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東電、経常利益89%減の衝撃…原発再稼働470億円効果はなぜ相殺されたのか

2026.08.06 06:00 2026.08.05 18:01 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家
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柏崎刈羽原子力発電所(公式サイトより)

●この記事のポイント
東京電力の2026年4〜6月期は柏崎刈羽6号機再稼働(470億円の増益効果)にもかかわらず経常利益89%減の114億円に。安全対策費1兆円超、電力自由化による顧客流出、福島デブリ取り出し費用9138億円の特別損失など、構造的要因を決算データで分析する。

 東京電力ホールディングス(HD)が2026年7月29日に発表した2026年4〜6月期の連結決算は、経常利益が前年同期比89%減の114億円にとどまった。4月に営業運転を再開した柏崎刈羽原子力発電所6号機(新潟県)が470億円の増益効果をもたらしたにもかかわらず、である。純損益は97億円の赤字(前年同期は特別損失計上により8576億円の赤字)と、赤字幅そのものは大きく縮小したが、「原発が再稼働すれば東電の経営は上向く」という長年語られてきたシナリオが、単純には成立していない実態が改めて浮き�彫りになった。

 なぜ、看板の原発が動いても業績は力強く回復しないのか。決算データと公的統計をもとに、その構造的な背景を整理する。

●目次

原発再稼働効果は「焼け石に水」

 東電HDによれば、柏崎刈羽6号機の再稼働による収支改善効果は約470億円にのぼった。これは単体で見れば決して小さい数字ではない。しかし電力販売量の減少と燃料価格の高騰がこれを相殺し、経常利益は前年同期の約9分の1にまで落ち込んだ。

 一方、2025年度(2025年4月〜2026年3月)通期の決算を見ると、経常利益は前期比64.0%増の4173億円と、実は大きく改善していた。売上高は電力販売量の減少により前期比7.1%減の6兆3285億円にとどまったが、燃料費調整制度の「期ずれ差益」が好転したことなどが寄与した。

 問題は最終損益だ。通期の親会社株主に帰属する当期純損益は4542億円の赤字(前期は1612億円の黒字)となった。これは、福島第一原子力発電所の燃料デブリ取り出しなどに関連する「災害特別損失」9138億円と、原子力損害賠償費827億円という特別損失が、本業の改善分を大きく上回ったためである。裏を返せば、東電の収益構造は「本業(経常損益)は緩やかに改善しつつあるが、福島対応という別次元の巨額コストが最終利益を継続的に押し下げる」という二層構造になっている。原発再稼働による増益効果は、この構造そのものを解消する規模には到底至っていない。

「原発が動けば儲かる」時代は終わった?

 かつて原発再稼働は、東電にとって「1基あたり年間数百億〜900億円規模の収支改善」をもたらす切り札とされてきた。しかし、その前提となる安全対策コストが震災後に大きく膨らんだことが、収益構造を根本から変えている。

 柏崎刈羽原発の安全対策費は、2013年時点では約700億円と見積もられていたが、新規制基準への対応が進むにつれて2016年には約6800億円、2019年に判明した金額では約1兆1690億円へと、当初計画の約17倍に膨張した。航空機テロなどに備える「特定重大事故等対処施設」の建設費や、敷地内の液状化・火災対策の強化が主な要因である。これらの投資は減価償却費や維持管理費として今後も長期にわたり固定費化し、再稼働による燃料費削減効果(火力発電の代替効果)の一部を確実に押し下げる。

 さらに東電の場合、福島第一原発の廃炉・賠償という他の電力会社にはない特殊要因が重なる。燃料デブリの取り出しは「過去に前例のない取り組み」(東電の開示資料)であり、費用の見積もり自体が不確実性を伴う。2025年度に計上された9138億円の特別損失も、その見積もり困難性ゆえに変動しうる性質のものだ。原発が生み出す利益と、原発事故が生み出すコストが同じ会社の中でせめぎ合っている――これが東電の収益がなかなか安定しない最大の理由である。

「電力会社にとって原発の再稼働は本来、燃料費削減による収益改善効果が大きい打ち手です。しかし東電の場合、安全対策コストの膨張と福島対応費用という二つの重しが同時に乗っているのです。他の原発を持つ電力会社と単純比較できない特殊な収益構造になっている点は、投資家も冷静に見ておく必要があるでしょう」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)

電力自由化が変えた顧客基盤

 収益力を左右するもう一つの構造要因が、2016年の電力小売全面自由化以降に進んだ顧客基盤の変化である。

 資源エネルギー庁や日本経済新聞の報道によれば、2025年7月時点で新電力を含む電力小売事業者は773社・団体にのぼり、新電力の全国販売電力量シェアはおおむね2割程度で推移している。このシェアは2021年8月に22.6%まで拡大した後、2022年のロシアによるウクライナ侵攻に伴う燃料価格高騰を受けて新電力各社の採算が悪化し、一時縮小に転じた。帝国データバンクの調査では、2024年3月時点で新電力706社のうち32社が倒産・廃業、87社が事業撤退、69社が契約停止に追い込まれたと報告されている。その後、2024〜2025年にかけてシェアは底打ちし、緩やかな回復基調にあるとされる。

 この変動が示すのは、電力小売市場が単純な「大手電力優位」にも「新電力優位」にも収斂しない、流動的な競争構造になっているという事実だ。都市ガス大手や通信大手など異業種からの参入も相次ぎ、セット割引などで顧客を囲い込む動きが常態化している。一度他社のセット割プランに移行した需要家を、電気料金の単純比較だけで東電エリアに呼び戻すことは容易ではない。加えて東電は、賠償・廃炉費用を事業の中で確保する必要があるため、価格競争において収益を犠牲にした値下げ攻勢を仕掛けにくい立場にある。原発再稼働によるコスト改善が需要家に還元されたとしても、それが直接的な顧客奪還につながるかどうかは別問題である。

業績低迷が突きつける現実

 ここで注目すべきは、東電を取り巻く提携戦略の現状だ。東電は2026年1月26日、筆頭株主である原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠機構)と共同で新たな再建計画(第5次総合特別事業計画)を策定し、外部資本の受け入れを含む提携戦略を経営再建の柱に据えた。小早川智明社長は同月、エネルギー業界内の「水平」提携に限らず、電機や通信など電力需要家を含む「垂直」提携も視野に入れる考えを示している。

 この方針を受けて2026年2月から3月末まで実施された提携先の公募には、ソフトバンクグループ、東京ガス、米ブラックストーン・グループ、米KKR、米ベインキャピタル、日本産業パートナーズ(JIP)、産業革新投資機構(JIC)など、国内外の数十社が応募したと報じられている。データセンター向けの電力需要拡大を見据えた成長投資(JERAを含め10年で11兆円規模)の原資確保が狙いであり、6月時点では複数陣営との協議が本格化しているとされる。

 つまり、事実関係としては「他社が提携そのものを躊躇している」わけではない。むしろ関心を示す企業は多い。焦点は交渉のテーブルに着くかどうかではなく、「どのような条件で、どの程度の規模の資本を、どの事業に受け入れるか」という条件闘争の段階に移っている。そしてここで効いてくるのが、まさに本業の収益力の弱さである。日本経済新聞は2026年7月29日付の報道で、電力販売の苦戦が続く状況が資本提携戦略にとって「逆風」になりうると指摘している。出資を検討する企業や投資ファンドにとって、本業の収益基盤が不安定な相手への出資は、当然ながら評価額や出資条件の厳格化につながりやすい。原発再稼働による増益効果が確認できなければ、東電が望む形でのバリュエーション(企業価値評価)を提携先に認めさせることは難しくなる。

「出資を検討する側から見れば、原発が動いているかどうかだけでなく、動いた後にどれだけ安定的にキャッシュを生み出せるかが評価の核心になる。足元のように電力販売量の減少や燃料高が経常利益を大きく振らす状況が続けば、出資条件の交渉は東電にとって厳しいものにならざるを得ない」(同)

原発再稼働は「必要条件」であって「十分条件」ではない

 以上を整理すると、東電の収益改善が原発再稼働だけでは実現しない理由は、大きく三つに整理できる。第一に、安全対策費の膨張により、再稼働そのものが生み出す収益改善効果が過去の想定より目減りしていること。第二に、電力自由化によって流出した顧客基盤の回復には、単純な発電コスト改善以上の営業努力とコストが必要であること。第三に、福島第一原発の廃炉・賠償という特殊要因が、通期の最終損益を継続的に圧迫し、資本提携交渉における東電の評価を難しくしていることである。

 もっとも、これは東電が置かれた状況の「行き詰まり」を意味するものではない。むしろ、複数の投資ファンドや異業種企業が提携協議のテーブルに着いている事実は、東電の成長投資(再生可能エネルギー、送配電網、データセンター向け電力供給など)に対する期待値の高さを示してもいる。今後の焦点は、柏崎刈羽の7号機を含めた原発の稼働状況がどこまで安定するかに加え、廃炉・賠償という制度的な重荷を、国の支援フレームワークの中でどう整理し、資本提携の条件交渉にどう反映させていくかにある。原発再稼働は東電再建にとって欠かせない要素ではあるが、それだけで業績のV字回復が約束されるわけではない、という構造を、今回の決算は改めて示したといえるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)

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公開:2026.08.06 06:00