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サイゼリヤ、子どもが数秒泣いた客に退店を警告…店側に例外的な事情か

文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表
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サイゼリヤのHPより

 イタリアンレストランチェーン・サイゼリヤのある店舗が、子どもが2~3秒ほど泣いた家族客に対して「騒いだら退店となります」と警告していたことがわかった。12月20日付「J-CASTニュース」記事の取材に応じた、現場に居合わせた客の証言によれば、その子どもは終始席に座っており、泣き出すと、すぐに母親が抱き上げてあやしていたが、店員が来て警告をしたという。そこでこの客が店員に、それは本部の方針なのかと聞いたところ、「そうです」という答えが返ってきたという。サイゼリヤやファミリーレストランのように小さな子どもがいる家族客の利用が多いチェーン店では、子どもがグズっている客に対して退店を依頼するというケースは一般的なのか。業界関係者の見解も交え追ってみたい。

 トッピング用の粉チーズ(グランモラビア)の無料提供の終了やサラダへのカエル混入トラブル、一部店舗でのスマートフォンによるセルフオーダー方式の導入など、今年も何かと話題を振りまいたサイゼリヤ。年末が近づくなか、同チェーンのイメージを損ないかねない新たなエピソードが議論を呼びつつある。

 全国に1059店舗(2023年3月現在)を展開し、300円(税込み/以下同)の「辛味チキン」や「ミラノ風ドリア」、400円の「ミートソースボロニア風」、200円の「フレッシュワイン(デカンタ250ml)」など低価格な商品が多く、それが多くのファンを惹きつけているサイゼリヤ。原材料費の高騰を受けて外食チェーン各社が相次ぎ値上げに動くなかで値上げをしない方針を打ち出すなど、消費者に寄り添う姿勢で高い人気を誇っている。

 業績も概ね安定している。2023年8月期決算は、最終的な当期利益は減益となったものの、売上高は1832億4400万円(前年同期比27.0%増)、営業利益は72億2200万円(1607.6%増)、経常利益は79億4900万円(26.2%減)、親会社に帰属する当期利益は51億5400万円(8.9%減)となっている。

 クオリティや安全・品質管理へのこだわりも強い。ワインやスパゲッティ、オリーブオイル、プロシュート、チーズなどはイタリアの現地メーカーや農場から直接買い入れ、ハウスワインはサイゼリヤ専用のタンクで発酵・熟成。また、素材の開発・生産・加工などすべての工程に踏み入ることで安全・品質向上を図っており、自社農場で種や土壌・栽培方法を開発研究したり、ハンバーグとミラノ風ドリアの専用工場をオーストラリアに設けるほど。レタスについては自社で種の品種改良まで手掛け、一玉でたくさんのサラダ分の葉を賄える大玉でかつ日本人好みの食感のレタスを生産している。

例外的な出来事

 そんなサイゼリヤだが、以前から子ども連れ客に優しいと定評があるチェーンの一つとして知られている。子ども用の椅子や食器が用意されているほか、店内である客が子どもに離乳食を食べさせようとしたところ店員が「温めましょうか」と声をかけてくれたという体験談が話題になったこともあるほど。平日の午後や休日には多くの子ども連れ客で賑わっている店舗も多い。40代女性はいう。

「4歳の子どもを連れてママ友3~4人くらいで月1~2回くらいの頻度でサイゼリヤに行く。いつも4人掛けテーブル席が2つ隣り合うところに案内され、一つのテーブルに大人たち、もう一つに子どもたちが座る。それなりの量を注文するからかもしれないが、店員さんに嫌な顔をされたり注意されたりしたことは一度もない。店内には他にも子連れ客が多く、たまに泣いたりしている子どももいるが、店員さんに注意されている場面は見たことがない」

 今回、ある店舗で起きた出来事は例外的なものなのか。外食チェーン関係者はいう。

「ファミレス系のチェーンに限っていえば、例外といっていいでしょう。子どもが通路を走り回って他の客と衝突しかねないなど、明らかに危険が察知される行動でない限り注意しないのが一般的。そもそもファミレスは一定程度騒がしいというのは大前提の飲食店なので、客も許容範囲が広いし、多少騒がしくしても目立たない。店側がもっとも恐れるのは客とのトラブルやSNS上での悪評拡散なので、客を怒らせるようなことは極力避けるもの。今回の件でいえば、警告された客が店員にキレる可能性も十分に考えられるし、実際にネットニュースにまでなってサイゼリヤ全体のイメージ悪化につながってしまっており、結果的には大きな失態になったといえる。もちろん常識を大きく逸脱する客やクレーマー客に対しては、他お客や店員に悪影響をおよぼす恐れもあるため厳しく対処すべきだが、少し子どもが泣いたくらいで、しかも保護者は放置していたわけでもないなかで退店を警告するというのは、明らかにいきすぎ」

背景に何があったのかを冷静に検証すべき

 もっとも、これをもってサイゼリヤを批判するのも筋が違うとこの関係者は指摘する。

「国内だけで1000店以上あり、そこで働く社員・スタッフの数は万単位になってくるので、確率論的にどうしても不適切な対応をしてしまう店員が出てしまうのは避けられない。また、混雑する時間帯の飲食店は店員があまりに忙しすぎてテンパってしまい、冷静な判断ができなくなってしまうというシーンはよくあること。直近で他の客から『子どもがうるさい』といった内容の猛クレームを受けていて過敏に反応してしまったということも考えられる。本部としては『背景に何があったのか』『なぜこのような事態が起きたのか』を冷静に検証し、今後の店舗運営に活かすべきだろう」

 別の外食チェーン関係者はいう。

「ホテルのレストランなどにみられるように、店によっては『●歳以下お断り』と明言しているケースもあり、そういう場合はわかりやすいが、高級寿司店や高級レストランのように店側が明示していないものの暗黙の了解として小さな子どもの利用を想定していない店だと、トラブルになりやすい。サイゼリヤは明らかに小さな子どもの利用を想定しているファミレス的なチェーンなので、少し泣いたくらいで注意するというのは、本部として掲げている方針・マニュアルではないと考えられる。

 客の反応というのは本当に千差万別で、店員側が注意のつもりで言ったわけではないのに、客がものすごい剣幕で怒りだすということはある。なので店側としては、できるだけお客にお願いや注意をしたがらないもの。特に大手チェーンの場合、客に不快な思いをさせても何の得もないので、今回の出来事が起きた店舗では、子どもの泣き声に過敏に反応して注意してしまうに至った事情が何かあったのではないか」

 では、外食・飲食業界全体の人手不足、時給上昇の現状はどうなっているのだろうか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏に解説してもらった。

子どもについての対応の難しさ

 通常、チェーン系飲食店にはマニュアルがありますが、子どもについての対応はケースバイケースが多いために、具体的に記載するのが難しいものです。騒いだり泣いたりする子どもへの対応については「周りのお客様の迷惑にならないよう従業員が気を付けて対応する」となり、「もし子どもが周りのお客様の迷惑になるような行為を行うようなら、親にその行為をやめさせていただくよう丁寧にお願いする」となるでしょう。そして、「それでもその行為が止まらなかったり、親が放置して他のお客様への迷惑が続くようなら、やむを得ないケースとして丁重に退店をお願いする」という流れになると思います。

 ですので、ただ子どもが泣いたり騒いでいるだけで即退店というルールはマニュアルに記載されていないでしょうし、「ファミリーレストラン」と名がつく飲食店ですから、小さな子どもが来店することは当たり前であり、泣いたり騒ぐことも十分に想定範囲でしょうから、それだけで即退店ということは考えられません。上記のような内容に近いマニュアルが、サイゼリヤにもあると思いますが、

・周りのお客様の迷惑になるような泣き方で、親は何もせずに放置していたのか。
・他のお客様からクレームが入っているようなら、丁寧にその子どもの親に対策としての協力を依頼したのか。その後、改善されなかったのか。

が、ポイントになります。今回のサイゼリヤの従業員、もしくは指示を出した責任者は、状況判断やマニュアルの解釈、対応を間違えてしまったようです。泣く=退店の警告はあまりにも飛躍し過ぎで、周りに不快感を与えてしまったことでしょう。

 マニュアルがない一般的な飲食店の子ども対応も、店内で皆さんに気持ちよく食事をしていただくよう、トラブルを生み出さないよう、ある程度はルール化されています。基本は「店側の判断や他のお客様からのクレームなどがあった場合、泣いたり騒いだりしている子供の親に、なにかしらの対応を丁寧に依頼する」となり、本当に最悪の場合のみ「退店をお願いする」となりますが、退店まで依頼するケースはまれです。また、トラブルを未然に防ぐため、未就学児の入店をお断りしているお店もあります。高級料理店などは雰囲気の問題もあり、コース料理のような時間がかかるものは子どもにとって苦痛であるため、そのようなルールを設けているというケースもあるでしょう。

 飲食店は多くの人が利用する「公共の場」です。公共の場にはルールがあり、基本は「他の人に迷惑をかけない」です。何か起きた際、現場従業員はそれが他のお客様にとって迷惑なのか否かの状況判断をしなくてはなりません。次に、事を荒立てないよう丁寧で公平な対応が必要となります。ただし、これらは急にできることでもなく、広い視野や判断力、バランスが求められますから、日ごろから現場でスタッフ全員が情報や経験の共有を行い、どんな対応がベストなのかとケーススタディやトレーニングを繰り返していくことが理想的といえるでしょう。

(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)

江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部(株)代表

江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部(株)代表

東京未来倶楽部(株)代表
5年間大手信託銀行のファンドマネージャーとして勤務後、1998年独立。14年間、夜は直営店(新宿20坪30席)ダイニングバーの現場に出続けながら、昼間、プロデューサー・コンサル業。コンサル先の増加と好業績先の次の展開のため、2012年5月からプロデューサー・コンサル業に専念。
「数字(経営者側)と現場(スタッフ・オペレーション)の融合」「各種アイデア・提案」が得意。また、現場とのメニュー開発等、自称<「実践」料理研究家>。
・著書:『ランチは儲からない、飲み放題は儲かる』『とりあえず生!が儲かるワケ』『ド素人OLが飲食店を開業しちゃダメですか?』

Instagram:@masakazuema

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