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サイゼリヤ、ダサい&手入力のモバイルオーダーが「最高のUI」といえる理由

文=Business Journal編集部、協力=小林敬明/TransRecog代表
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サイゼリヤの「ソーセージピザ」

 イタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」が、セルフ式のモバイルオーダーを導入した店舗を増やしている。チェーン店で一般的なスマホアプリやタッチパネル端末のメニュー画面から選択する形態ではなく、客がテーブルに置かれた紙のメニューを見て、注文したい料理のコード(数字4桁)をスマホアプリ上に手入力するという“少しアナログ的”な形態。一見すると手間がかかって面倒に思えるが、SNS上では

<「顧客が本当に必要だったもの」の典型的な例>

<最高のUX>

<大きなメニューブックから探すほうが楽>

など歓迎の声が目立つ。このUIをどう評価するのか。また、なぜサイゼリヤはあえてアナログな部分を残し、さらに客に手間をかけさせる仕様にしたのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 国内に1055店舗、海外に485店舗(2023年8月期)を展開するサイゼリヤ。人気チェーンだけに何かと話題になることも多い。原材料費の高騰を受けて外食チェーン各社が相次ぎ値上げに動くなかで値上げをしない方針を打ち出すなど、消費者に寄り添う姿勢を示し、消費者から好感を持たれている。多くのファンに「衝撃」を与えたのが、昨年7月に発表された粉チーズ(グランモラビア)の無料提供の終了だった。その後はマイナスの出来事が相次ぐ。11月、店舗で提供したサラダにカエルが混入する事案が発生。12月には、ある店舗が子どもが2~3秒ほど泣いた家族客に対して「騒いだら退店となります」と警告していたことがわかり、ネットニュースなどでも大きく取り上げられる事態に。2月には人気メニュー「イカの墨入りスパゲッティ」の真っ黒だったソースがセピア色に変更され「イカの墨入りセピアソース」にリニューアルされ話題を呼んだ。

 サイゼリヤの最大の強みといえば、圧倒的な価格の安さだ。300円(税込み/以下同)の「辛味チキン」や「ミラノ風ドリア」、400円の「ミートソースボロニア風」、200円の「フレッシュワイン(デカンタ250ml)」など客の財布に優しいメニューばかり。クオリティや安全・品質管理へのこだわりも強い。ワインやスパゲッティ、オリーブオイル、プロシュート、チーズなどはイタリアの現地メーカーや農場から直接買い入れ、ハウスワインはサイゼリヤ専用のタンクで発酵・熟成。また、素材の開発・生産・加工などすべての工程に踏み入ることで安全・品質向上を図っており、自社農場で種や土壌・栽培方法を開発研究したり、ハンバーグとミラノ風ドリアの専用工場をオーストラリアに設けるほど。レタスについては自社で種の品種改良まで手掛け、一玉でたくさんのサラダ分の葉を賄える大玉でかつ日本人好みの食感のレタスを生産している。

あえて「フルデジタル化」を避ける

 そんなサイゼリヤの大きな変化が注目されている。これまでサイゼリヤでは、客が紙のメニューを見て注文内容を紙に記入して店員に渡すというアナログな注文方式を採用していたが、QRコードをスマホで読み取るモバイルオーダー方式への切り替えを段階的に進めている。ちなみにモバイルオーダー方式を導入済みの店舗であっても、店員に口頭で注文することが可能だ。

 実はサイゼリヤはかつて、携帯端末を使った注文方式を導入していたことがある。2012年には既存の注文端末に加えて、アップルの携帯プレーヤー「iPod touch」に専用アプリを組み込んだ注文端末を導入。その後は店員がテーブルで注文を取る形態が主流となったが、20年には各テーブルに置かれた注文用紙に客がメニューを記入してホール店員に渡し、店員が端末に入力するという方式となっている。

 今回サイゼリヤで導入されているモバイルオーダーはどのような方式なのか。各テーブルにはテーブル番号とQRコードが印字されたプレートが設置されており、客はスマホでQRコードを読み取ると、スマホに注文用画面が表示される。利用人数や紙のメニュー表に書かれた各料理のコード(数字4桁)を入力し「注文かご」に入れていき、注文ボタンを押すと、料理が運ばれてくる。画面上には「追加注文」「店員呼出」というボタンもあり、追加での注文なども可能。食事が終了したら「会計する」を押し、スマホ画面に表示されるQRコードをレジで提示、店員が機械でそれを読み取って支払いに進むという流れだ。

「フルデジタル化」ではなく紙のメニューの確認と手入力が残るが、SNS上では以下のようにプラスの評価が目立つ。

<タブレットで注文したい商品探す方が面倒(しかも検索機能もない)なので、こっちの方がありがたい>

<リッチなUIのモバイルオーダーアプリは、視覚情報メインでわかりやすさを追求している代償として、1つの商品を選択するのに何回も画面遷移させられる傾向にあるから、対極的なこの攻めたUIを採用したのは興味深い>

<スマホ内メニューが見づらくてストレス溜まる店の方が圧倒的に多い>

システム投資費用を抑制

 PDFツール「AxelaNote」を開発・販売するTransRecog代表の小林敬明氏はいう。

「一見すると『素っ気ない』『ダサい』という印象を抱くかもしれませんが、非常に画面構成がシンプルで使いやすく、UI的に優れていると評価できます。デザインを見る限り、おそらくデザイナーがデザインしたものではないと思われ、社内で顧客のユーザビリティーをとことん突き詰めた結果として、このようなUIになったのではないでしょうか。一般的な飲食店チェーンでは、料理の写真が並ぶメニュー画面上から選択するかたちですが、サイゼリヤはかなり振り切ったUIになっているといえます。もともとサイゼリヤは紙のメニューから料理を選んで客自身が紙のオーダー票にコードを記入するという形態だったため、それがスマホ入力に切り替わるだけなので、お客もすんなりと移行しやすいという面もあるでしょう。

 テーブルに備え付けのテーブル番号と注文用のQRコードが表示されたプレートは、主流の液晶画面ではなく電子ペーパーになっていますが、液晶画面だと見るヒトの方向によって見えにくくなることがあるというデメリットを回避するためだと思われます。

 また、このような方式にすることによってシステム投資費用を抑制し、今後のメンテナンスもしやすくなっていると感じます。現在の形態が完成形ではなく、今後改良を重ねて進化させていくのではないでしょうか」

成熟化・コモディティ化してから導入

 サイゼリヤ元社長の堀埜一成氏は著書『サイゼリヤ元社長が教える 年間客数2億人の経営術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)のなかで、システム投資について次のように綴っている。

「情報を一元管理し、必要な数値をいつでも参照できるデータウェアハウスをつくることにしました。部門ごとに、求める成果は何で、それを測るためにはどんな数字が必要か、ものすごく時間をかけて議論しました。外部のシステム会社に丸投げして、適当に現場をヒヤリングしてもらってつくる、という方法を採らなかったのは正解でした」

「まわりがタッチパネルを導入しているからといって、それに追随しているだけでは、いずれはシステム開発コストを吸収しきれなくなって、値上げしなければいけなくなる。それではコストリーダーシップは維持できません」

 今回のモバイルオーダーのUIからは、同社の経営戦略の特徴が読み取れると前出・小林氏はいう。

「同社は最新技術をすぐに導入するのではなく、ある程度、成熟化・コモディティ化してから導入するという姿勢を持っており、例えば会計におけるQRコード決済への対応では、読み取り用端末上の決済サービスが数種類に集約されてから導入しました。モバイルオーダーも業界内で普及してきたところで導入しており、さまざまな選択肢を比較してどのような形態がより優れているのかを検証しつつ、コストを最小限に抑えることにつながっていると考えられます。このほか、同社は自社のノウハウを論文にまとめて世間に公表するなど、ユニークな取り組みも注目に値します」

(文=Business Journal編集部、協力=小林敬明/TransRecog代表)

小林敬明/TransRecog代表

小林敬明/TransRecog代表

東京理科大学理学部応用数学科卒業。首都大学東京大学大学院(現東京都立大学大学院)社会科学研究科経営学専攻(MBAプログラム)修了。大学在学中にプレイステーション用ソフト「アランドラ」(株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントシステム)の開発にプログラマとして参加。卒業後、株式会社日立製作所、マイクロソフト株式会社、丸紅情報システムズ株式会社に所属しシステムエンジニア、プロジェクトマネージャとして官公庁、金融機関向けシステム、アプリケーションの開発に従事。2017年11月より現職。メンサ会員。
TransRecogの公式サイト

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