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店員が死亡「すき家」過去最高益の裏でワンオペ勤務をやめない理由

協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表、山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表
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「すき家」の店舗(「Wikipedia」より)

 過去に従業員の“深夜ワンオペ勤務”が社会問題化した大手牛丼チェーン「すき家」で、ワンオペ勤務中の女性が店内で死亡するという事件が起きた。1日付「文春オンライン」記事がスクープした。

 すき家といえば、2014年に深夜のワンオペ勤務をはじめとする従業員の過酷な労働実態が発覚。全国で一時閉店する店舗が相次ぎ、約2000店舗(当時)のうち最大で123店舗が店を開けられない状態に。さらに深夜のワンオペを廃止した影響で、全店の約9割を占めていた24時間営業店のうち、実に約7割の店舗が24時間営業の休止に追い込まれた。

「吉野家の『牛すき鍋膳』がヒットしたのを受け、すき家も『牛すき鍋定食』を投入。(すき家を運営する)ゼンショーホールディングス(HD)本部の計算とは裏腹に、牛丼に比べて4倍近く仕込み時間がかかったことで一気に現場の負荷が激増し、店員が次々と辞めたことが、混乱の引き金となった」(外食業界関係者)

 すき家の労働環境改善に関する第三者委員会が公表した報告書によれば、ゼンショーHDは12年度以降、時間外労働などで64通にも上る是正勧告書を労働基準監督署から受け取っており、恒常的に月500時間以上働いていた社員や、2週間帰宅できなかった社員がいたことなども明らかになった。

「すき家の運営は法令違反であることはもとより社員の生命、身体、精神に危険を及ぼす重大な状況に陥っていた」

「過剰労働問題等に対する“麻痺”が社内で蔓延し、『業界・社内の常識』が『社会の非常識』であることについての認識が全く欠如していた」(共に第三者委の報告書より)

秒刻みの制限時間

 当時、当サイトでもすき家社員の労働実態について次のように報じていた。

「注文を受けるのも、全メニューの仕込み・調理も、代金を受け取り釣りを返すのも、食器の後片付けと食器洗いも、客席と便所の掃除も、その他もろもろの雑用も、何もかも全部1人で行わなければならない。精算に客が並んでほかの処理が後回しになると、客から罵声が飛んでくる」(14年6月29日付当サイト記事より)

 また「日経ビジネス」(10年9月20日号/日経BP社)によれば、すき家のカウンター席では牛丼は原則として10秒以内で出すことになっており、店員は「いらっしゃいませ」と声をかけてからのすべての動作を、体のバランスの取り方から手の動かし方まで秒刻みの制限時間が設けられ、店舗を24時間回すために作業のすべてに決まり事がつきまとっていたという。

 もっとも、現在のゼンショーHDの業績は絶好調だ。22年3月期の連結経常利益は前期比89.3%増の231億円で過去最高益を更新。すき家に加え、100円寿司の「はま寿司」、海外での持ち帰り寿司の業績が堅調に推移した結果だ。

 そのゼンショーHDで、過去にあれだけ批判を浴びたワンオペ勤務によって再び不幸な出来事が起きたわけだが、なぜ同社はワンオペ勤務を廃止せずに継続させているのだろうか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏に解説してもらった。

江間氏の解説

 今回のすき家における事故は、現場状況や実務経験から推測するに、

1.効率化

2.人材不足

3.やってる感

が原因だったように思います。

1.効率化

 深夜や早朝の時間帯は売上が下がりますが、その際に店は、できるだけ節約することを考えます。節約できる費用のなかでもっとも大きいのは「人件費」なので、シンプルに3人よりは2人、2人よりは1人と、最少人数での運営を考えます。最少人数は1人ですから「ワンオペ」の発想が生じます。

 もちろん店としては、オーダー取りやお会計のようなものは券売機導入、水や箸などはセルフにして「手数」を減らしてオペレーションの工夫をしますが、ワンオペは従業員にとって肉体的にも精神的にも、かなりの負担となります。すべてのお客が寛容的に対応を待ってくれるわけではなく、入店してきたばかりのお客はそのときに店内の状況がどうなっているか分かりません。お腹の調子が悪い時にはトイレに行きたくなったり、お客から質問やクレームがあったり、電話が鳴ったり、トラブルやイレギュラーなことも起きます。

 業務に慣れてきても、慣れたがゆえに「あれをして、これをして」と頭の中で描くストーリーがあり、一度に多くのことを抱え精神的な負担も増えます。きっと今回倒れた方も優秀であるがゆえに他の店舗から掛け持ちの要請があったり、ワンオペで対応し続けようとして、肉体的・精神的な負担が蓄積してしまったのでしょう。

2.人材不足

 また、「人材不足」もワンオペになっている原因でしょう。コロナ禍を挟んで、特に最近の求人への応募状況は悪く、私のクライアントや知人のお店の求人をみても、コロナ前は求人を打つと100人応募があったお店でも、20人くらいの応募に減少しているところがあったり、応募がまったく来ないお店もあります。日払いのスポット求人サイトの応募状況をみても、コロナ前は1日10人くらいの応募があったお店が、1~2人応募があればいいほうというケースも出ています。

 求人募集への反応が急激に下がった原因として、コロナ禍によって解雇されたり、先々への不安から飲食業界から離脱した人たちが多くいることや、中小企業労働者と大企業のシフト制労働者が対象で休業前の1日当たり平均賃金の80%を支給される「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」の影響も考えられます(2022年6月分まで)。

 コロナ前から飲食業界は慢性的な人手不足だったので、すき家においても人材不足からワンオペを行っていた店舗もあったでしょう。建前上は2人体制としても、急に店員が辞めてしまったり、当日急に店員が来なくなったという事態が生まれると、結局ワンオペとなってしまいますし、こうしたケースは珍しいことではありません。また、同じチェーンの人手が足りない別の店からお願いされてシフトに入るケースもありますが、責任感が強いまじめな人ほど依頼を受けたら断れず、肉体的・精神的な負担がたまっていきます。

 以上より、お客が少なく人材も手薄となる早朝時間帯のワンオペ勤務が行われるわけですが、ワンオペ勤務に問題がないとは言い切れません。企業側は「利益の最大化」のために費用を最小限に抑えるワンオペを実施しているのかもしれませんが、そもそも「ワンオペでなければ利益をあげられない」という「従業員の健康を代償に収益を求めるビジネスモデル」には根本的な無理があります。今回の事故は偶然かもしれませんが、必然的に起こった可能性もあります。

 人命にかかわることだけに「数年に1度しか起こらないから問題なし」というわけにはいきません。1日だけの肉体的・精神的な負担なら、なんとか凌げるとしても、恒常的な負担はその人のなかに蓄積されていきます。働く人が継続的に圧迫を受けていれば、いつでも問題が起こり得ます。お客から一度に多くのことを言われたり、時間内にやらなくてはならないことが多くあり、その状態が継続すると、軽度のパニックになったり、精神的な苦痛から逃げ出してしまうこともあります。

3.「やってる感」

 すき家の発表には、

・ワンオペは深夜帯で禁止しているが、朝帯(5~9時)には一部店舗でワンオペ勤務は行われている。

・不測の事態が起きた場合に備えて「ワイヤレス非常ボタン」を常時装着し、本部とすぐに連絡を取れるように指導している

・防犯カメラは設置している

・健康診断受診を薦めている

・労働時間は法定の労働時間内であり、過剰な無理をしていた事実はない

とあります。

 しかし、

・深夜のワンオペは禁止しているのに、なぜ朝帯は問題がないとしてワンオペを実施していたのか? 

・ワイヤレス非常ボタンを装着していたとして、意識を失った人が押すことは可能なのか? 

・今回は店の入り口や客席からは見えない奥まった場所で倒れていたとのことだが、ワンオペ前提の時間帯に店内全体の様子を把握できる監視カメラを設置して、本部が監視していなかったのか? 事後的な記録を残すためというカメラの使用方法でいいのか?

・時間が法定時間に収まっていれば「過剰な無理をしていた事実はない」と言い切れるのか? ワンオペによる肉体的・精神的な負担は考慮されないのか?

など、いろいろ疑問点があります。建前的な「やってる感」でなく「なぜ、それをやるのか?」「問題点はないのか?」などと疑問を持つ必要があったと思います。疑問を感じたり改善を加えたりすることがなかったことも、今回の原因の1つとも思えます。

「現場の声」に答えがある

 最後に、すき家が打ち出した再発防止策ですが、「すき家の経営方針として、本年6月30日までに全店の朝帯(5時~9時)で複数勤務とすることを決定しました」と発表されています。今回の「倒れていたのに誰も気づかなかった」という事件はワンオペに起因するものなので、複数人による勤務体制によって“とりあえず”は問題が解消されることと思います。

 しかし、2014年10月に深夜のワンオペ廃止を宣言して複数勤務体制を確立したはずのすき家で再びワンオペによる悲劇が起きているわけです。今後は、常に現場の声に耳を傾けて真摯に対応・改善していくことが大事になります。従業員やお客の声をうまく経営に反映させることができれば、従業員のやる気や顧客満足が向上して、企業にも売上となって還元されることでしょう。

 今回の事件について、すき家が「店舗へのヒアリングを進めていく中で、一部会社で把握していない事実がありました」と発表しているように、「定期的に」「本気で」現場の声を吸い上げないと、また違ったかたちで今回と同様のことが起こってしまうかもしれません。「現場の声」に、未然にトラブルを防止したり、売上増加につながる答えがあるはずです。それを活かすことができるか否かに、すき家の今後がかかっていると思います。

山岸弁護士の見解

 ゼンショーHDは「文春」の取材に対し、今回亡くなった女性店員が、勤務中の装着が義務付けられている本部への緊急通報用の「ワイヤレス非常ボタン」を装着しておらず、従業員向け健康診断を通知していたにもかかわらず受診していなかったと説明。そして「直前の労働時間は法定の労働時間内であり、過剰な無理をされていた事実はありません」としているが、山岸純法律事務所の山岸純弁護士は次のように解説する。

「刑事罰が科されるということはないでしょうが、厚生労働省は、月100時間、または過去2~6カ月の間に80時間(月)を超えるような残業は、健康障害リスクがあると発表しておりますし、このような場合、過労死として、労災認定する可能性が高くなります。

 親会社や運営会社も、数年前から”ワンオペ”の問題点を、くだんの強盗事件などで把握していたにもかかわらず、現場のオペレーション状況をわかっていて放置していたのでしょうから、いわば労働災害としても悪質です。労災は、国の制度として補償を受けるものですが、これとは別に運営会社等に対する責任追及のための法的手続きも必須でしょう」

(協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表、山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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