日本を代表する世界的建築家のひとりである隈研吾氏がデザインした建築物で、相次いで急速な劣化が指摘され始めている。特に問題視されているのは、公共の建物で、しかも建築から比較的短期間で木材が腐り始めていることだ。建築の専門家は、隈氏のデザインの特徴である木の使い方に、根本的な問題があるという。一方で隈氏の建築事務所は、「最適な防腐処理を施している」との見解を示している。
隈研吾氏のデザインした建築物に疑惑の目が向けられ始めたのは今年9月、栃木県の那珂川町馬頭広重美術館が激しく腐っていることが判明してからだ。同美術館は来年、開館25周年を迎えるにあたり大規模改修を行うことになったのだが、改修費用が3億円と高額になることから、一部をクラウドファンディングでまかなうという。25年も経てば、ある程度の老朽化は仕方ないように思えるが、実は開館から数年で外壁や屋根が腐り始めていたとの指摘があり、デザイン・設計を請け負った隈氏の仕事に関心が注がれた。
すると、過去に隈氏がデザインした建築物で、続々と同じような腐朽が発生していることが判明。完成から9年の京王線高尾山口駅の駅舎にカビが目立っているとの報告が上がると、高知県梼原町で隈氏がデザインした数々の建築物がことごとく劣化しているとの声が出ている。
隈氏は梼原町で、総合庁舎のほか町立図書館、まちの駅など、梼原産の杉を中心とした建築物を次々に建築。だが、それらの表面は黒ずみ、一部の木材にヒビが入るなど劣化が目立っているという。特に、隈氏が同町内で一番はじめに建てた「雲の上のホテル」本館は老朽化のために2021年に、わずか27年で取り壊された。2024年4月にリニューアルオープンを予定していたが、現時点で再開のめどは立っていない。
また、群馬県富岡市役所で、外装に使われている木材が腐り始めているとの指摘もある。同市役所は2018年に完成しており、わずか6年で腐朽していることになる。一級建築士で建築エコノミスト・森山高至氏は「ラーチ合板軒裏で無塗装とか、合板をサッシマリオンの外側にそのまま使うとか、劣化必須であり得ない処理」と隈氏のデザインをいぶかしむ。
隈研吾建築都市設計事務所「最適な防腐処理を施しています」
Business Journal編集部が隈研吾建築都市設計事務所に問い合わせたところ、「サッシマリオンに取り付けた木材は、特殊な樹脂含侵処理により防腐性能を持たせたものです。屋外用木材として 20 年以上の実績があり、短いスパンで改修が必要な材ではありません。当該部は木材の腐りではなく表面のカビが発生したものと思われ、市役所と対処について調整を行う予定でいます」と反論。腐ったのではなく、カビであると主張している。
また、2022年11月に開庁した兵庫県伊丹市役所に使用している木材ではカビや腐朽の心配はないのかとの問いには、「伊丹市役所では直接の雨がかりとなる部位に木材は使用していません」との回答。さらに、隈氏が出がけた最大の建築物である東京・国立競技場、2025年の大阪万博におけるパビリオンなど、隈氏は公共建築も多いが、それらで使用する木材についても聞いたところ、「そのほかのプロジェクトで外部に木材を用いる場合は、細心の注意を払い、その部位に最適な防腐処理を施しています」と述べ、“最適な防腐処理”を施していると説明している。
ところが、国立競技場の屋根の部位を調査した建築家が、「黒ずんで傷んでいる」と報告している。総工費約1600億円、年間維持費は24億円といわれ、毎年10億円の赤字が見込まれ、“東京オリンピックの負の遺産”とも揶揄される国立競技場だが、さらに短期間での補修工事まで必要になれば、デザインした隈氏のみならず、東京都も責任を負うべきだろう。
国立競技場の建設を担当した、大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体は公式見解として、「木材自体は50~60年は取り換えの必要はない」との想定を示し、「50年、100年後も日本の代表的なスタジアムとして存在し続ける、持続的な建物」と胸を張っている。
さらに使用している木材について、「国土交通省制定の木造計画設計設計基準に沿った防腐防蟻処理を施すことにより、長期にわたっての耐久性と安全性を確保」していると説明している。
前出の森山氏も「目線に近い、低い場所では本物の木を使用していますが、屋根のトラスでは鉄骨に木のシールを貼ったような材料を使っているので、腐ったり耐久性に問題がでるような心配はありません」として耐震性などの懸念はないとしている。だが、「本来、外で使用すべきではないスギを外に使用しているので、カビが生えたり割れたりと、見栄えが悪くなるデザインになっている」として、隈氏のデザインを疑問視する。
国立競技場は、耐久性には問題がないとしても、あと数年もしたら見すぼらしく黒ずんでいくのだろうか。
(文=Business Journal編集部、協力=森山高至/建築エコノミスト)