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世界シェア5割の絶対王者ソニー、なぜTSMCと合弁?熊本1兆円プロジェクトの深意

2026.08.14 05:55 2026.08.13 22:29 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/半導体アナリスト・経済コンサルタント

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●この記事のポイント
ソニーとTSMCは2026年8月11日、次世代イメージセンサー量産に向けた合弁会社「Advanced Vision Semiconductor Manufacturing」設立の確定契約を締結。熊本県合志市を拠点に、出資総額約7470億円で2029年量産開始。世界シェア約49.5%のソニーが車載・AI向け需要拡大に備え、TSMCの先端製造技術と組む狙いを解説する。

 ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)と台湾積体電路製造(TSMC)は8月11日、次世代イメージセンサーの量産に向けた合弁会社「Advanced Vision Semiconductor Manufacturing」の設立に関する確定契約を締結したと発表した。拠点は熊本県合志市。出資比率はソニー側が約6割(約4650億円)、TSMCが約4割(約2820億円)で、合計出資額は約7470億円。日本政府の支援を前提とした資金計画も検討されており、総投資額は将来的に1兆円規模に達する見通しだ。量産開始は2029年を予定している。

 両社はすでに5月に基本合意(MOU)を締結しており、今回はそれを法的拘束力のある確定契約へと発展させた形になる。AI(人工知能)といえばエヌビディアのGPU――いわば「AIの脳」――に注目が集まりがちだが、その裏でカメラセンサー、すなわち「AIの目」をめぐる競争環境も静かに、しかし着実に動いている。

●目次

なぜ今、「目」が重要なのか

 生成AIブームの主戦場はこれまでクラウド上の演算処理、つまり「脳」の性能競争だった。だが自動運転車や産業用ロボット、監視カメラといった現実世界で動く機器にとっては、演算能力だけでは不十分だ。クラウドにデータを送って判断を仰いでいては、衝突回避のような即時性が求められる場面に間に合わない。

 そこで重要になるのが、光を電気信号に変換し、その場で高度な処理まで担う「考えるセンサー」だ。ソニーは画素部分と信号処理回路を積層する「積層型CMOSイメージセンサー」の量産化にいち早く成功しており、この技術的優位が同社の競争力の源泉になっている。

 経済産業省が各社への聞き取りをもとに推計したデータによれば、2024年時点のイメージセンサー世界シェアはソニーが約49.5%で首位、韓国サムスンが14.5%、オムニビジョン(中国系)が12.0%で続き、上位3社で76.0%を占める寡占市場となっている。ソニーが約半分を占める構造は変わっていないが、サムスンの追い上げや中国メーカーの存在感拡大は、業界の緊張感を高める材料となっている。

「イメージセンサーはスマートフォン向けだけを見ていれば済む部品ではなくなった。車載やロボティクス向けの需要が本格的に立ち上がる中で、微細化技術と量産能力をどう確保するかが各社の分水嶺になっている」(半導体アナリストで経済コンサルタントの岩井裕介氏)

なぜTSMCなのか――「自前主義」からの転換

 ソニーはこれまでセンサー素子の設計・製造からロジック回路の一部までを自社グループで手がけてきたが、積層型センサーのロジック部分については、すでにTSMCの製造技術を部分的に活用してきた経緯がある。今回の合弁会社設立は、この分業関係を制度化し、設備投資や生産リスクを両社で分担する枠組みへと発展させたものだ。

 背景には、最先端の微細化プロセスを自社ファブだけで維持することの投資リスクの大きさがある。半導体の先端プロセスへの投資は一件あたり数千億円規模に達することが珍しくなく、需要変動リスクを一社で抱え込むことは経営上の負担が大きい。ソニー幹部は2026年7月の決算説明会で、確定契約に向けた協議が順調に進んでいると説明しており、経営陣としても計画的にこの提携を進めてきたことがうかがえる。

 TSMC側にとっても、成長市場であるイメージセンサー分野で世界最大手のソニーと組むことは、半導体受託製造(ファウンドリ)事業の裾野を広げる意味を持つ。両社の思惑が一致した結果としての提携と見るのが妥当だろう。

「ソニー単独での投資拡大には限界がある。TSMCの製造キャパシティと歩留まり管理のノウハウを取り込むことで、需要が急拡大する車載・産業用途に対して、量とスピードの両面で対応力を高める狙いがあるとみられる」(同)

車載・ロボティクス市場という新たな成長領域

 ソニーセミコンダクタソリューションズは、車載用イメージセンサーの金額シェアについて2026年度(2027年3月期)までに43%の達成を目標に掲げている。同社の試算では、2019年度を100とした場合、車内監視用途を除く200万画素以上の車載用イメージセンサー市場は2030年度までに約720%の成長が見込まれるという。また、1台の自動車に搭載されるセンサー数も、現在の平均3.5個から2031年3月期には6.5個へと増加すると見込んでいる。

 自動運転支援システム(ADAS)の高度化やNEV(新エネルギー車)の普及が進む中国市場での需要拡大が、こうした成長を後押ししている。ソニー株の投資家向け説明会では、2027年3月期までに世界の主要自動車メーカーの9割で同社製の車載CMOSセンサーが採用される見通しであることも明らかにされている。

 センサー事業を含む「イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)」セグメントは、2024年度(2025年3月期)に売上高1兆7990億円、営業利益2611億円を計上し、いずれも過去最高を更新した。スマートフォン向け需要の伸び鈍化が指摘される一方で、車載・産業用途への展開が業績を下支えする構図が見えつつある。

競合との距離、地政学的な意味合い

 サムスン電子は自社で設計から製造までを一貫して手がける「IDM(垂直統合型デバイスメーカー)」の強みを持つが、先端プロセスの微細化競争でTSMCの技術力に依存せざるを得ないソニー・TSMC連合とは異なる立ち位置にある。東洋経済オンラインが2025年11月に報じたところによれば、サムスンの追い上げや車載分野への挑戦は、ソニーの半導体事業にとって新たな課題として認識されている。

 また、熊本を拠点とする日台の半導体連携は、経済安全保障の観点からも注目されている。米中対立が続くなか、AIやロボティクス、自動運転に不可欠な基幹部品の供給網を、日本・台湾・米国など同志国の枠組みの中で確保する動きの一環として位置づけることができる。ただし、これはあくまで両社の事業判断に基づく提携であり、特定国の企業を排除することを直接の目的として発表されたものではない点には留意が必要だ。

完成品から基幹部品へ、日本企業の生き残り戦略

 スマートフォンやPCといった「完成品」の世界市場では、日本企業は米国のGAFAMや中国・韓国メーカーとの競争に苦戦してきた歴史がある。それに対しソニーは、AI社会に不可欠な基幹部品――画像センサーという「目」――の領域で世界シェア首位を維持し続けている。

 自前主義に固執せず、世界最大のファウンドリであるTSMCと組むことで製造リスクを分散しつつ、自社の強みであるセンサー設計技術を最大限に生かす。この今回の提携は、単なる一企業の設備投資のニュースにとどまらず、日本の製造業が「部品・素材」という得意領域でどう世界に対峙していくかを考えるうえで、示唆に富む事例だといえるだろう。

 今後の焦点は、2029年の量産開始に向けてどれだけ計画通りに歩留まりと供給能力を確立できるか、そして車載・ロボティクス向け需要の拡大がソニーの想定通りのペースで実現するかにある。楽観、悲観いずれの見方も現時点では時期尚早であり、今後の四半期決算や量産進捗の発表を注視していく必要がある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/半導体アナリスト・経済コンサルタント)

【主な参照データ】
ソニーセミコンダクタソリューションズ ニュースリリース(2026年8月11日)
日本経済新聞(2026年8月11日、8月12日)
CarWatch/Car Watch(ソニーセミコンダクタソリューションズ社長会見、2025年6月)
経済産業省推計によるイメージセンサー世界シェアデータ(2024年)
東洋経済オンライン(2025年11月10日)

BusinessJournal編集部

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公開:2026.08.14 05:55