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訪日客は2.9%減でも消費は増加…1人23万円時代のインバウンドで何が起きているか

2026.11.02 05:55 2026.11.01 19:00 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯浅郁夫/観光政策アナリスト

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●この記事のポイント
2026年1〜9月の訪日外客数は前年同期比2.9%減の3073万人でした。一方、7〜9月期の旅行消費額は3.2%増の2兆2076億円、1人当たり支出は6.1%増の23万3677円に伸びています。中国客の急減後も単価を押し上げた「インフレ消化力」と、統計に映りにくい体験消費や地方滞在の動きを、観光庁などの公的統計から読み解きます。

 訪日客の数が、伸びなくなった。日本政府観光局(JNTO)によると、2026年1〜9月の訪日外客数は3073万200人で、前年同期を2.9%下回った。過去最高の4268万人を記録した2025年から一転、今年は9カ月のうち6カ月が前年割れだ。

 ところが、お金の流れは細っていない。観光庁「インバウンド消費動向調査」によれば、7〜9月期の訪日外国人旅行消費額は2兆2076億円(1次速報)で、前年同期比3.2%増。1〜3月期、4〜6月期と合わせた1〜9月の合計は約7兆574億円となり、前年同期を約1.9%上回る(各期の速報値を筆者が単純合計)。

 人は減ったのに、消費額は増えている。その差を埋めているのが1人当たりの支出だ。7〜9月期の1人当たり旅行支出は23万3677円と、前年同期から6.1%伸びた。

 円安の追い風が弱まったとき、訪日客はそれでも財布を開くのか。ドラッグストアの「爆買い」が話題にのぼらなくなった今、彼らは何にお金を払っているのか。統計の数字と、統計に映りにくい現場の動きの両面から整理してみたい。

●目次

「頭打ちでも微増」の仕組み

客層が入れ替わっても、単価は上がった

 今年の訪日市場で最も大きな変化は、中国からの客の急減だ。1〜9月の累計は前年同期比55.5%減。JNTOは9月の発表で、中国政府から日本への渡航を避けるよう注意喚起が複数回あったことを要因に挙げている。代わって韓国(同21.6%増)と台湾(同19.1%増)が伸びた。

 ここで注目したいのは単価だ。7〜9月期の1人当たり支出は、中国が29万4560円、韓国が11万3959円。単価の高い市場が縮み、低い市場が膨らんだのだから、本来なら平均は下がるはずだ。実際には平均が6.1%上がった。国・地域ごとに見ると、中国が22.1%、韓国が13.4%、台湾が9.6%、フランスが22.6%と、それぞれの市場の中で支出が増えている。客層が入れ替わった効果より、「同じ国の客が以前より多く払う」効果のほうが大きかった、と読める。

 背景の一つは国内の物価だ。総務省の消費者物価指数(2026年9月)では、総合が前年同月比2.1%上昇したのに対し、宿泊料は4.6%、外食は2.5%上がった。JNTOが「多くの市場において円安傾向が継続している」と注記するように、外貨で見れば値上がりの痛みは円建てほど大きくない。日本側の値上げを訪日客が受け入れ、その分が支出額を押し上げたと考えられる。本稿でいう「インフレ消化力」とはこの状態を指す。

「1人当たり支出の伸びを、そのまま旅行の質が上がった証拠と読むのは早い。価格の上昇分と、滞在や体験が深まった分を分けて見る必要がある」(観光政策アナリスト・湯浅郁夫氏)

滞在は「長くなり続けている」わけではない

 平均泊数は2019年の8.8泊から2025年には9.5泊へと延びた。ただ、今年は4〜6月期が8.6泊(前年同期差0.8泊減)、7〜9月期が10.3泊(同1.2泊減)と短くなっている。「滞在が伸びたから単価が上がった」という説明は、少なくとも今年に関しては当てはまらない。1泊当たり、あるいは1日当たりの支出が増えたと見るほうが実態に近い。

費目の主役は「買物」から「宿泊」へ

 長い目で見ると、お金の使い道は大きく変わった。

費目(構成比)  2019年  2025年  2026年7〜9月期
宿泊費      29.4%  36.6%   35.2%
買物代      34.7%  27.0%   27.7%
飲食費      21.6%  21.9%   22.9%
交通費      10.4%  10.0%   9.9%
娯楽等サービス費  4.0%  4.5%   4.3%
出所:観光庁「インバウンド消費動向調査」(2026年7〜9月期は1次速報)

 2019年には買物代が最大の費目だったが、2025年には宿泊費がそれを大きく上回った。ただし「買い物は終わった」とまでは言えない。7〜9月期の買物代は前年同期から約11%増え、構成比もやや戻した。量をまとめ買いする消費が目立たなくなった一方で、何を買うかの中身が変わっている可能性がある。その中身は、費目別の集計からは見えない。

統計に埋もれる「ステルス高単価消費」

「コト消費」が言われて久しいが、統計上の娯楽等サービス費は全体の4%台にとどまる。7〜9月期は前年同期より約11%減ってもいる。数字だけを見れば、体験消費は「小さく、伸びてもいない」。

 ただし、この費目は体験にかけたお金のすべてを捉えているわけではない。酒蔵を訪ねて試飲し、その場で一升瓶を買い、近くの宿に泊まる。旅行者にとっては一つの体験でも、支出は買物代や宿泊費に分かれて計上されやすい。目的が「体験」でも、統計上は「買い物」「宿泊」に入る。本稿が「ステルス」と呼ぶのはこの部分だ。観光の現場では、主に次の3つの型が語られている。

①「専門家の時間」を買う

 刀剣の鍛錬工房の見学、酒蔵の貸し切り見学と試飲、茶室での少人数の茶事。共通するのは、伝統工芸の職人や杜氏、茶人といった「その道の人」が数時間を割くことだ。予約制で少人数に限られるため、価格は一般的なツアーとは別の物差しで決まる。参加者が払っているのは、施設の入場料ではなく、専門家を独占する時間だ。

②目的を絞った「現物買い」

 百貨店の高級ブランド品だけでなく、中古カメラやビンテージ楽器、レトロゲーム、職人向けの工具といった、自国では手に入りにくい品を狙って来る客がいる。店を事前に調べ、商品の状態を実際に見て決める。量よりも「これでなければ」という一点にお金を使う点で、かつてのまとめ買いとは性格が違う。統計上はどちらも「買物代」として一つになる。

③地方直行とリピーターの滞在

 地方への広がりは、数字にも表れている。観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、2025年の外国人延べ宿泊者数は、三大都市圏が前年比5.1%増だったのに対し、地方部は19.1%増。客数が減った2026年8月も、三大都市圏の15.6%減に対して地方部は4.9%減にとどまり、地方部のシェアは35.9%と前年同月から2.7ポイント上がった。

 スノーリゾート、瀬戸内の島々、古民家を改装した宿。移動の手間や言葉の壁があっても、そこにしかない景色や静けさを求めて足を運ぶ客がいる。都市部の定番を一通り見たうえで、次の行き先を探す人たちだ。

「地方で単価が上がるのは、都市部と同じものを高く売ったときではない。ここでしかできない理由を、体験と宿と食事で一続きに示せたときだ」(同)

単価頼みに潜むリスク

 単価で客数の減少を補う構図には、弱点もある。少なくとも3つを指摘しておきたい。

①価格と品質のずれ

 客室料金や食事代が上がれば、客が求める水準も上がる。人手が足りず、清掃や接客、多言語での対応が追いつかなければ、「高いわりにこの程度か」という印象が残る。口コミで宿や店を選ぶ客が多い今、その印象は次の予約に影響する。

「値上げ自体は問題ではない。客が不満を持つのは、料金が上がったのに何も変わっていないと感じたときだ」(同)

②為替と外部環境

 円高に振れれば、同じ円建て価格でも外貨では割高になる。これまで値上げが受け入れられてきたのは円安で相殺されていた面もあり、その前提が崩れたときにどこまで需要が持ちこたえるかは、まだ検証されていない。

 為替以外の要因も大きい。JNTOは9月の減少要因として、中東情勢による航空券価格の上昇や航空便の減便を挙げている。2025年に消費額の21.2%を占めた中国市場は、今年7〜9月期に前年同期比39.8%減となった。特定の市場への依存は、需要を一気に失うリスクと表裏一体だ。

③地域と事業者の二極化

 単価が上がっているのは、平均の話だ。独自の体験や宿を通じて価格に見合う価値を示せる事業者がいる一方、安さで客を集めていた事業者は、客数が減る局面で影響を受けやすい。平均値の上昇は、こうした差を内側に抱えたまま進む。

「何人来たか」から「どれだけ深く関わったか」へ

 政府が2026年3月27日に閣議決定した新たな観光立国推進基本計画は、2030年に訪日客6000万人、消費額15兆円という目標を据え置いた。その一方で、地方を訪れる意欲の高いリピーターの数や、地方部の延べ宿泊者数、オーバーツーリズムの抑制に関する目標を新たに加えている。人数だけでは測れないものを、国も指標に取り込み始めたと言える。

 ちなみに15兆円を6000万人で割ると、1人当たりは25万円になる。今年4〜6月期の1人当たり支出は24万4733円で、この水準にかなり近づいている。客数が伸び悩む局面でも、消費額を支えるのは単価だ。

 ここから読み取れることは二つある。一つは、誰にでも合う観光資源を安く売るより、特定の趣味や関心を持つ人々が「これのために行く」と思える中身を作るほうが、客数の減少にも強いということ。もう一つは、「何人呼ぶか」だけでなく、「1人にどれだけ長く、深く、何度も関わってもらえたか」を測る必要があるということだ。企業で言えば、新規獲得数より顧客生涯価値(LTV)を重んじる発想に近い。

 客数の前年割れを、そのまま「観光の失速」と読むのは早計だ。ただし、単価の伸びには物価上昇の影響も含まれ、為替や国際情勢でも左右される。今の数字が示しているのは、余裕ではなく、訪日客が価格に見合う価値をより強く求め始めたということだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯浅郁夫/観光政策アナリスト)

【主な参照データ・出典】
日本政府観光局(JNTO)「2026年9月 訪日外客数(推計値)」(2026年10月21日発表)
JNTO「国籍/月別 訪日外客数(2003年~2026年)」
観光庁「インバウンド消費動向調査」2026年7〜9月期(1次速報)、2026年4〜6月期(2次速報)、2026年1〜3月期(2次速報)、2025年年間(確報)、2019年年間(確報)
観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年(確定値)、2026年8月(第2次速報)
総務省「消費者物価指数 全国 2026年9月分」(2026年10月23日公表)
観光庁「観光立国推進基本計画」(2026年3月27日閣議決定)

BusinessJournal編集部

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公開:2026.11.02 05:55