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サイゼリヤ、メニュー数削減に不満の声…あえて高価格帯の投入を避ける理由

文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表
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サイゼリヤ「柔らか青豆の温サラダ」

 値下げをしないと宣言しているイタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」で徐々にメニュー数が少なくなっていることに落胆の声が広まっている。ここ数年を振り返ると、「カリッとポテト」、フランスパン風の「ミニフィセル」、スパゲッティメニューの「大盛り」「おこさま」サイズ、トッピング用粉チーズ「ペコリーノ・ロマーノ」、「エビと野菜のトマトクリームリゾット」などが全店舗、もしくは一部エリアで販売終了となっている。この動きを受け、「値上げしていいからメニューを充実させてほしい」「高価格帯のメニューも投入してほしい」といった声もあがっているが、なぜサイゼリヤはそうした手段を取らないのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 国内に1055店舗、海外に485店舗(2023年8月期)を展開するサイゼリヤといえば、リーズナブルな価格でクオリティの高い料理を楽しめることで多くのファンを持つことで知られる。200円の「柔らか青豆の温サラダ」、300円の「辛味チキン」「ミラノ風ドリア」「ポップコーンシュリンプ」、400円の「ミートソースボロニア風」などお手頃な価格で味わえる人気メニューを抱えている。

「効率化」と「コスト削減」に注力

 そんなサイゼリヤだが、前述のとおり全店舗でみると徐々にメニュー数が減りつつあることを残念がる声も出ている。その一方で、低価格の既存メニューは残したまま新たに高価格帯メニューを投入すれば、値上げすることなくメニューのバリエーションが豊かになるのではないかという声もみられる。

 自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。

「値上げをしない宣言をしたということは、『効率化』と『コスト削減』の2つのキーワードに力を入れていくという宣言ともとれます。効率化とコスト削減で考えた結果のひとつがメニュー数の削減、絞り込みだったのでしょう。食材のロスにつながるような作業を減らし、オーダーの集中化による大量仕入れで食材コストをより抑え、製造段階でも効率化を図り、より少ないスタッフで店舗を運営しようと考えた結果だと思います。イタリアンのお店なので、牛丼店やラーメン店のような単一商品を扱うという形態にまではいけなくても、極限までメニューを減らす努力と、どこまで可能かテストをしている最中だと思います」

 外食チェーン関係者はいう。

「メニューの種類を増やすと、その分、仕入れる原材料の種類も増え、厨房の手間と負荷も増すため、回り回ってコスト増につながります。サイゼリヤは直近の通期決算は増収増益となっているものの、国内事業だけみると前年度こそ黒字を確保したものの赤字の年もあり、利益的には非常に厳しい状況が続いているため、コスト増につながる取り組みというのは、なかなかやりにくいでしょう。そうしたなかで利益を底上げするために、できるだけメニューの数を絞るという方向にいくのは仕方がないです。サイゼリヤはやはり圧倒的な安さという点が集客の武器となっているので、メニューの数について多少の不満が出たところで、それが原因が客数が減るということは考えにくいです。

 ちなみにサイゼリヤが『ミニフィセル』を一部エリアで終了させたのは、同じパン類の『フォッカチオ』があり、さらに販売数的に『フォッカチオ』のほうが多いため『ミニフィセル』はやめても問題ないと判断したのかもしれません。また、パスタの『大盛り』『おこさま』サイズについては、通常チェーン店ではあらかじめ一人前の単位で下調理・保管されたものを店舗の厨房で最終調理して出すので、『大盛り』や『おこさま』のサイズがあると中途半端な量の余り=ロスが生じてしまうという事情によるものかもしれません。『多めに食べたいなら2皿注文して、少量でよいなら通常サイズを注文して無理に全部食べずに残してくださいね』ということでしょう」

選択肢が減るという懸念

 では、飲食店の経営的に、簡単には新たに高価格帯のメニューを投入するということはできない事情があるのか。前出・江間氏はいう。

「店舗の運営にあたって、自分たちの強みやウリを大事にして前面に出していくことがもっとも大事です。これが差別化となり来店動機となります。他のお店のように高価格帯の商品を投入することによってお客の選択肢は増え、満足度が上がり、利益率も改善するという考えは正しいと思いますし、私も普段はその考えで店舗にアドバイスすることが多いです。

 しかし、サイゼリヤは自分たちの強みを守るために、今後の方針、経営戦略として『値上げはしない』『安さを目指す』と宣言しましたから、オペレーションが今より煩雑になる=今よりコストが上昇する要因となることは現時点では考えず、『どうしたら価格を維持し、安さを喜んでくれるお客さまの期待に応えられるか』をベースに、対応策のひとつとしてメニュー数減少を進めているのでしょう。明確な強みやウリを持ってすでに繁盛しているお店ですから、自分たちの強みを弱めるような戦略は、そう簡単には取れないのだと思います。やろうと思えばできないことはないでしょうが、あえてやらない、その戦略を取らないだけだと思います。

 かつて280円や300円といった全品均一価格の居酒屋が流行った時期があり、最初のころは重宝され流行りましたが、原価の問題で提供できるメニュー数が限られてだんだん飽きられ、他店との差別化が難しくなり廃れていった例もあります。ですので、あまりに絞りすぎることによってメニューを選ぶ楽しさや選択肢が減るという懸念はあるように思えます。安いからといっても毎日同じものを食べたい人は少ないでしょうし、世の中には他にも安い食べ物の選択肢はあります。現在のサイゼリヤには安さという差別化があり、安いサイゼリヤが好きなお客たちに支えられ繁盛していますから安さは大事ですが、この先は飽きさせないメニューや外食の楽しさを感じるメニューをより意識する時期がくるかもしれません」 

(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)

江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部(株)代表

江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部(株)代表

東京未来倶楽部(株)代表
5年間大手信託銀行のファンドマネージャーとして勤務後、1998年独立。14年間、夜は直営店(新宿20坪30席)ダイニングバーの現場に出続けながら、昼間、プロデューサー・コンサル業。コンサル先の増加と好業績先の次の展開のため、2012年5月からプロデューサー・コンサル業に専念。
「数字(経営者側)と現場(スタッフ・オペレーション)の融合」「各種アイデア・提案」が得意。また、現場とのメニュー開発等、自称<「実践」料理研究家>。
・著書:『ランチは儲からない、飲み放題は儲かる』『とりあえず生!が儲かるワケ』『ド素人OLが飲食店を開業しちゃダメですか?』

Instagram:@masakazuema

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