フリマアプリ「メルカリ」で88万円の商品を売り、購入者による「受取評価」も完了して取引完了になった後、1週間ほど経過したタイミングで購入者から「偽物であるため返品したい」という連絡が寄せられ、偽物であると主張する根拠が示されないため拒否。するとメルカリ事務局から連絡があり、返品要求に応じて代金を返金するよう求められ、偽物であると主張する根拠を確認するため購入者と話し合いを続ける意向を伝えたが、売上金を事務局によって「お預かり」された上に強制的に返品・返金処理を進められ、購入者から返品されないままメルカリから強制退会させられた――。こんな体験の報告がX上にポストされ、注目されている。現在、メルカリにおける返品詐欺が相次いでおり、メルカリ運営元が購入者の主張を鵜呑みにして定型的な対応を繰り返すことによって出品者が商品を取り戻せなくというケースが続出している。このX投稿者は強制退会させられたため売上を回収することができず“メルカリに売上を没収された”と訴えているが、なぜ、このような事態が起こるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
フリマアプリという市場を大きく成長させたメルカリは昨年でサービス開始から10周年を迎え、月間利用者数は2200万人以上、1秒間に売れる個数は7.9個におよび(2023年6月発表時点)、今や社会インフラのひとつといっても過言ではない。メインの利用者は若者層と思われがちだが、利用者の23%が50代以上となっており(22年時点)、幅広い年代層にとって身近な存在となっている。
「事務局自らがルールを破っている」
そんなメルカリで前述のようなトラブルが起きている。メルカリにおける売買取引では、出品者は購入者による支払い完了を確認したら商品を発送し、購入者は商品を受け取り後に「受取評価」を行う。 この時点で購入者が「商品に瑕疵がある」「商品説明と実際の商品が明らかに異なる」「梱包の不備により配送時に商品が破損した」といった点を確認した場合は、「受取評価」を行わずに返品して返金を受けることが可能。購入者が商品に問題がないことを確認して「受取評価」を行った後に出品者が「取引評価」を行うと、取引が完了となり、この時点で販売利益が出品者の残高に反映される。なお、取引完了後は取引キャンセルはできない。
では、なぜ今回のような問題が発生しているのか。中堅IT企業役員はいう。
「まず、メルカリの利用ルールとして取引完了後は取引キャンセルができないと定められており、加えて購入者側は偽物であるという主張の明確な根拠を提示していないということなので、今回の事務局の対応は事務局自らがルールを破っていることになります。また、規約では『出品者及び購入者の間で商品等に関してトラブルが発生した場合は当該ユーザー間で解決するものとします』と定めており、これに則るのであれば、事務局としては介入しないという判断でもよかったと考えられます。このほか、この出品者が公表しているメルカリ事務局からのメッセージによれば、事務局は出品者に対して『返品のご対応を行っていただきますようお願いいたします』『本通知から【168時間以内】にご対応いただけない場合、お預かりしております残高(売上金含む)については、購入者へ返金となります』と通知していますが、これでは出品者に商品が返品されないまま売上金だけが購入者に返金される可能性があり、実際にこの出品者は商品を取り戻すことができずに購入者に盗まれた状態に陥った上に、強制退会させられたために売上金も失っています。
メルカリ運営元は、故障したものや出品ページの写真と異なる商品を送りつけるといった悪意のある出品者を取り締まろうという意識は強いですが、購入者の側が返品という手続きを使って詐欺的行為をはたらくというケースをあまり想定していないため、返品詐欺の多発と、それに対する運営元の対応のまずさが目立つ結果になっているようにみえます」
相次ぐ返品詐欺
ここ最近、メルカリで返品の悪用によるトラブルが相次いでいる。当サイトが実際に被害にあった人へ取材したところ、以下のような事例が起きている。
・新品未開封のプラモデルをメルカリに出品して購入者に商品を発送したところ、「部品が破損しているのでキャンセルしたい」との連絡を受けた。段ボールで2重に梱包するなど注意を払って送付したので破損の可能性は低いと思いメルカリ事務局に相談したが、返品に応じるよう指示され、返品に応じたところ、購入者から別物のパーツ部分がすべて抜き取られたプラモデルが送られてきた。改めて事務局に連絡し、写真付きで被害の状況を伝え、返品は受けたくないと伝えたところ、「購入者に確認したところ、返送した品に入れ間違いはないとのことなのでサポートは終了する」という返答が寄せられ、取引を強制的にキャンセルされた。一連の流れをX(旧Twitter)上で報告したところ、ネット上で事務局への批判の声が高まり、突如「メルカリのSNS担当」から「経緯の見直しおよび補償をする」とのメッセージが届いた。さらに事務局からも「販売代金の入金および購入者へ然るべき対応を検討」する旨の連絡があった。
・iPhone14を出品して購入者に送付したところ、「初期化されておらず規約違反だ」として返品対応を要求された。事前に初期化して郵送しており、その様子を写真にも収めていたことから詐欺を疑い、メルカリ事務局に相談したが、返品要求に応じるように指示された。そこで事務局に「詐欺の可能性があるが、メルカリが補償してくれるのか」と聞いたところ、「できる限りの対応をする」との回答があったことから返品を了承した。購入者から送られてきたのは別物の書籍だったため、改めて事務局に連絡したところ、「購入者が正しくiPhoneを返送したことを確認した」としてサポートを打ち切られた。
同様の事例はSNS上でも多数報告されているが、たとえば以下のような事例だ。
・10万円のコーヒーメーカーを出品して購入者に郵送したところ、傷がついているから返品したいと要求されたが、郵送前に傷がない旨を確認していたため事務局に相談した。すると事務局から
「お客さまによる迷惑行為『商品については正確な説明を行わないこと』を確認しております」
「届いた商品が『説明や画像と異なる』場合は、取引を完了することはできません。そのため事務局といたしましても、返品・キャンセルをお受けいただきたいと考えております」
「通知から72時間経過後も、購入者に返送先住所を開示しない、または返品・キャンセルに向けた連絡がない場合は、取引をキャンセルいたします」
と、出品者のほうが迷惑行為を行っているという返答が寄せられた。結局、事務局が一方的に返品要求を認めて取引をキャンセルしたため、出品者の手元に商品は戻ってこず、盗難されたのと同じ状況になった。
(文=Business Journal編集部)