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電力会社8社が過去最高益、「儲けすぎ」批判は適切か…電気料金値下げの可能性は

文=清談社、協力=森永康平/経済アナリスト
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高騰する電気代のイメージ
「Getty Images」より

 東京電力ホールディングスをはじめとした大手電力会社が2023年4~6月期の決算で、9社合わせて1兆円を超える大幅な黒字となったことを発表した。同時期に家庭向けの電気料金は値上げされており、その増収分が莫大な利益に寄与していることは明白だ。

 この“儲けすぎ”な事態に対して消費者からは批判的な声が集まっているが、客観的にみて、今回の電気料金値上げは適正だったのだろうか。

電力会社は“儲けすぎ”なのか

 記録的な猛暑となった今夏。エアコンに頼りたいが、値上げされた電気料金が気になって設定温度を高めにしているという家庭も多いだろう。

 そんななか、大手電力会社10社が4~6月期の決算を発表。沖縄電力を除く9社が黒字を確保し、合わせて1兆円を超える莫大な利益を計上。このうち東京電力ホールディングスを除く8社は、同期間において過去最高の黒字となったという。

 折しも、4月から6月にかけて家庭向け電気料金は値上げされており、消費者からは「儲けすぎではないか」「それだけ黒字なら、すぐにでも値下げするべきだ」との批判的な声があがっている。

 電力会社は公共的な事業。それだけに黒字分は速やかに消費者に還元すべき、と考えてしまうが「電気料金とは、そう簡単に変えられるものではないんです」と、経済アナリストの森永康平氏は指摘する。

「電気料金の値上げ額というのは、電力会社だけで決められないんです。経済産業省が設置した『電力・ガス取引監視等委員会』という審査会があり、そこで電力会社の値上げ申請に対する審査を行い、経済産業大臣の認可を受けて初めて値上げすることが可能なんです」(森永氏)

 現在の日本の発電は、原子力発電所の稼働停止などもあり、火力発電に対する比重が高まっている。その燃料となる原油や石炭、液化天然ガス(LNG)などが、ロシア・ウクライナ紛争などの影響で世界的に高騰。さらに円安も重なって燃料調達コストが膨れ上がり、電力各社は前期決算で4000億円を超える深刻な赤字に陥っていた。

 その損失を補填するために、各社が電気料金の値上げを申請していたという流れがある。

「大手電力7社は2022年11月から2023年1月にかけて、一度4月以降の値上げ申請をかけたんですけど、値上げ幅が大きすぎるということで経産省の審査が通らず、再計算されたという経緯があります。その後、適正な値上げ額で承認されましたが、この時はエネルギー価格がもっとも高い状況で計算されていました。その後、4~6月にかけて燃料調達コストが下がり、円安も落ち着いた影響などがあって、その差額が大幅な黒字になったというわけです」(同)

 では、すぐにでも電気料金を値下げしてほしいところだが、現実的には難しいという。

「短期的には、値下げという可能性は低いと思います。電力燃料費調整制度は、直近3カ月で平均した貿易統計価格や平均燃料価格を基に決めていくんですが、ロシアやサウジアラビアなどの産油国は原油の減産をずっと続けていますし、燃料調達費用はそこまで下がってこないと思われるので、現状の電気料金でも黒字を保つのは難しいかもしれません。ただ、為替が大幅に円高方向に動いたりすれば話は変わってくると思います」(同)

 燃料調達費だけでなく、電力を安定供給するコスト自体も増加傾向にある。

「電力会社はインフラ企業として、設備投資やメンテナンスなどにも常に莫大なコストがかかっています。全面的な物価高により、こういったコストも上昇している。このような流れでは値下げどころか、さらなる値上げもあり得るかもしれません」(同)

 政府が電気・ガス料金の一部を補助する「激変緩和措置」も9月末までとなっており、10月からは消費者にとってさらなる負担増になることが確実視されている。そのため岸田文雄首相は、補助の継続を検討すると発表した。

 しかし、短期的な電気料金の値動きで一喜一憂していても、あまり意味がないと森永氏は指摘する。

「『電力会社は儲けすぎでけしからん』という議論は、建設的ではないと思います。大手電力会社の多くは上場している民間企業なのですから、利潤を追求することはなんら悪いことではありません。とはいえ、生活インフラを支えている企業がそれでいいのかという意見もあります。さらにいえば、上場する必要があるのかどうか。上場するということは、外資が入ってきてインフラが海外資本に握られてしまう可能性もあるし、粗利を人件費や設備投資にまわさずに配当にまわすよう求められるかもしれないこのあたりの議論を、もう一度しっかりしたほうがいいと僕は思います」(同)

 さらに日本の電気料金の高騰に関しては、重要なファクターがある。

「原発の再稼働問題ですね。電気料金だけをみれば、原発を稼働させたほうがコストは下がるので、値下げも現実化してきます。ただ、原発というのは、そういった損得を超えた部分での問題や、反対派の声もすごく大きい。日本は発電方式に関して火力、水力、原子力、そして再生産エネルギーも含めたベストミックスを推進しています。現在の電気料金高騰をきっかけに、原発再稼働についても現実論で考えていくべきではないでしょうか」(同)

 電気料金が値上げされ、その利益で電力会社が大幅黒字、という単純に思える図式にも、日本のエネルギー政策のひずみや、さまざまな産業の影響が絡みあっている。消費者も、電気料金の請求書を吟味しつつ、より大きな視点で考えていく必要がありそうだ。

(文=清談社、協力=森永康平/経済アナリスト)

森永康平/経済アナリスト

森永康平/経済アナリスト

証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。
​​その後2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、AIベンチャーのCFOも兼任するなど、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。
日本証券アナリスト協会検定会員。経済産業省「物価高における流通業のあり方検討会」委員。

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