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松屋「新手の値上げ」か…ランチセット時間短縮&玉子なくし微妙な値下げ、苦肉の策

文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表
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松屋の公式サイトより

 牛丼チェーン「松屋」は昨日(19日)に一部商品の値上げを行い、本日(20日)からはランチセットの提供終了を従来の15時から14時に前倒しして1時間短縮。また、「牛めしランチセット(並盛)」を550円(税込み/以下同)から500円へ50円値下げしたものの、単品注文では80円の玉子がセットから省かれたため、事実上の値上げではないかという声も出ている。なぜ松屋は価格改定とメニュー構成の変更、そしてランチセット提供時間の短縮を行ったのか。そこから透ける外食業界が今置かれた状況について、専門家の見解も交えて追ってみたい。

 原材料価格やエネルギーコスト、人件費の上昇を受けて外食業界で値上げの動きが続くなか、牛丼チェーンも例外ではない。昨年5月、10月、今年3月に続きこの1年半で4回目の値上げを今回行った松屋。前回3月の改定では主力メニューである「牛めし(並盛)」を380円から400円に値上げし、400円台に乗ったことが話題となったが、今回の改定では「チーズ牛めし(並盛)」は570円から590円に、「チーズデミグラスソースハンバーグ定食」は980円から990円に、朝定食の「焼鮭朝定食」は590円から630円に、ランチセットの「ネギたま牛めしランチセット(並盛)」は600円から630円に値上げとなっている。

 ちなみに20日現在の牛丼チェーン各社の「牛丼」「牛めし」並盛の価格を比較してみると、松屋と「すき家」がともに400円なのに対し、「吉野家」は448円と頭一つ分、高くなっている。

「松屋で最近話題になったのが、『松屋ビーフカレー』の100円値下げと味のリニューアルだが、新しい味に対しては長年の松屋カレーファンからは厳しい声も聞かれる。今回の『牛めしランチセット』の価格変更についていえば、単品では80円の玉子を省いて、値下げ幅は50円なので、この金額だけみれば事実上の値上げだが、一方で牛丼にサラダと味噌汁が付いたセットが500円で食べられることになるので、うれしいと受け止めるお客もいるだろう。

 価格改定の一方でランチの提供時間を短縮するというのは、『松屋も考えたものだな』というのが正直な感想。昨年7月からは最大で70円お得なランチセットを17時まで提供していた松屋だが、その後は15時までに変更し、今回はさらに1時間前倒しとなる。通常より割安なランチの提供時間が短くなれば、顧客側とすれば、その分、安く食べられる機会が減ることになり、『新手の値上げ』といえなくもない。価格改定とメニュー構成での品数減、ランチ時間短縮の合わせ技を繰り出してきたところに、できるだけお客に値上げ感を与えないようにしつつコストを抑制しようとする松屋の苦労と努力がみえる」(外食チェーン関係者)

値上げと感じるお客も値下げと感じるお客もいる

 今回の松屋の動きの背景について、自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。

「お昼休みの時間が1時間だとすると、実際に飲食店に滞在する時間は30分ほどになり、飲食店側はこれを基準として、できるだけ料理を早く提供することを心がけています。これは、お店にとってお客の回転率を上げる=売上を増やすための重要な要素であり、提供時間の短縮には『手数を減らす』というオペレーションも関わってきます。今回の松屋のメニュー変更には、このあたりの事情もありそうです。

 飲食店は手数を減らすために仕込みを工夫し、ランチ営業時間中の調理をできるだけ省略しようとします。お客さんのテーブルに行く回数を減らすためにワンプレート形式にしたり、すべての料理を一つのお盆に乗せたり、テーブルにお替わり用の水を用意したりします。松屋は玉子をランチセットから外し、手数を減らしたので、今までと同じ金額だとお客さんから不満が出てしまいます。玉子を省いた分だけ価格が下がると思われがちですが、丸々80円を下げるわけにはいきません。これまではセットとして半強制的に玉子を付けて価格を上げていたので、その半強制性をなくす代わりに『少しだけ割引する』という発想だったのかもしれません。玉子が欲しい人は単品で追加するので、客単価アップにつながります。玉子が欲しい人からすれば実質値上げとなってしまいますが、玉子がなくてもかまわない人は値下げと感じるでしょう。

 松屋の『価格改定のお知らせ』を見ると、『牛めしランチセット』以外は値上げされており、全体的な値上げという負のイメージだけを持たれないように、看板メニューの『牛めしランチセット』の価格を下げたのかもしれません。需要が多いメニューを安く見せることは戦略的にも重要であり、集客につながります」

崩れた「ランチの1000円の壁」

 お客にとってお得とされるランチだが、飲食店にとっては負担が大きかったり、利幅が少なかったりするものなのか。

「飲食店の収益構造としては、材料費率の目安は30~35%くらいです。材料費率が低いと、お客さんからは割高に感じられてしまうこともあるので、材料費率が低ければいいというわけでもありません。よく『ランチは儲からない』といわれますが、それは材料費でなく人件費が原因です。ある店のランチの客単価が1000円、夜の客単価が5000円だとして、ランチ時のスタッフの時給と人数は5分の1にはなりません。裏を返せば、昼と夜の客単価が同じお店だと、安定的な需要があるランチは儲かる可能性が高まります。松屋のようなチェーン店は昼も夜も客単価はさほど変わらないため、ランチタイムは稼ぎ時です。なので店側はお客の回転率を上げるために作業効率とオペレーションの向上を絶えず意識しています」(同)

 では現在のコスト上昇の波に、飲食店はどのように対応しているのだろうか。

「現在、飲食業界は『絶賛値上げ中』といえる状況です。値上げをしたらお客さんが離れてしまうから上げられないという飲食店もありますが、自分たちの料理やサービスに自信を持っているなら上げたほうがいいでしょう。ただし、単純な値上げではお客さんは離れてしまうので、値上げをきっかけに材料やサービスの品質を改めてチェックすることも必要です。限られた予算のなかでありきたりな料理や妥協した料理を提供するより、多少価格が上がってもおいしいものが食べたい、普段は家で食べないようなものが食べたいというお客さんをターゲットにしたほうがいいのではないでしょうか。

 値上げの影響で『ランチの1000円の壁』は最近、壊れつつあり、1200~1500円のランチが増えています。お店としていきなり値上げするのが怖い場合、1000円のランチは据え置きにして、1200円、1500円のランチを提供するという手もあります。あらゆるコスト上昇が続く限り、値上げは続くでしょう。そのようななか、税金や社会保険料の負担増加で多くの人の財布の紐が堅くなる一方、お金を出してでもおいしいものを食べたいという人も少なくなく、二極化の流れが続くと考えられます」(同)

(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)

江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部(株)代表

江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部(株)代表

東京未来倶楽部(株)代表
5年間大手信託銀行のファンドマネージャーとして勤務後、1998年独立。14年間、夜は直営店(新宿20坪30席)ダイニングバーの現場に出続けながら、昼間、プロデューサー・コンサル業。コンサル先の増加と好業績先の次の展開のため、2012年5月からプロデューサー・コンサル業に専念。
「数字(経営者側)と現場(スタッフ・オペレーション)の融合」「各種アイデア・提案」が得意。また、現場とのメニュー開発等、自称<「実践」料理研究家>。
・著書:『ランチは儲からない、飲み放題は儲かる』『とりあえず生!が儲かるワケ』『ド素人OLが飲食店を開業しちゃダメですか?』

Instagram:@masakazuema

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