イタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」の一部店舗で、高齢者のグループ客が押し寄せて満席状態になっているという記事が話題を呼んでいる。13日付「THE GOLD 60」記事『サイゼリヤの「ミラノ風ドリアとドリンクバー」で時間を潰す…平均年金「14万円」の高齢者「家にいるほうがお金がかかる」の実情』によれば、光熱費の高騰により、自宅で過ごすより仲間と低価格のサイゼリヤで過ごすほうがオトクだと考える人が増えているからだという。店側にとっては、少ししか注文せずに席を占拠する客が多いと損失を被ることになるが、飲食店の現場では一般的にどのような対応が行われているのか。また、やはりメリットよりデメリットのほうが大きいのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
国内に1055店舗、海外に485店舗(2023年8月期)を展開するサイゼリヤ。人気チェーンだけに何かと話題になることも多い。原材料費の高騰を受けて外食チェーン各社が相次ぎ値上げに動くなかで値上げをしない方針を打ち出すなど、消費者に寄り添う姿勢を示し、消費者から好感を持たれている。多くのファンに「衝撃」を与えたのが、昨年7月に発表された粉チーズ(グランモラビア)の無料提供の終了だった。その後はマイナスの出来事が相次ぐ。11月、店舗で提供したサラダにカエルが混入する事案が発生。12月には、ある店舗が子どもが2~3秒ほど泣いた家族客に対して「騒いだら退店となります」と警告していたことがわかり、ネットニュースなどでも大きく取り上げられる事態に。その一方、客が注文内容を紙に記入して店員に渡すという「アナログ」な注文方式から、QRコードをスマートフォンで読み取るセルフオーダー方式への切り替えを段階的に進めていることも話題に。最近では人気メニュー「イカスミパスタ」の真っ黒だったソースがセピア色に変更され「イカの墨入りセピアソース」にリニューアルされ反響を呼んでいる。
サイゼリヤの最大の強みといえば、圧倒的な価格の安さだ。300円(税込み/以下同)の「辛味チキン」や「ミラノ風ドリア」、400円の「ミートソースボロニア風」、200円の「フレッシュワイン(デカンタ250ml)」など客の財布に優しいメニューばかり。クオリティや安全・品質管理へのこだわりも強い。ワインやスパゲッティ、オリーブオイル、プロシュート、チーズなどはイタリアの現地メーカーや農場から直接買い入れ、ハウスワインはサイゼリヤ専用のタンクで発酵・熟成。また、素材の開発・生産・加工などすべての工程に踏み入ることで安全・品質向上を図っており、自社農場で種や土壌・栽培方法を開発研究したり、ハンバーグとミラノ風ドリアの専用工場をオーストラリアに設けるほど。レタスについては自社で種の品種改良まで手掛け、一玉でたくさんのサラダ分の葉を賄える大玉でかつ日本人好みの食感のレタスを生産している。
滞在時間制限に関してルールの設定は?
そんなサイゼリヤの強みゆえか、高齢者のグループ客が長時間滞在し「席を占拠する」現象が起きているという。実際にSNS上では以下のような声がみられる。
<夕方のサイゼリヤ、思った以上に酔っ払い高齢者>
<ランチでサイゼリヤ来たら、爺さん婆さんの憩いの場になってた。高齢者パワーすごいな>
<お昼ご飯をサイゼで過ごしているのだけど、テスト勉強の学生と高齢者多い>
<数百円で超長居してるだろう高齢者、ドリンクバーのみで勉強机がわりの中高生集団のが気になる>
<サイゼリヤ入ったら高齢者ですごく賑わってた>
<サイゼリヤに入ったら活気のある老人ホームみたいでなかなかたのしい>
たとえば「ミラノ風ドリア」と「ドリンクバー」を注文すると計500円だが、外食チェーン関係者はいう。
「似たようなケースとしては、以前からファミリーレストランでママ友や学生のグループ客がドリンクバーだけで1~2時間ほど『粘る』という光景はみられる。平日午前など比較的空く時間帯の場合、たとえば4人のグループ客が1時間滞在して合計2000円落としてくれれば、店側としては営業しているのに客が入らない状態よりは断然ありがたい。また、そのような客のうちの一定数が店のリピーターになれば、定期的に家族や友人を連れてディナーに来てくれたりするので、邪険にはしない。だが混雑するランチタイムにドリンクバーの注文だけで席を占拠されたりすると、他の客に迷惑がかかるので、さすがに店員が声をかけたりする」
チェーンでは客の滞在時間制限や退店のお願いなどに関してルールを設定しているものなのだろうか。
「たとえばマクドナルドでは混雑時にテーブルの上にフードやドリンクがないお客に『混雑しているのでご協力お願いします』などと声をかけているが、こうした行為は各店舗の自主的な判断に委ねられていると思われる。『90分以上の滞在はNG』といったように本部のほうで厳密にルールを設定しているチェーンというのは少ないのでは。たとえば同じチェーンでもオフィス街の店舗でドリンク1杯で数時間滞在する客は少なく、逆に郊外の店舗だと学生のグループ客が長時間居座るといったことは起きやすいといったように、店舗の立地によっても違ってくるので、一律のルールを設けるというのは難しい」
では、飲食店の現場ではどのような対応がとられているのだろうか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏に解説してもらった。
サービス業として難しいさじ加減が求められる
高齢者のコミュニティが多い地域ほど、高齢者グループが飲食チェーン店に長時間滞在するという現象が起きる可能性は高くなるでしょう。高齢者に限らず時間に余裕のある人が、飲食以外の目的で時間を埋めるために飲食店を利用することもあるでしょう。学生や主婦が友達とお話をするために長時間、飲食店を利用することもあります。逆にオフィス街の会社員中心のお店は、食事やちょっとした休憩のための利用となるので、1時間も滞在するケースは少ない。席数の少ない個人経営の飲食店だと長時間の利用は嫌がられることが多く、長居したいときは放っておいてくれる大箱のチェーンが選ばれやすくなります。
このような長居客に対して飲食店側は本音では「食事が済んだら早く帰ってくれないかな」と思っています。追加オーダーがあるなら歓迎されることもありますが、繁盛店の場合、追加オーダーを少しもらうよりも、新規客を入れてオーダーを取ったほうが売上は上がります。飲食店の売上は「客単価×人数×回転率」ですから、賃料を払いスタッフを雇っているお店では、高級店を除くと回転率の低いお店はまず成り立ちません。
また、売上の問題だけでなく、待っているお客さんがいると、スタッフはその方たちのストレスも考えて気を配りますし、帰してしまうお客さんがいると申し訳ない気持ちにもなります。かといって、お客さん側からすると、追い立てられるようなお店にはあまり行きたくないでしょうから、そこはサービス業としてのさじ加減が大事であり、難しいところです。待っているお客さんがいない状況では、長居客をそのままにしておくことが多いでしょう。
こうした長居客に対する飲食店の対応は、店舗のサイズや状況によってまちまちです。チェーン系の席数が多い大箱のお店でしたら、100席のうち20席が長居客で占められても、残りの80席が一定の回転率になれば経営は成り立ち、運営会社もそのあたりはある程度は計算しています。またチェーン系は正社員の店長とアルバイトで運営しており、長居客に関して本部のマニュアルに特に記述がなければ、トラブルが起きないよう放置することが多いでしょう。
一方、街場の20席くらいの小さなお店の場合、多くのお客さんが長居してしまうと回転率が下がり、さらにそんなお客さんが常連になってしまうと潰れてしまうので、そろそろかなと思ったタイミングで「お食事がお済みのようでしたら、お会計よろしいでしょうか?」と退店を促すことになります。トラブルを避けるため「当店のお席は2時間制となっておりますのでご協力よろしくお願いします」「店内が混みあってきましたら、2時間以上滞在のお客様は他のお客様にお席を譲っていただけるようご協力よろしくお願いします」などとHPや店内掲示で告知したり、予約の際に伝えている店もあります。
大箱のお店でも100席中、半分以上の席が長居客で占められると利用時間制限のような対策が必要となってきます。気に入っているお店に長く存続してもらいたいと思ったら「ほどよく」を心掛け、お店や他のお客さんのことも考えて利用すべきです。そうすれば、本当の意味で「ありがたいお客様」と思われるでしょう。
(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)