ゼンショーホールディングスが運営する牛丼チェーン「すき家」の人気メニュー「とろ〜り3種のチーズ牛丼」。その仲間として今月18日から新メニュー「明太マヨチーズ牛丼」「トマトチーズ牛丼」が販売されているが、牛丼チェーン店の商品としては580円(並盛)とやや高めの価格であることに加え、牛丼にチーズと明太子風味のマヨネーズ、トマトソースというパンチの強い組み合わせであることを受け、SNS上では「すき家が最後の一手を出してきた」などと話題になっている。そこで今回は外食の専門家に、その味や価格の妥当性について忖度抜きでレビューしてもらった。
原材料費やエネルギーコストの上昇を受けて外食チェーン各社の値上げが相次ぐなか、すき家も2021年、23年に価格改定を実施。21年には「牛丼 並盛」を350円(税込み、以下同)から400円に値上げし、23年には並盛の価格を据え置く一方、中盛・大盛は550円から580円に、特盛は700円から730円に値上げ。「とろ〜り3種のチーズ牛丼」もかつては500円で提供されていたが、現在では580円で提供されている。ちなみに競合する他の牛丼チェーンの類似商品をみてみると、吉野家の「チーズ牛丼 並盛」は588円、松屋の「たっぷりチーズ牛めし 並盛」は570円となっている。
値上げを受けても客離れは起きておらず、すき家の業績は好調だ。過去1年間だけみても、既存店の月間の売上高、客単価は3月まで12カ月連続で前年同月比増を続けている。
「3種のチーズ牛丼はすき家の人気メニューのひとつだが、『マヨにんにくファイヤー牛丼』や『ねぎマヨやきとり丼』『うな牛』などカロリー高めのメニューが目立ち、牛丼チェーンのなかでも特に客層は男性がメインだった。そこで、女性客を取り込むために戸田恵梨香や安めぐみ、そして現在では石原さとみなど人気女優をCMに起用。今ではすき家の店内で女性客の姿を目にすることも珍しくなくなった。ちなみに各チェーンのチーズ牛丼系メニューを比較すると、すき家は吉野家よりは安く松屋よりは高いが『ほぼ同じ』といえ、すき家は3種のチーズが豪快に乗せられており、一番お得感があると感じる」(外食業界関係者)
<逆方向に攻めてきた>
そんなすき家のチーズ牛丼に今回、2種類の新メニューが追加。前述のとおりチーズが乗った牛丼に、さらに明太子風味のマヨネーズやトマトソースが重なるという、すき家の濃いメニューのなかでもひときわユニークなテイストに。さらに500円を超えるという強気の価格設定もあいまり、SNS上では次のようにさまざまな反応が寄せられている。
<すき家さん、最後の一手を出してくる>(原文ママ、以下同)
<こんな高かったっけ?>
<おっさんになったら食えなくなったわ胃もたれする>
<逆方向に攻めてきた>
<絶対胸焼けする>
<今580円もすんのか>
そこで、すき家の「明太マヨチーズ牛丼」「トマトチーズ牛丼」について、この価格に見合う価値があるといえるのかを、フードアナリストの重盛高雄氏に解説してもらう。
2つの新商品で評価分かれる
すき家は価格戦略を優先せずに、牛丼にトッピングという付加価値をつける商品戦略により、男性客だけでなく女性や子どもにも人気を博している。今回の新商品には、春を感じさせるという狙いが込められているように感じる。
「トマトチーズ牛丼」はチーズがとろけている分、一口ごとに具材の風味を包み込むように感じられ、ごはんとトッピングの相性や食べやすさは格段に向上した印象を受ける。トマトソースの持つ軽い酸味がチーズの塩味と相まって「しつこくない食感」を与えてくれる。少し紅ショウガを加えることで酸味の切れ味が増し、チーズの甘みとの相乗効果が発揮される。紅ショウガのシャキシャキ音を耳で感じながら、チーズと牛肉に包まれたご飯は口の中で咀嚼するたびに心地よく踊っているようだ。チーズが全体をつなぎ合わせる役割を果たすことで、どんな年代の客層にも食べやすさを演出している。総合的な工夫と味わいから580円という価格には妥当性があると感じた。
一方、明太マヨチーズ牛丼は明太の塩味と辛味を目立たせない「子供向け」の味付けという印象を受けた。チーズの甘さとマヨの甘さが逆に立ってしまい、明太の持ち味が発揮されていない。そしてトマトチーズ牛丼同様に紅ショウガを追加してみたが、逆に味わいのバランスが悪くなったと感じた。結果としてその価格には割高感を感じた。
トッピングという強みを持つ同社のさらなる挑戦が期待される「春」商品であった。
(文=Business Journal編集部、協力=重盛高雄/フードアナリスト)