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賃料12%上昇・建築費高止まりの時代…中小企業は自社の不動産をどう見直すか

2026.09.28 05:55 2026.09.27 20:08 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=村井綾乃/税理士

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●この記事のポイント
土地を所有する会社のうち8割超は資本金3,000万円未満で、都心5区の平均賃料は2026年8月に前年同月比12.46%上昇した。こうしたデータを踏まえ、中堅・中小企業が取り組むCRE(企業不動産)戦略を解説する。物件の棚卸し、3分類、拠点集約や部分賃貸、効果測定の4ステップで進める方法と、原状回復費や事業承継で注意すべき点を扱う。

 自社ビル、工場、倉庫、各地の営業所。中堅・中小企業にとって不動産は、貸借対照表のなかでも存在感の大きい資産だが、取得したあとは長く見直されないことが多い。一方で2026年に入り、都心のオフィス賃料は前年比で1割を超えて上がり、建築費も高い水準が続いている。持ち続けるにせよ手放すにせよ、判断の前提は数年前とは変わった。本稿では、予算も人員も限られる企業が小さく始められるCRE戦略の進め方を、公的統計と実務上の注意点を交えて整理する。

●目次

中堅・中小企業こそ、不動産が経営を左右する

 CRE(Corporate Real Estate=企業不動産)戦略は、国土交通省が2008年にまとめた「CRE戦略を実践するためのガイドライン」で、企業不動産を「企業価値向上」の観点から経営戦略的に見直し、不動産投資の効率性を高めていく考え方だと説明されている。上場企業のIR資料で目にすることが多いため、大企業の話だと受け止められがちだ。

 だが統計を見ると、不動産を抱えているのはむしろ小さな会社だ。国交省の「令和5年法人土地・建物基本調査」によれば、土地を所有する法人は83.5万法人で法人全体の36.5%。そのうち会社法人の8割以上を資本金3,000万円未満の企業が占める。前述のガイドラインも、中小企業経営者の個人資産の約3分の2が自社株式や事業用不動産などの事業用資産で、その約半分が事業用不動産だと指摘している(公表当時の分析)。会社が小さいほど、不動産の扱い一つが財務や事業承継に与える影響は相対的に大きくなる。

 足元の市場環境も変わった。三鬼商事によると、2026年8月の東京ビジネス地区(都心5区)の平均空室率は1.87%。平均賃料は坪2万3,647円で、前年同月比12.46%の上昇だった。建設物価調査会の建築費指数(2015年=100)も、東京の事務所(鉄骨造)が2026年8月分で145.6と2015年を4割以上上回る。借りるにも建てるにも、以前よりお金がかかる局面に入っている。

 何年も契約内容を確かめていない地方拠点や倉庫はないだろうか。社員数や働き方が変わったのに、床面積だけが昔のままになっていないだろうか。見直しは、まずこうした問いから始まる。

中堅・中小企業が抱えがちな3つの課題

1.老朽化した自社物件の修繕負担と、事業承継への影響

 同調査では、法人が所有する建物のうち1980年(昭和55年)以前に建てられたものが件数ベースで23.7%ある。旧耐震基準の時代の建物だ。耐震診断や設備更新など、まとまった支出はいずれ発生する。建築費が上がっているいま、先送りするほど負担が重くなる可能性は高い。

 事業承継との関係も見落とせない。非上場株式を相続・贈与する際、会社が持つ土地・建物の評価額は株価の算定に反映される。含み益の大きい不動産があれば、後継者の税負担や相続人間の分け方にも影響する。帝国データバンクによれば、2025年の社長の平均年齢は60.8歳で35年連続で上昇し、中小企業の後継者不在率は51.2%だった。承継を控えた会社にとって、不動産の整理は後回しにしにくいテーマだ。

「承継の相談で自社株を試算してみると、本業の利益よりも本社の土地が株価を押し上げているケースは珍しくありません。不動産をどうするか決めないまま対策を進めると、途中で前提が崩れてしまいます。承継の5年、10年前から、不動産も含めて検討しておくべきです」(税理士・村井綾乃氏)

2.働き方が変わっても残り続ける営業所・支店

 オンライン商談が当たり前になった一方で、各地の小規模拠点が「以前からあるから」という理由で維持されている例は少なくない。ただし、出社をめぐる流れは一方向ではない。パーソル総合研究所の2026年7月の調査では、正社員のテレワーク実施率は21.4%で緩やかな減少が続き、「原則出社」は24.6%と2年連続で増えた。拠点を減らすか残すかは、世の中の風潮ではなく、自社の業務実態で決めるしかない。

3.採用で不利になるオフィス環境

 築年数の古いオフィスや、空調・トイレなどの設備が更新されていない職場は、会社見学や面接で応募者の印象に影響する。給与や仕事内容と並んで、働く場所も比較されていると考えたほうがいい。

CRE戦略を進める4つのステップ

ステップ1:保有・賃借物件を一覧にする

 所有物件(本社ビル、工場、倉庫、土地、社宅など)と賃借物件を、すべて一つの表にまとめる。項目は所在地、面積、築年数、耐震性、簿価と時価の目安、年間の維持費または賃料、契約更新や解約予告の期限、実際の利用率。所有物件は経理の固定資産台帳、賃借物件は総務の契約書と、情報が部署ごとに分かれていることが多い。一か所に集めるだけでも意味がある。

「最初の棚卸しで完璧を目指す必要はありません。一覧をつくると、物置きになっている区画や、誰も更新時期を把握していない契約がたいてい見つかります。そこから手を付ければ、外部に費用を払わなくても最初の成果は出ます」(不動産コンサルタント・秋田智樹氏)

ステップ2:拠点ごとに役割を決め、3つに分ける

一覧ができたら、事業戦略と照らし合わせて各物件を分類する。

コア資産:生産設備や研究施設など、事業に欠かせず代わりが利きにくいもの。維持したうえで耐震・省エネなどに投資する
見直し対象:稼働率の低い営業所、事務作業だけの拠点など。集約、解約、別の形態への切り替えを検討する
活用余地のある資産:空きフロアのある自社ビル、遊休地など。部分賃貸や売却を検討する

 ここでは「いま使っているか」だけでなく、「5年後も必要か」を問う。同調査では、法人が持つ低・未利用地のうち7割超が5年前から使われていない土地だった。一度「使わない」状態になった不動産は、意識して手を打たない限りそのまま残りやすい。

ステップ3:費用対効果の大きい施策から手を付ける

 中堅・中小企業が取り組みやすい方法は主に3つある。

 一つ目は、拠点の集約とシェアオフィスの活用だ。小規模な営業所を解約し、必要な地域ではコワーキングスペースやサテライトオフィスの月額契約に切り替えれば、固定費の一部を変動費に近づけられる。ただし都心部は賃料の上昇局面にあり、手放した立地を同じ条件で借り直せるとは限らない。解約は「戻れないかもしれない」前提で判断したい。

 二つ目は、自社ビルの部分賃貸や売却。空いたフロアを他社に貸せば賃料収入が入る。売却して必要な部分だけを借り戻す「セール・アンド・リースバック」はまとまった資金を得られるが、売却益への課税、借り戻した後の賃料や契約期間、賃料改定の条件は事前に試算しておく必要がある。なお、上場企業や会社法上の大会社などには2027年4月1日以後に始まる事業年度から新リース会計基準が強制適用され、オフィスの賃借も原則として貸借対照表に計上される。該当する中堅企業では、「借りれば貸借対照表が軽くなる」という従来の見え方が変わる点にも注意したい。

 三つ目は、セットアップオフィス(内装付き物件)や居抜き物件の活用だ。入居時の内装工事費や準備期間を抑えやすい。その分賃料が割高に設定されることもあるので、契約期間全体の総額で比べる。

ステップ4:効果を測り、見直しを続ける

財務面では、年間固定費の削減額、売却で確保した資金、将来の修繕予定額の変化を追う。人事・組織面では、採用の応募数や内定承諾率、社員アンケートの結果などを見る。当たり前のことだが、実施前の数字を記録しておかないと効果は測れない。年に一度は一覧表を更新し、分類を見直す仕組みにしておきたい。

陥りやすい3つの落とし穴

1. 「創業の地だから」という思い入れ

 自社ビルや創業の地への思いは、社員の誇りにもつながるものだ。ただ、判断の根拠がそれだけになると、修繕費や他の使い道を選ばなかったことによる損失が見えにくくなる。残すなら、残す理由を数字で説明できる状態にしておきたい。

2. 原状回復費用と解約予告期間の見落とし

 事業用の賃貸借契約では、解約予告を6カ月前と定める例が多い。原状回復の範囲や、工事業者がビル側の指定かどうかによっても費用は大きく変わる。移転を決める前に契約書を読み直し、見積もりを取っておく。この順番を逆にすると、想定していた削減効果が初年度で消えることもある。

3. 社内への説明不足

 拠点の統合やフリーアドレス化を突然発表すると、現場の反発を招きやすい。

「オフィスを変える目的がコスト削減だけに見えると、社員は何かを取り上げられると受け止めます。どんな働き方を目指すのか、なぜこの形なのかを先に伝えて、一部の部署で試してから広げる。この順番を守るだけでも、反応はかなり違ってきます」(人事・労務コンサルタント・松本祐樹氏)

できるところから、数字で決める

 中堅・中小企業のCRE戦略は、大規模な資産の流動化を目指すものではない。使っていない区画を解消する。更新が近い契約を見直す。承継の前に不動産の扱いを決めておく。そうした判断の積み重ねが、財務にも組織にも効いてくる。

 賃料も建築費も上がっているいまは、「借りる」にも「持つ」にもコストがかかる。どちらが正解かは会社ごとに異なるからこそ、一覧にして役割を決め、数字で比べるという基本の手順がこれまで以上に意味を持つ。浮いた固定費や得た資金を、人材や本業の設備にどう振り向けるか。そこまで描けたとき、不動産の見直しは経営戦略の一部になる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=村井綾乃/税理士)

【主な参照データ・出典】
国土交通省「CRE戦略を実践するためのガイドライン」(2008年)
国土交通省「令和5年法人土地・建物基本調査 結果の概要」(2025年9月30日)
三鬼商事「東京の賃貸オフィスの賃料相場・空室率」(2026年8月データ)
建設物価調査会「建築費指数」(2026年8月分)
帝国データバンク「全国「社長年齢」分析調査(2025年)」
帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2025年)」
パーソル総合研究所「テレワークに関する調査(2026)」
辛・本郷税理士法人「新リース会計基準」解説

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公開:2026.09.28 05:55