自動販売機では、なぜ「ストレートティーの缶紅茶」は自動販売機でほとんど見かけなくなったのか。ストレートティーはキリン「午後の紅茶」を筆頭に、サントリー「クラフトボスTEA ノンシュガー」、UCC「紅茶の時間」など大手メーカーから数多くの商品が発売されている。だが、ミルクティーの缶紅茶は一般的だが、ストレートティーの缶紅茶はなかなかお目にかかれない。
よくよく考えてみると、これは不思議な現象だ。コーヒーやジュースなどのドリンクでは缶の商品があるにもかかわらず、なぜ缶のストレートティーは見かける機会が少ないのか。はたまた本当に存在するのか、また販売されていたとしても、なぜあまり見かけないのかと、疑問は膨らむばかりだ。そこで今回は清涼飲料水研究家の久須美雅士氏に、缶紅茶の謎について聞いた。
過去には発売されていたものの2つの理由で姿を消した
まず、ストレートティーの缶紅茶が発売されたことはあるのだろうか。
「はい、ありました。一番メジャーな商品ですと、やはりキリン『午後の紅茶』でしょう。1986年にペットボトルの商品として誕生した本品は、88年にストレートティーの缶タイプが発売されており、今でもたまに自動販売機で並ぶこともあります。ほかにも、レモンティーにはなりますが、サンガリアから『グランティーレモンティー』の缶が発売されていますね。
また90年代前半には、午後の紅茶のヒットを受けて、他社メーカーからも紅茶商品がリリースされ、缶タイプのストレートティーがいくつか登場しました。92年にアサヒ『ティークオリティ』、1993年にサントリー『ピコー』が発売されており、ホットな市場になっていましたが、95年を過ぎると午後の紅茶一強となり、ほかのメーカーは撤退。以来、大手メーカーのなかで純粋な缶ストレートティーとなると、午後の紅茶がもっともメジャーな存在になっています」(久須美氏)
数こそ少ないものの、市場のトップシェアを誇る午後の紅茶が缶紅茶を発売しているのは納得だが、いずれにしても現在は缶紅茶の存在感の薄さは否めない。久須美氏の話によれば、90年代中盤にはすでに缶紅茶は消え去りつつあったそうだが、なぜだろう。
「紅茶のライバルが増えてしまった、というのが要因のひとつかと思われます。90年代初めに緑茶やミネラルウォーターの市場が拡大して、消費者の間で普及が進みました。紅茶というと、日本人にとってはクセのある味わいですし、あまり馴染みのない飲み物でしたので、やはり親しまれてきた緑茶などにニーズが傾くのは、当然の流れといえるでしょう。
また96年から今ではすっかりとお馴染みになった500mlの小型ペットボトルが普及し始めたのです。これにより缶へのニーズが徐々に低下したことも大きな要因となりました。そして2010年代初頭からじわじわと飲料用缶の生産量は減り続けており、今後もこの傾向が続くと思われます」(同)
缶であるがゆえに缶紅茶は撤退せざるを得なかった
ストレートティーの缶紅茶が消えてしまった理由は、ほかにもあるという。
「缶とはそもそも短時間に飲みきってしまう“飲み切り”を想定した容器であり、持ち運びや長期携帯には不向きなものです。ですが紅茶は、一気飲みするのではなく、お菓子のお供や、仕事が一段落付いたときに飲むなど時間をかけて嗜む飲み物です。ですから本来であれば、缶とは相容れない特徴を持っています。ミルクティーならまだしも、ストレートティーは、すっきりとした味わいですし、ガバガバと飲むことは考えづらい。加えて、紅茶は若い女性をターゲットにすることが多いので、なおさら飲みきることは想定しづらいんです。
缶紅茶が流行りづらい理由を踏まえると、自動販売機で豊富な種類の缶コーヒーが販売されている理由がわかってきます。缶コーヒーを購入するターゲット層は、主にブルーカラー。カフェインが含まれており、砂糖をふんだんに使用した缶コーヒーは、仕事中の休憩や間食代わりに適しており、身体を動かす労働者にとっては、格好のエネルギー源となります。ミルクティーの紅茶が多い理由も、甘くて飲み応えがあるためです。小容量の缶なので一気に飲みきることができますし、仕事中でも問題ありません」(同)
もっとも、自動販売機は減少していく可能性があるという。
「今後は、ペットボトルや缶の紅茶やコーヒーを購入する人々が減っていくと思われます。『スターバックス』やコンビニで入れたてのコーヒーを注文したりと、できたての味を好む機運が高まりつつあるからです。ドリンクに対する消費者の考え方が変化してきているのでしょう。
またコロナ禍で外出規制が設けられましたから、街中では自動販売機を撤去する流れもありました。水筒やタンブラーを持ち歩いて外出する人も増えてきましたし、自動販売機はこのまま数を減らしていく可能性が高いでしょう」(同)
自動販売機が減りつつあるのであれば、自動販売機でストレートティーの缶紅茶にお目にかかれる機会はさらに減るということ。もし見かけた際は記録として写真を撮っておくのもいいかもしれない。
(取材・文=逢ヶ瀬十吾・文月/A4studio、協力=久須美雅士/清涼飲料水研究家)