牛丼チェーンのなかで特にカレーメニューに力を入れ、多くのカレーファンを獲得している「松屋」。そんな松屋の新商品「ねぎたっぷりスパイスカレー」が、なぜか「これはハズした」「不味い」とSNS上で不評を買っている。果たしてカレーとしてのクオリティーはどうなのか、また730円(税込み、以下同)という価格は妥当といえるのか、専門家に聞いた――。
松屋のカレー販売の歴史は古い。中華飯店を母体とする松屋は、1968年(昭和43年)に現在に連なる牛めし・焼肉定食店を開業。カレーの提供が始まったのは、松屋商事(現・松屋フーズホールディングス)に株式会社化された1980年頃とみられる。
2000年には290円で販売されていた松屋のカレーだが、この20年の間に徐々に値上がり。昨年5月の価格改定時には「オリジナルカレー」の価格は480円のまま据え置かれたものの、今年1月には「オリジナルカレー」の販売が終了となる一方で、終売となっていた「創業ビーフカレー」をリニューアルした「松屋ビーフカレー」が680円で登場。松屋のカレーメニューの最低価格が一気に200円も上がることになり、事実上の値上げと受け止める向きも多かった。
実際に松屋のカレーメニューの価格設定は強気だ。たとえば「吉野家」のスタンダードな「スパイシーカレー」は415円、「すき家」の「カレー」は490円。すき家の炭火で焼き上げた豚肉が豪快に乗せられた「炭火とろとろポークカレー」は「松屋ビーフカレー」とほぼ同額の690円となっている。
その松屋が今月9日に発売した新メニューが「ねぎたっぷりスパイスカレー」だ。17種類のスパイスを配合したカレーに「牛めし」の肉、青ネギを合わせた一品で、HP上で「辛党への挑戦状」と謳ってるとおり、強い辛さが特徴的だ。だが、「カレーの松屋」の新メニューということもあり好評を博していると思いきや、SNS上では以下のように厳しい声が目立っている。
<不合格>
<割とマジで不味い>
<ただの牛丼カレー>
そこで、カレー研究家で日本野菜ソムリエ協会カレーマイスター養成講座講師のスパイシー丸山氏に、実食の上で忖度抜きでレビューしてもらった。
シャバシャバカレーに青ネギという切り口は面白いが…
「強い塩味にすべてが持っていかれてしまい、『濃い』を通り過ぎて『しょっぱすぎる』というのが正直な感想です。『強いしょっぱさ』に中毒的にハマって足しげく通うヘビーユーザーを増やそうとしているのではないかとすら考えてしまうほどです。松屋のカレーの新メニューは毎回美味しく楽しませていただいていますが、今回ばかりは『松屋、どうしちゃったの……』という印象です。スープカレーとは違う、いわゆるシャバシャバカレーと呼ばれるカテゴリーで、それに青ネギを合わせるという切り口は面白いので、余計にもったいないと感じます。
カレーに青ネギという組み合わせについてさまざまな声があがっているようですが、実は大阪などでは一般的なスタイルで、両者の相性は意外に良い。カレーに単品で青ネギをトッピングするというのは、牛丼チェーンでしかできない裏技的な注文として、一部では知られています。
ちなみにルー単体での辛さとしては激辛とまではいかず、『辛い』といわれた松屋の『オリジナルカレー』の1.2倍くらい。強めの後を引く辛さという表現が近く、面白い。トマトと思われる酸味もある複雑な味付けで、これはこれで美味しいので、もう少しうまく着地点を探れていれば……、という点が悔やまれます」
では、果たして730円という価格は妥当といえるのか。
「価格が妥当かどうかは味次第ですが、その意味では価格に見合わないという評価になってしまいます。ただ、牛丼の肉もしっかりと乗せられており、コストを考えれば『かなり頑張っている価格』であることも事実でしょう」(同)
今回の新メニューもしかり、最近の松屋にはやや迷走ぶりを感じると丸山氏はいう。
「『牛丼チェーンのカレー』というジャンルを築き、普及させてきた松屋は、徐々に本格的なスパイシーカレー路線を確立し、その流れに吉野家とすき家も追随してきた。そんな『牛丼チェーンカレーの王者』である松屋が生み出したのが、あの伝説の『ごろごろ煮込みチキンカレー』でした。このメニューが年に1回、期間限定で販売されるのは、カレーファンの間では一つのお祭り行事となっていたのですが、昨年5月にレギュラーメニュー化されると、特別感がなくなってしまったためか話題に上ることも少なくなり、わずか7カ月で販売終了に。そして今回の『ねぎたっぷりスパイスカレー』につながっているわけですが、どうも松屋の戦略が空回り気味になっているのが気になります。松屋のカレーファンとしては、ぜひ今後に期待したいところです」
(文=Business Journal編集部、協力=スパイシー丸山/カレー研究家)