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なぜレゾナックは「10年越し」で廃プラ事業を黒字化できたのか…家庭ごみと向き合った現場と、川崎市と組んだ循環の仕組み

2026.11.09 05:55 2026.11.08 23:46 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント

なぜレゾナックは「10年越し」で廃プラ事業を黒字化できたのか…家庭ごみと向き合った現場と、川崎市と組んだ循環の仕組みの画像1

●この記事のポイント
レゾナック(旧昭和電工)は2003年から、川崎で使用済みプラスチックをガス化してリサイクルする「KPR」を続けている。1日約200トンの家庭由来プラを水素・アンモニアに変えるこの事業を、日経ビジネスは「10年越しの黒字化」と報じた。製品販売と処理対価の二本柱、川崎市との一括回収連携、2030年の原料100%化計画を手がかりに、長期事業が成り立つ条件を読み解く。

「3年で芽が出なければ撤退」。新規事業の世界では、半ば常識のように語られる基準だ。その物差しを当てれば、とうに整理されていてもおかしくない事業が、川崎の臨海部で動き続けている。レゾナック(旧昭和電工)が2003年に始めた使用済みプラスチックのガス化ケミカルリサイクル、通称「KPR(川崎プラスチックリサイクル)」だ。日経ビジネス電子版は2026年11月4日、この事業について「10年越しの黒字化実現」と報じた。

●目次

「処理」ではなく「製造」として成り立たせる

 KPRが扱う使用済みプラスチックは1日約200トン、年間約6万トンにのぼる。2022年1月には累計処理量が100万トンを超えた。家庭などから出たプラスチックを高温でガス化し、取り出した水素はアンモニアの原料に、二酸化炭素はグループ会社でドライアイスや炭酸飲料向けの原料に回す。同社は、ガス化方式のケミカルリサイクルを長期にわたり商業的に安定運転しているプラントは世界でKPRだけだとしている。

 注目すべきは、環境対策の看板ではなく、収益事業として成り立った点だ。日経ビジネスによれば、同社はガス化製品の販売に加え、容器包装リサイクル法に基づく廃プラ処理の委託対価も得ており、「製品販売と処理費用の二本柱」で収益化にこぎ着けたという。ごみを引き取って対価を受け、そのごみから化学品をつくって売る。絵に描けば単純だが、この回転を20年以上止めずに回してきた例は、国内外を見渡してもそう多くない。

「廃プラのケミカルリサイクルは、技術的にできることと、商業的に回り続けることの間に大きな溝があります。原料の確保、製品の売り先、設備の稼働率。この3つがそろわないと採算は合わない。KPRはそれを時間をかけてそろえてきた、数少ないケースだと思います」(戦略コンサルタント・高野輝氏)

なぜ長い赤字を抱え続けられたのか

 社内でどんな議論があったのか。その詳細は公表されていない。ただ、公開情報をたどると、事業を支えた条件はいくつか見えてくる。

 まず、既存事業と地続きだったことだ。昭和電工は1930年に肥料の原料用として国産アンモニアの製造を始めた会社である。KPRで得た水素は、そのアンモニアの原料の一部を置き換える。市場を一から開拓する必要はなかった。つくったものの行き先を社内に持っていたことは、立ち上げ期の損益を考えるうえで小さくない。

 次に、外部からの評価が積み上がっていった。KPR由来の水素を使う同社のアンモニアは2015年、製造プロセスとして世界で初めてエコマークを取得し、「エコアン(ECOANN)」と名付けられた。同じ年には環境省の実証事業にも採択されている。

 そして何より、時代の物差しが変わった。2003年の時点では、KPRは「廃プラをどう処理するか」という問いへの答えだった。そこに後から「低炭素」という価値が加わる。同社は2022年、KPR由来のアンモニアは化石燃料を原料とするものに比べて、製造時の温室効果ガス排出が80%強少ないと、第三者機関の検証を経て発表した。

 この間、会社そのものは大きく姿を変えている。2020年に日立化成を買収し、2023年には社名をレゾナックに改めた。事業の重心を半導体材料へ移すなかでも、KPRは「サステナビリティ戦略を代表する事業のひとつ」と位置付けられてきた。2024年3月の稼働20周年式典で、髙橋秀仁社長は関係者を前に「20年の苦労を共にした皆さま」と呼びかけている。平坦な道のりではなかったことを、経営トップ自身が認めた形だ。

 長い赤字期間を「我慢」の一語で片づけると、大事なものを見落とす。撤退の判断を単年度の損益だけで下していたら、運転技術も原料の調達網も、育つ前に手放していた可能性が高い。

「長期の事業を評価するときは、その年の利益よりも『何が積み上がっているか』を見る物差しが要ります。運転のノウハウ、調達のネットワーク、制度や認証への対応力。こうした資産は財務諸表にはほとんど表れません」(同)

「扱いにくい原料」と付き合い続けた20年

 家庭から出る容器包装プラは、種類も材質もばらばらだ。汚れも異物も混じる。化学プラントが本来好むのは、成分のそろった原料である。その意味で、家庭ごみはもっとも引き受けたくない部類の原料だと言っていい。

 KPRでは、受け入れたプラをまず破砕し、異物を取り除いて小さな固まり(成形プラ)にする。それを「低温ガス化炉」と「高温ガス化炉」の2段階で、温度と圧力を調整しながら水素と二酸化炭素の合成ガスに変える。塩素を含むプラも分別せずに処理でき、過程で出るスラグや金属、塩、硫黄も資源として使う。ガス化技術そのものは、UBEと荏原製作所が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託で実証したものを導入している。

 ただ、実証で動くことと、毎日200トンの家庭ごみを相手に止まらず動き続けることは別の話だ。同社のサイトには、注射器や使い捨てカイロ、電池入りのおもちゃなど、処理できないものが具体的に並んでいる。裏を返せば、そうしたものが紛れ込みうる原料を、日々受け入れているということだ。

 安定運転は、設計図だけでは手に入らない。原料のばらつきに合わせて条件を詰め、トラブルのたびに手を打つ。その繰り返しが、後から参入する側には簡単に買えない資産になる。

「ガス化炉は、原料の性状が変われば挙動も変わります。家庭由来の廃プラは、季節や地域でも組成がぶれる。そのぶれを吸収する運転の勘所は、文書に落としきれない部分が多い。同じ設備を買っても、同じようには動かせないでしょう」(同)

 その蓄積は、すでに「売れる」資産として扱われ始めている。同社は20周年式典で、日揮ホールディングスを通じてプラスチックガス化のモデルを国内外にライセンス展開する取り組みを紹介した。2024年からは、使用済み衣料を原料に加える実証も始めている。

工場の外へ広げた循環――川崎市との連携

 プラントの採算を左右するのは、原料が安定して入ってくるか、つくったものが確実に売れるかだ。KPRの場合、この両端を工場の外、つまり地域とのつながりのなかで固めてきた。

 入口側では、川崎市の分別回収が大きく変わった。市は2024年4月に川崎区でプラスチック製品と容器包装の一括回収を始め、2025年4月に幸区・中原区、2026年4月には全市へ拡大した。プラスチック資源循環法に基づく再商品化計画で国の認定も受けている。市が回収・運搬し、Jサーキュラーシステム(JCS)が中間処理を担い、レゾナックがガス化して水素、アンモニア、アクリロニトリルに変える。市が掲げるのは、市内で回収したプラスチックを市内でリサイクルする「100%プラリサイクル都市」だ。2026年9月にはJCSが国際認証「ISCC PLUS」を取得し、先に取得していたレゾナックと合わせて、回収から製品までを追跡できる体制が整った。

 出口側では、2018年に開業した「川崎キングスカイフロント東急REIホテル」がわかりやすい。環境省の実証事業としてKPR由来の水素を燃料電池に使い、実証終了後の2023年11月には正式供給へ移行した。水素の一部は近隣プラントの化学原料や水素ステーションにも回っている。臨海部に工場が集まる川崎ならではの、地産地消の形と言える。

 次の一手も決まっている。同社は2025年10月、アンモニアの原料水素を使用済みプラ由来だけに切り替えると発表した。2030年4月の稼働開始を計画する。経済産業省の「価格差に着目した支援」には、需要家の日本触媒と共同で申請し、認定を受けた。2022年時点では、原料水素の半分は都市ガス由来だった。100%化には新たなプロセスの開発と導入が要る。公的支援をてこにした計画でもあり、実行できるかどうかはこれから問われる。

「市民の分別、自治体の回収、中間処理、化学メーカーの再商品化、そして製品を買う需要家。どこか一つが切れれば、循環は止まります。川崎の例は、一社の技術だけでなく、地域の合意と制度がかみ合って初めて事業が安定することを示していると思います」(資源循環政策を専門とする研究者)

参入障壁は「時間」でしかつくれないこともある

 日経ビジネスによれば、2026年3月には米国とイスラエルによるイラン攻撃を受けてホルムズ海峡が実質的に封鎖され、日本でも石油製品の調達が一時停滞した。廃プラを国内に眠る炭素資源とみる「都市油田」という発想は、環境対策の枠を超え、資源の調達リスクに備える意味も帯び始めている。

 KPRの歩みから読み取れることは、大きく三つある。撤退の基準を単年度の損益だけで決めないこと。現場にたまっていく運転の知恵を、資産として評価すること。そして、自社の工場だけで完結させず、自治体や取引先を巻き込んだ循環の仕組みをつくることだ。

 もちろん、このモデルをそのまま他の地域や企業に当てはめられるわけではない。既存のアンモニア設備があり、水素や炭酸ガスの使い道が近くにある。川崎臨海部という立地が果たした役割は大きい。それでも、「すぐに利益が出ない」ことと「価値がない」ことは別だという点は、業種を問わず通じる。

 サーキュラーエコノミーは、日本ではまだ「コスト」として語られることが多い。家庭ごみという扱いにくい原料と向き合い、地域と組んで事業として成り立たせたKPRの20年は、その見方に一つの反証を示している。2030年の原料100%化が実現するかどうか。その行方は、日本の資源循環が「稼げる産業」になりうるかを占う試金石にもなりそうだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)

【主な参照データ・出典】
日経ビジネス電子版「レゾナック、家庭の廃プラを「都市油田」に 10年越しの黒字化実現」(2026年11月4日、有料記事。無料部分と検索結果の要約のみ確認)
レゾナック「プラスチックのケミカルリサイクルによる低炭素アンモニア事業拡大を決定」(2025年10月6日)
レゾナック「川崎プラスチックケミカルリサイクル事業(KPR)設立20周年式典を開催」(2024年3月14日)
昭和電工「CO2排出量80%強削減を確認、使用済みプラスチックから生まれた低炭素アンモニア」(2022年12月20日)
レゾナック「KPR(ケーピーアール)とは」「KPR(ガス化手法)工程」「処理可能なプラスチック」
Circular Economy Hub「川崎市の使用済みプラ再商品化ルート、サプライチェーン全体でISCC PLUS認証」(2026年10月15日)
環境ビジネスオンライン「川崎市、プラ資源一括回収を3区に拡大」(2024年12月13日)
レゾナック「ホテルの燃料電池向けに低炭素水素の正式供給を開始」(2023年11月14日、リリースURL。本文未読、検索要約で確認)
川崎市「【令和8年4月から】「プラスチック資源」の収集を全市に拡大!」(2026年6月12日、検索要約で確認)

高野輝/戦略コンサルタント

大手総合商社を経て独立。流通・小売から食品・飲料、自動車、エネルギー産業など、多様な領域で経営コンサルティングサービスを提供。

公開:2026.11.09 05:55