牛丼チェーン「松屋」が先月28日から期間限定で販売中の「ビーフ100%ハンバーグ」。1290円(税込み、以下同)の「たっぷりチーズビーフ100%ハンバーグ定食」を筆頭に各種メニューが軒並み1000円超え。格安がウリというイメージが強い牛丼チェーンとしては強気の価格設定といえるが、SNS上では「もう貧乏人は利用できない」「その値段なら違う店を選ぶ」などと悲鳴が続出している。今回の新メニューの価格妥当性をどう評価すべきか、また、松屋があえて割高なメニューを投入し始めた狙いはなんなのか。業界関係者の見解も交えて追ってみたい。
「松屋」といえば牛丼チェーンのなかでも牛丼以外のメニューに力を入れていることで知られている。特に「牛丼チェーンのカレー」のパイオニア的存在であり、「松屋ビーフカレー」(580円/並盛、以下同)や不定期で販売される「ごろごろ煮込みチキンカレー」は多くの根強いファンを獲得しており、カレーに味噌汁が付くのも特徴だ(すき家も同様)。また、通常メニューや期間限定で販売される煮込み系ハンバーグも人気メニューの一つだ。
そんな松屋が今回投入した「ビーフ100%ハンバーグ」は、ビーフ100%、重量200gという大きなボリュームの粗挽きハンバーグ。
「深みのあるデミグラスソースと肉汁が交わり美味さ溢れる一品。牛肉本来の味をお楽しみいただける牛肉100%のパテに、くせのない風味が特徴のデミグラスソースが絡み、ご飯が進むメニューとなっています」(松屋のHPより)
「議論」を呼んでいるのが、その価格だ。ご飯とサラダ、味噌汁が付いた「ビーフ100%ハンバーグ定食」は1090円、「エッグビーフ100%ハンバーグ定食」は1150円、「たっぷりチーズビーフ100%ハンバーグ定食」は1290円とすべて1000円オーバー。SNS上では以下のような声が多数寄せられてる。
<皆の食卓だったはずなんやが>
<もう上級国民様御用達になっちまった>
<マジで高くて>
<これならステーキガスト 行きますわ>
<ハンバーグ食べたくなったら金のハンバーグ500円にする>
他チェーンと比較しても「安くはない」
現在競合他社が販売中の期間限定メニューをみてみると、「吉野家」の牛すき焼き鍋の定食「牛すき鍋膳」は787円、「すき家」の「牛すき鍋定食」は890円となっており、ライバルが現在プッシュする期間限定メニューと比べて一段階高い価格設定になっているといえる。ちなみに、大手3社の「牛丼」「牛めし」(並盛)の価格をみてみると、「松屋」は400円、「吉野家」は468円、「すき家」は400円となっており、横並び状態だ。
参考として他業態のハンバーグメニューみてみると、ハンバーグチェーン「びっくりドンキー」の「レギュラーバーグディッシュ(150g)」(ご飯・サラダ付き)が810円、ファミリーレストラン「ガスト」で「鉄板目玉ハンバーグ」(600円~)に「和食セット」(400円/ご飯・味噌汁・季節の惣菜)を付けると1000円~、イタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」で「ハンバーグステーキ」(400円)に「ライス」(150円)を付けると550円となる。「松屋」の「ビーフ100%ハンバーグ」が「安くはない」ことがうかがえる。
「最近では吉野家が『から揚げ』、すき家がチキンメニューに力を入れているように、牛丼各社は牛丼に次ぐ第2の柱を育てようとしており、それが松屋にとってはハンバーグなのかもしれない。味的には無難かつ極めてオーソドックス、普通といえるハンバーグだが、松屋がここまで強気の価格設定をしているというのは、クオリティの高さに相当の自信があってのことだろうが、仮にクオリティに見合う価格であったとしても、松屋のメイン客層からみると金額の絶対値として許容範囲を超えているという印象。
松屋は年1回の期間限定メニューとして人気だった『ごろごろ煮込みチキンカレー』を昨年5月にレギュラーメニュー化したものの、セールス的にイマイチで7カ月で販売終了。今年1月には『オリジナルカレー』の代わりに一気に200円アップさせた『松屋ビーフカレー』を680円で発売したかと思えば、8月には100円値下げして味を変更。5月に期間限定で発売した『ねぎたっぷりスパイスカレー』も不評の声が多く寄せられるなど、最近のメニュー戦略はどうも迷走しているように感じる」(外食チェーン関係者)
より付加価値の高い本格的でボリューミーな肉系商品の展開にも期待
新メニューのクオリティと価格の妥当性、そして松屋の今後の戦略について、飲食プロデューサーで南インド料理専門店「エリックサウス」総料理長の稲田俊輔氏はこのように分析する。
「極めてオーソドックスなハンバーグ定食です。松屋のハンバーグといえばこれまで、シャンピニオンペーストを隠し味に使ったブラウンソースやガーリックをしっかり効かせたトマトソースで仕立てた、通好みともいえる凝った仕立てが印象に残っています。しかし今回は、日本人がハンバーグと聞いてまず思い浮かべるような王道のハンバーグで『1000円の壁』に挑んだ商品、ということがいえるでしょう。しっかりと凝縮感のある大きなハンバーグに、いかにも松屋らしくご飯の進む濃い味のデミグラス系ソース。ボリューム感と味自体は価格に対して充分なものですが、見方によっては『何の変哲もないハンバーグ』でもあり、1000円の壁という消費者にとっての心理的なハードルを超えるだけのパワーがあるかどうかは注視したいところです。
今回はむしろ、これが受け入れられた場合の次の一手が楽しみかもしれません。松屋はもともと牛焼肉やカルビ焼肉など肉系の商品に強みがあります。今後1000円超えの商品を打ち出していくことができれば、より付加価値の高い本格的でボリューミーな肉系商品の展開も可能になるでしょう。個人的には松屋が得意とするカレーのカテゴリーで、最近ちょっとしたブームでもある『塊肉カレー』に挑戦していただきたいと密かに願っています」
(文=Business Journal編集部、協力=稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長)