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テスラ・BYD・グーグルがサムスンに殺到…TSMC「キャパオーバー」で半導体に地殻変動

2026.06.24 06:00 2026.06.23 22:59 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/経済コンサルタント

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●この記事のポイント
TSMCの先端プロセス(2nm・3nm)が2028年まで完全予約済みとなる中、テスラ(AI6チップ、165億ドル契約)・BYD(自動運転チップ)・グーグル(TPU・Axion)がサムスンのファウンドリに相次ぎ接触。サムスンの2nm歩留まりは60%超に改善、2026年Q3の黒字転換が視野に入る。

 先端半導体の製造能力は2028年まで完全予約済み。追い詰められた世界のテック大手が、苦境からの脱出を図るサムスンに熱い視線を送っている。

 2026年6月、半導体業界に大きな地殻変動が報じられた。Nikkei Asiaの報道によると、グーグル、AMD、BYD、テスラといった世界的な大手企業が、相次いでサムスン電子のファウンドリ(半導体受託製造)事業との協業を本格化させているという。

 その背景には、台湾積体電路製造(TSMC)が引き起こした、かつてないスケールの「製造能力の限界」がある。

 TSMCの先端プロセス(3nm・2nmクラス)は、エヌビディアのAI GPU、アップルのiPhone・Macチップ、ブロードコムのデータセンター向け半導体といった超大口顧客の受注で、2028年まで事実上フル稼働の状態だ。ブロードコムの幹部が「TSMCの生産能力は限界に近い」と公式の場で認めたほど、逼迫感は臨界点に達しつつある。

 TSMC自身も手をこまねいているわけではない。2026年末までに3nm・2nmウエハーの生産量を最大20%増やす計画を進め、TSMC会長のC.C.ウェイ氏も「今年は全力で稼働する」と発言している。それでも供給不足は2027年以降も続くと同氏は認める。価格面でも、2nm製造コストは1枚あたり約3万ドル超と3nm比で5割以上高く、2029年まで毎年3〜5%の値上げが続くとされる。

「お金があってもTSMCには割り込めない」という現実が、世界の大手テック企業を次の選択肢へと動かしている。

●目次

「走るスマホ」から「走るAI」へ EVメーカーが焦る理由

 特に注目されるのが、電気自動車(EV)メーカーの動きだ。かつてEVの競争力の源泉はバッテリーとモーターにあったが、今日の戦場は自動運転AIの処理能力に移った。高度な自動運転を実現するには、スマートフォンのフラッグシップ機と同等か、それ以上の先端半導体が必要になる。

 テスラはすでに、次世代FSD(完全自動運転)チップ「AI5」をTSMCとサムスンの両社で製造する体制を敷いた。さらにその先の「AI6」については、サムスンのテキサス州テイラー工場での製造が確定しており、契約規模は165億ドル(約2.4兆円)に上ると報じられている。イーロン・マスク氏がSNS上でサムスンへの謝意を公開したことで、この契約が広く知られるところとなった。

 EVで世界販売首位を争うBYDも同様だ。自社開発の自動運転チップ「璇璣(Xuanji)A3」シリーズの4nm版と、次世代2nm GAA(ゲート・オール・アラウンド)版の製造について、サムスンと交渉を進めていると報道されている。

 EV大手がサムスンに接近する背景には、もう一つの構造的な問題がある。TSMCが優先するのは、エヌビディアやアップルのような「大量・高頻度」の発注先だ。自動車向けチップは需要量がスマートフォンやAIアクセラレータほど大きくなく、どれだけ資金力があってもTSMCの生産スケジュールで後回しになりやすい現実がある。

「半導体産業では、製造能力の優先順位が製品開発の速度を直接左右する。自動車メーカーが先端ファウンドリを確保できないリスクは、競合他社との自動運転性能差に直結する」(半導体アナリスト・経済コンサルタントの岩井裕介氏)

グーグルも動いた 「TSMC一本足」脱却の号砲

 EV業界だけでなく、ビッグテックにも動揺が広がっている。

 グーグルは自社設計のAIチップ「TPU(テンソル処理ユニット)」の一部と、データセンター向けArmプロセッサ「Axion」の次世代版(2028年リリース予定)について、サムスンでの製造を検討中と報じられている。もし実現すれば、グーグルがTPU製造をTSMC以外に委託する史上初のケースとなる。

 AMDも、将来のサーバー向けCPU「EPYC(エピック)」の一部を2028年以降サムスンの2nmプロセスで製造する方向で交渉が進んでいるとされる。

 これらの動きに共通するのは「マルチファウンドリ戦略」、すなわちTSMCへの依存を分散させるというアプローチだ。地政学リスク、具体的には台湾海峡の緊張が高まる中で、サプライチェーンの多元化は単なる価格交渉のカードではなく、事業継続計画(BCP)の観点から不可欠な経営判断となっている。

「クアルコムはTSMCとサムスンの両方を長年活用してきた先例だ。グーグルや他社が同様のアプローチを採ることは、業界のリスク分散という観点で合理的な選択だ」(同)

「棚ぼた」だけではない サムスン自身の変化

 サムスンのファウンドリ部門は過去4年にわたって赤字が続いてきた。スマートフォン大手のクアルコムが「歩留まり(良品率)の悪さ」を理由にサムスンを離れてTSMCに鞍替えするなど、信頼失墜の歴史を経てきた経緯がある。

 だが、足元では状況が変わりつつある。

 2nm GAA(ゲート・オール・アラウンド)プロセスにおける歩留まりは、2025年第3四半期の30%台から、2026年第1四半期時点で60%超にまで改善した。一般的に量産経済が成立するとされる70%水準には届いていないものの、その手前まで迫った。テイラー工場の建設進捗は2025年末時点で93.6%完了とされ、2026年7月をめどに本格稼働が視野に入る。

 これらの前進を受けて、ファウンドリ部門は2026年第3四半期に黒字転換できるとの内部見通しを立てており、当初目標より前倒しでの達成を目指している。2nmに関連する受注量も前年比130%増を見込む。

 ただし、TSMCとの差は依然大きい。2026年第2四半期時点でのグローバルファウンドリ市場シェアは、TSMCが70.2%に対し、サムスンは7.3%にとどまる。TSMCの2nmにおける歩留まりは80〜90%ともいわれており、サムスンとのギャップは容易には縮まらない。

「歩留まりの差は製品コストと信頼性に直接跳ね返る。現時点では、サムスンはTSMCの代替というよりも補完的な位置づけが現実的だ」(同)

「千載一遇のチャンス」をモノにできるか

 今回のサムスンへの打診ラッシュは、サムスンの技術力がTSMCに追いついたことを意味するわけではない。主たる原因は、TSMCのキャパオーバーという「外部要因」だ。

 しかし、チャンスの性質がどうあれ、それを活かせるかどうかは実力次第だ。サムスンがテスラやグーグルの量産チップを高い歩留まりと安定した納期で提供できれば、失った信頼を回復し、マルチファウンドリ時代の「第2の選択肢」として確固たる地位を築ける。逆に、品質問題や納期の遅延が発生すれば、「やはりTSMCでなければ」という業界評価を強化するだけに終わりかねない。

 鍵を握るのは、2026年後半に本格稼働するテキサス州テイラー工場と、2nm GAAプロセスの量産安定化だ。米国内での製造能力という点では、地政学・輸出規制リスクを気にする米国大手企業にとって、テイラー工場は魅力的な受け皿になりうる。

 先端半導体の覇権争いは、TSMCの独走から「TSMC+サムスン」という複数極構造への移行期に入りつつあるのかもしれない。AI・EVという二大産業の交差点で起きているこのファウンドリ争奪戦の行方は、世界のテクノロジー産業の将来図を大きく左右する。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/経済コンサルタント)

公開:2026.06.24 06:00