じ真似」ができないのか
ここまでの構図を踏まえると、多くの日本企業が抱える課題が浮かび上がってくる。それは「時間軸」と「投資判断の基準」の違いだ。
日本企業も企業内投資(CVC:コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を通じて新規事業の種を探す取り組みは行っている。しかし実務の現場でよく指摘されるのが、次のような傾向だ。
出資判断の基準が「本業とのシナジー(相乗効果)」に偏りがちで、本業と直接関係の薄い事業には投資判断がおりにくい
本業の業績が悪化すると、真っ先に新規事業やCVCの予算が削減され、撤退の判断が下される
単年度・数年単位の投資回収を前提とするため、投資規模が小粒にとどまりやすい
一方でアルファベットは、検索広告という圧倒的なキャッシュフローを背景に、クラウドやスペースXのような「未来の巨大市場」に対して、10年単位の時間軸で投資を継続してきた。2015年の出資から2026年の上場まで、実に11年である。この間、事業シナジーが目に見える形で語られることはほとんどなく、あくまで財務的なリターンを狙った長期保有だった点も特徴的だ。
もちろん、アルファベットが特別に恵まれた資金力を持つ巨大テック企業である点は割り引いて考える必要がある。すべての企業が同じスケールで真似できるわけではない。しかし、「本業の利益を、時間をかけて次の柱に再投資する」という発想そのものは、企業規模を問わず参考にできる経営の型だろう。
日本のビジネスパーソンへの3つのリアルな影響
このニュースは、遠い海の向こうの話ではない。日本のビジネスパーソンにも、次の3つの形で影響が及ぶと考えられる。
1. ビジネスの現場:IT予算は結局「インフラ代」としてグーグルへ
検索を使う機会が減ったとしても、企業が導入する生成AIサービスや社内システムの多くはGoogle Cloudをはじめとするクラウド基盤の上で動いている。日本企業のIT投資・AI投資の予算は、意識せずともグーグルのようなクラウド事業者へと流れ込む構造が強まっている。自社のAI活用を検討する際は、どの基盤の上にコストが積み上がっているのかを意識する視点が欠かせない。
2. 株式・資産運用:宇宙関連・防衛関連への波及
スペースXの上場と、それに伴う宇宙産業への資金流入・実用化の加速は、日本の宇宙関連スタートアップや、通信・素材・防衛関連の大手製造業にとっても事業機会の拡大につながりうる。宇宙セクターは技術的な不確実性も大きい分野であり、投資判断にあたっては業績や事業計画を個別に見極める必要がある点には注意したい。
3. キャリアの視点:「1社・1事業に閉じこもるスキル」の賞味期限
自社の本業だけに知見を閉じ込めるのではなく、「自社の強み(キャッシュフローやデータ、顧客基盤)」と「外部の成長領域」を掛け合わせて構想できる人材の価値は、今後さらに高まっていくと考えられる。事業開発や新規事業担当者にとっては、社内の資源をどう外部の成長機会に接続するかという「プロデュース力」が問われる時代になっている。
「今の稼ぎ頭」があるうちに、次の10年に種をまけているか
アルファベットの決算が示したのは、「本業を否定して脱皮する」のではなく、「本業を守り育てながら、その利益で次の柱を静かに時間をかけて育てる」という経営のあり方だ。生成AIによって既存事業が脅かされるという不安の中でも、本業のキャッシュフローそのものが次の成長投資の原資になり得ることを、この決算は具体的な数字で証明して見せた。
個人にとっても企業にとっても、問われているのは同じことだろう。「今の稼ぎ頭」で稼げているうちに、次の10年を支えるインフラや専門性への投資に着手できているか。本業の利益やスキルがあるうちに、隣接領域へと自分自身、あるいは自社を拡張していくこと——それこそが、変化の速いAI時代を生き抜くための、地味だが最も確実な戦略なのかもしれない。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト)











